ネガティブエミッション実現への挑戦を、業種や立場を超えて熱く議論!
GXの実践促進に向けて、賛同企業が議論したいテーマのもと自由な交流を行う「GXスタジオ」。4回目のスタジオが2022年12月16日に開催されました。
今回のテーマは、真のCN実現に不可欠なGXイノベーション「ネガティブエミッション」。師走の慌ただしい時期にもかかわらず、オフライン・オンライン両会場に多くの参加者が集まりました。開始前から名刺交換や雑談が始まるなど、これまで以上に熱を帯びた雰囲気に包まれました。
課題感の共有
ディスカッションに先立ち、課題・疑問の意識を全体共有。事前アンケートからは「費用対効果」「ビジネスとして行う意義」「環境配慮・一次産業従事者との関係」といった点が主な課題として挙げられました。実際の削減効果が実証されていない中、ネガティブエミッション技術に対する先駆的な投資や導入、合意形成を進める難しさに直面していることがわかります。
こうした課題を踏まえた上で、すでに行われている事例として賛同企業から4社が登壇し、各社の取り組みを広く紹介しました。
賛同企業4社によるプレゼンテーション
■住友林業
国内外合わせて約28万ヘクタールの森林を保有・管理する住友林業は、森林のCO2吸収・固定機能を活用したネガティブエミッションを推進しています。海外では森林減少が問題になっており、保護・拡大が必要な一方、日本では森林の高齢化によるCO2吸収量減少が課題であることから、各国の事情に合わせた事業を展開しています。
具体的には、植林と伐採のサイクルを回し、安定的な木材生産と森林の若返りを目指す「経済林」と生物多様性等の公益的価値を重視する「保護林」のゾーニングを行った上で、循環型森林ビジネスを国内外で進めています。
同社が培ってきた森林管理ノウハウを生かした森林経営コンサルティングのほか、IHI社の持つ高い衛星観測・分析技術とのコラボレーションによる宇宙からの森林管理技術の構築にも取り組んでいます。また、この技術を用いて質の高い炭素クレジットを創出するグローバル森林ファンドの組成も目指しています。
同社の特長は国内外で森林経営から木材建材の調達・加工、木造建築、木質バイオマス発電まで、「木」を軸としたバリューチェーン「ウッドサイクル」を回す事業活動。「ウッドサイクル」を回すことで、森林のCO2吸収量を増やし、木材活用で炭素を長く固定し続け、脱炭素社会の実現に貢献していきたいとしています。
同社新事業戦略開発室 事業戦略グループの石村藤夫 グループマネージャーは、「木の持つ力が重要な鍵になる。林業と名のつく歴史ある会社として、自然資本の価値化にも取り組み、環境保全と企業成長の両立を目指していきたい」と述べました。
■川崎重工業
川崎重工業は、2030年を目標に、水素発電を軸とした自主的な取り組みによって自立的なカーボンニュートラル実現を目指しています。同社は、カーボンニュートラル社会実現に向け、排ガスからCO2を分離回収するだけでなく、大気中のCO2を回収・活用するため、「DAC(Direct Air Capture)」をキーテクノロジーとして推進しています。
DACはすでに実証試験を完了しており、大気から1000時間以上連続でCO2を分離回収し、さらに、回収したCO2はほぼ100%の高純度であることが確認されています。同社経営企画部の安部崇嗣 技術戦略課長は、「低温かつ少ないエネルギーでCO2を分離回収できるので、再エネや未利用排熱などを利用してDACを実現できる」と話しました。
米国のインフレ抑制法によってDACの経済性が大幅に改善していることから、北米を中心に今後急速な市場拡大が見込まれているといい、「現段階ではコストが課題だが、広く普及していくことでコストダウンを図れるのではないか。ぜひ、各業界・企業のみなさまと一緒に推進し、カーボンニュートラル実現を目指していきたい」と、共創を呼びかけました。
■三菱商事
三菱商事では、多産業に関わる総合商社としての強みを生かし、技術由来のネガティブエミッション普及に向けた取り組みを進めています。普及拡大に向けた課題として、同社EXタスクフォース カーボンマネジメントチームの小川真生 統括マネージャーは、技術がある程度確立しており、大量購入されればコストダウンにつなげられると考える供給側に対し、需要側は価格が安ければ大量購入できると考えているため、市場が“鶏と卵”状態にあることを挙げました。「コストを下げて供給量を増やしていくには、大企業が投資するだけでなく、民間主導でのカーボンインセンティブの仕組みが必要」とし、同社が取り組む「NextGen CDR Facility」について紹介しました。
世界最大のカーボンクレジット開発・販売会社であるスイスのサウスポール社と協働で行うこの取り組みは、先行的なクレジット購入を視野に入れる需要家を集約し、供給者とマッチングさせることで供給者の経済性向上に寄与し、ネガティブエミッション技術の普及拡大を促進するというもの。すでにさまざまな企業と契約交渉を進めており、小山氏は「取引スキームの確立と整備を一歩一歩進めていきたい」と意気込みを示しました。
■商船三井
社会課題の解決に貢献する企業を目指し、事業を通じて5つのサステナビリティ課題に取り組む商船三井。ネガティブエミッション実現へ、2022年1月にカーボン事業チームを立ち上げ、カーボンクレジットを用いて自動車輸送船やEVタンカー回航時のカーボンオフセット航海を実施してきました。また、インドネシアのブルーカーボン・プロジェクトに参画し、マングローブの再生・保全事業や現地住民の生活支援を通じて、人と自然が共生する持続可能な社会づくりを支援しています。
同社はこのほか、前述の「NextGen CDR Facility」にFounding Buyerとして参加していることに加え、脱炭素技術の需要喚起を目的として米国で設立されたプラットフォーム「ファースト・ムーバーズ・コアリション(FMC)」に日本企業として初参画。参画のメリットとして、同社エネルギー営業戦略部 カーボン事業チームの加藤利哉主任は「世界中の企業とのネットワーク構築や情報共有ができるだけでなく、自社の取り組みを発信する機会が増えた」ことを挙げました。こうした取り組みに積極的に参加することで事業領域を拡大・深化できる可能性があるとし、「社会的な問題解決につながる新たな事業機会を探索していきたい」と語りました。
各社はどんな課題を抱えている?
イベント後半はグループディスカッションを実施。オフライン、オンラインそれぞれで5人前後のチームになり、自己紹介しながら自由に語り合います。テーマが「ネガティブエミッションに取り組む上での各社の課題感」とあって、議論はすぐさま白熱していきます。身振り手振りや共感の相槌が会場のあちこちで見られ、大いに盛り上がりました。
20分間のディスカッションの最後には、話し合った内容を全体で共有。
・炭素を固定する手法をもっと考えないといけない
・需要と供給も課題である中、生物多様性との両立が課題になってきそう
・森林クレジットには付加価値が必要ではないか
・社内で合意形成を得るためにも、まず1例を作っていくことが大事
といった意見が挙がったほか、現在まさにGXリーグが取り組んでいるルール設計について、日本企業全体が意識を変えていく必要性への言及もありました。課題が多い中でも「道筋を作っていく上で正解はない。一歩踏み込んでいくことが大切」という力強い言葉も寄せられ、GXリーグの活動に対する期待がうかがえました。
技術提供者、需要家、需要と供給をつなぐ役目と、さまざまな立場からネガティブエミッション実現へのアプローチが紹介された今回のスタジオ。経済産業省の中山竜太郎氏は、「今後、ご自身の事業でどのようなレイヤーで関わっていくのか、参考になったのでは。ディスカッションで共有した課題は、まさに連携の取手となる部分。ぜひ話し合ったものを持ち帰っていただき、今後の連携につなげていただきたい」と締めくくり、イベントは盛況のまま終了しました。
賛同企業の関心と熱意の高さがうかがえた4回目のGXスタジオは、閉会後も時間の許す限り交流する様子がみられ、充実した時間となりました。次回はディスカッションをメインに2023年1月中旬の開催を予定しています。