現実の反対は仮想じゃないという話

現実の反対は仮想じゃないという話


落合陽一教授(筑波大学学長補佐) が前に「現実の反対は仮想ではない。実質だ」という旨のことを言っていました。

僕はそれを聞いて膝を打ちました。
ほんの少し前までは、現実というと、スーパーで買い物をしたり、子供のオムツを変えたり、なんていうこと。その反対に、そんな日常を離れたハリウッド映画や小説の仮想がある、と感じることがふつうだったと思います。
ですが、仮想をつくるインターネットと、それにPCやスマートフォンで接続することが当たり前になってから、仮想世界が登場し、それが旧来の現実に侵食してきました。仮想に侵食された世界は、既に現実でなく、実質になった。
たとえば、Amazonがない世界を想像しましょう。買い物はどうすればいいんだろう? と困惑する状況が多発します。
たとえば、Twitterが無い世界を想像しましょう。Trumpのデマは世界中に届かなかったでしょう。

仮想世界は、もはや仮想ではなく、実質世界なのです。

そもそも、実は僕たちはすでに仮想世界に住んでいます。街です。
『君の名は。』(2016)では、田舎から新宿に出てきた主人公が「毎日お祭りみたい」というシーンがあります。ほとんど想像の産物であるところの街を見たことのない高校生にとって、東京の街はお祭り=ハレ=非日常だった。都会にいる僕たちはことばによってつくられた仮想世界に住んでいるということです。
新宿ではいかにも堅い東京都都庁の真横に風俗街が隣接している。街が人の思念を反映した産物だとすれば、これは複雑な人の心理を映し出したわかりやすい例だと思います。

それで、いま仮想と呼ばれているものがインターネットに接続され当たり前になっていく世界はどんな風になるでしょうか? 

僕は、スティーブン・スピルバーグの”Ready Player One”(2018)が現実味のあるモデルだと思います。
今作品の中に存在する仮想世界「オアシス」は、天才プログラマージェームズ・ハリデー
によりつくられました。人々はVRキットを通してオアシスに接続し、理想の姿になってゲームをたのしみます。ハリデーはオアシスにイースターエッグを隠し、発見者に56兆円与えると残したので、一般人から大企業までオアシスに夢中になっています。

ここで着目すると面白い点は、オアシスがゲームを基盤とし、賞金を争う構造になっていることです。
仮想世界が実質世界になっていく端緒は、金や欲を求める人の心から始まるから、オアシスのような仕組みから爆発的に移行が始まるのかもしれません。

当然にもきこえますが、ことばで街や世界は変えられるし、世界をつくることもできる。
それに生きていてこれから関われてゆけるというのはおもしろいです。

(2020.12.15  ある媒体に掲載)

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