消えたThe Deckの謎
1.はじめに
MTGの長い歴史を見渡しても、The Deckほど伝説のヴェールに包まれたデッキはそうないだろう。曰く、「カード・アドバンテージの概念の体現」「最古のコントロールデッキ」。
黎明期のMTG(あるいはカードゲーム)が、クリーチャーを出しあい、ライフを削りあう戦いだったとするならば、コントロールという概念を生み出したこのデッキの歴史的な意義は極めて大きく、その名声は、誕生から四半世紀が経った今でもいささかも衰えることはない。
さて、このThe Deck、実はオールドスクールではほとんど当時の姿のまま使うことができる(※禁止・制限による多少の違いはあり)。そのため、いささかの誇張も含め、The Deckは一般に「オールドスクールの王者」という呼ばれ方をされる。
しかしながら――皆さんもご存知の通り――The Deckは旧作杯で十分な結果を残せていない。というより、旧作杯Vol.4では事前のメタゲームで全く有力視されず、実際40名中2名しか選択しないという、ほとんど絶滅危惧種のような扱いになってしまった。
なぜ、かつて「The Deck」とまで呼ばれたデッキがこうした苦境に立たされているのか?本稿では、個別のゲームの勝敗を離れ、この謎を追ってみたい。
2.The Deckの概要
まず、The Deckというデッキの構造について考えてみよう。
若干分かりづらいものの、The Deckの基本的な骨格はクラシックな青白コントロールである。
致命的な脅威を《対抗呪文》でカウンターし、脅威度が低いものは着地後に《剣を鍬に》《解呪》で排除、マナを伸ばして《ジェイムデー秘本》で手札を増やし、《セラの天使》でフィニッシュする――この血脈は後の世にも長く受け継がれた。それはカウンターポストであり、ミルストーリーであり、Caw-Goであり、現代のエターナル環境にもその姿を見ることができる。
The Deckが特徴的なのは、黒・赤・緑の3色をタッチしている点である。なぜマナベースを不安定にしてまで3色をタッチするのか?それはタッチしたカードを見ればわかるだろう。
黒・・・《悪魔の教示者》《精神錯乱》
赤・・・《赤霊破》
緑・・・《新たな芽吹き》
《悪魔の教示者》は《Ancestral Recall》をサーチし、《赤霊破》は相手の《Ancestral Recall》へのカウンター、《新たな芽吹き》は《Ancestral Recall》の再利用。つまるところThe Deckは環境最強のカードである《Ancestral Recall》をいかに使い潰すかに力点が置かれているデッキである(単体ではカードパワーの低い《回想》が採用されている点からも明らかだろう)。
環境的なThe Deckの最大の強みは、MTG黎明期におけるスペルとクリーチャーのカードパワーのアンバランスさにある。
パワー9はもちろん、《対抗呪文》《剣を鍬に》《解呪》といったカード群が現代のエターナル環境でも使用に耐えうるのに対し、 《サバンナ・ライオン》《セレンディブのイフリート》《アーナム・ジン》達がお呼びにかかることはないだろう。
歴代最高クラスのスペルでもって受けに回り、相対的に弱いクリーチャーを捌いてゆっくり勝利する――論理的に考えるならば、この戦略は極めて妥当であるかのように思われる。
では何故The Deckは消えてしまったのだろうか?
3.誰がThe Deckを殺したのか?
(1)《露天鉱床》
まず第一の犯人は《露天鉱床》である。
ヴィンテージの制限カードはオールドスールでも制限カードである――《Ancestral Recall》にせよ《Black Lotus》にせよ、彼らはあまりにも壊れているのだから当然だ。その唯一の例外が《露天鉱床》だ(※ただし、ルールによっては制限カード)。
CFBルールにおいて《露天鉱床》が制限カードではない理由は、おそらく、クリーチャーが弱い世界で、アグロデッキの隆盛を助けるためだと考えられるが、4枚投入された《露天鉱床》はThe Deckの環境支配を打破するどころか、コントロールをメタの中心から弾き飛ばしてしまった。
《露天鉱床》がコントロールにとって致命的である理由を考えてみよう。
①コントロール
そもそも論、コントロールとはどういうアーキタイプなのだろうか。ごく単純に言えば、コントロールは「重くて強い」デッキである。
例として、レガシーのURデルバーの《秘密を掘り下げる者》とミラクルの《精神を刻む者、ジェイス》で考えてみよう。
単体で比べるなら、《精神を刻む者、ジェイス》の方が明らかに強い。しかし、《精神を刻む者、ジェイス》は4マナなので、1ターン目から3ターン目までは活躍することがない。逆に、《秘密を掘り下げる者》は1ターン目から出していける点が強みだが、4マナ出せる状態であればごく平凡な選択肢にしかならない。
要するに、コントロールはゲームレンジを長くすることで、自分の強力なカードを使えるようにし、相手にマナフラッドを強いているわけだ。コントロールの中核にある理念は土地の伸びであり、故にミラクルは、デュアルランドが使える環境にもかかわらず、《不毛の大地》を嫌って基本地形を優先する。逆にURデルバーは《不毛の大地》と《目くらまし》でもって序盤を長く続けることを狙っている。
大げさに言えば、《不毛の大地》《露天鉱床》はアグロ側がコントロールに対して使える《Time Walk》なのだ。
②5色デッキ
状況をさらに悪くしているのは、The Deckが前述したとおり5色デッキであるという点だ。マナベース上の青青、白白の要求に加えて赤・黒・緑を用意しなければならないため、《真鍮の都》にかかる負担が極めて大きい。ここを叩かれた場合、手札に《悪魔の教示者》や《新たな芽吹き》が腐り、そのまま負けることもしばしばである。逆に《Tundra》を叩かれて《真鍮の都》からマナを出さざるを得ず、ライフ差を詰められて死ぬ、というケースもある。
③《Library of Alexandria》
《露天鉱床》は《Library of Alexandria》の対策にもなっている点も見逃せない。The Deckは《Library of Alexandria》を最もうまく使えるアーキタイプであり、序盤からの追加ドローは数少ないThe Deckのハメ技なのだが、《Library of Alexandria》は(さすがに)制限カードであるため、《露天鉱床》が4枚使える世界では現実的にはほとんど成功しない。
(2)《Order of the Ebon Hand》
さらにThe Deckにとって直接的な脅威となるのが《Order of the Ebon Hand》である。このカード、MTG wikiでも大して触れられておらず、「いったい何者?」と思う人もいるかもしれない。しかし実のところ、このカードこそがオールド世界最強のクリーチャーである。
いったい何がそこまで脅威なのだろう?
第一にして最大の問題が「プロテクション(白)」である。前述のリストを思い出してほしいのだが、The Deckは除去を《剣を鍬に》、戦闘を《セラの天使》に頼っている。・・・つまり?
ごく単純に言えば、(対策カードを取らない限り)The Deckは《Order of the Ebon Hand》を除去することもブロックすることもできない。これはThe Deck側が何枚ドローしようが関係ない。
次にパンプアップ能力。《Order of the Ebon Hand》はクロックがとにかく早い。黒単は《トーラックへの賛歌》《陥没孔》《露天鉱床》で相手をグダらせている間にクロックを稼ぐデッキなので、手札が空になった後で余ったマナを注げる《Order of the Ebon Hand》は最適なのだ(余った《暗黒の儀式》も投げられる)。さらに先制攻撃+パンプアップの組み合わせで《ミシュラの工廠》を突破することもできる。
よりポピュラーな《黒騎士》と比較しても、黒単においては《Order of the Ebon Hand》はさまざまな点で優れている。環境にパワー1のクリーチャーがいないため、タフネスが下がったことはデメリットにならない
The Deckから見れば《Order of the Ebon Hand》はまさに《真の名の宿敵》なのである(しかも黒騎士と8枚体制だったりする)。
余談だが、《Order of the Ebon Hand》は過去の世界から「再発見」されたカードであるように思う。元々《Order of the Ebon Hand》は《黒騎士》及び同型再販である《ストロームガルドの騎士》と共に黎明期から活躍していた由緒正しいカードだが、長い年月の中で忘れ去られていた(なんといってもその活躍は四半世紀以上前の話だ)。
調べたところ、旧作杯Vol.1では《Order of the Ebon Hand》はメインデッキに5枚(18名中2名)しか採用されていない(ちなみにそのうち3枚は龍之介氏だった)。
その後の旧作杯での黒単の圧倒的な活躍はご存じのとおりであり、それに伴って、《Order of the Ebon Hand》も国内プレイヤーに急速にその実力を認知されることとなったのである。
(3)《黒の万力》
それでは、The Deckは黒単以外のデッキに対しての相性はどうなのだろうか?その場合に問題になってくるのが《黒の万力》である。
The Deckは《対抗呪文》《剣を鍬に》を始め、デッキの大部分がリアクティブなカードで占められている。相手の脅威に対抗するために当然なのだが、The Deckはプロアクティブにカードを使うことができないため、先行して《黒の万力》を置かれたあとで盤面展開を抑えられると、手札のカードを十分に使い切ることができず、毎ターンダメージを食らってしまう。
「The Deck側にも《象牙の塔》があるではないか?」と思われる方もいるかもしれない。しかし、The Deckにとって《象牙の塔》というサイドは「負けづらくする」という意味しかなく、メイン戦略足りえない。「バイスデッキ」がメイン戦略として《黒の万力》を4枚確定で積んでくるのに比べて、The Deckが《象牙の塔》を4枚積むことはまれなため、非対称性が発生するのである。
エイトグやバーンのようにバイス戦略をメインに据えたデッキも存在するが、《黒の万力》は自体が無色1マナのアーティファクトであるため、どんなデッキもサイドからカジュアルにタッチできる点も魅力である。
前述した黒単デッキがオールドのメタの中心であることから、The Deckは「手札を削りに来る」「手札が多い状態をキープさせる」というメタ上で別方向の脅威に同時に対抗しなければならない点がつらいところだ。
4.終わりに
さて、ここまでThe Deck側から見た景色を解説してきた。
現代のオールドスクールでは少しずつリストがシェイプアップされ、徐々に高速化している。その中で、The Deckの2022年現在の評価は、ありていに言って「デッキパワーの絶対値は高いが、メタゲームに合っておらず、とにかく勝ちづらいデッキ」というところだ。
黒単の隆盛はもちろん、コントロールとしては赤黒の「Troll Disco」の方が有力視されているし、青白系のデッキとしても、全体的により速く、攻撃的な方向へ流行がシフトしている。以下にサンプルデッキを掲載する。
個人的にずっと思っているのは、現代オールドスクールは「初手《トーラックへの賛歌》で土地が抜かれてGG」の恐ろしくハードボイルドな世界であり、その中で《対抗呪文》を構えながら《ジェイムデー秘本》で手札を増やして勝利する・・・などというのはあまりに気の長い話なのではないだろうか?ということだ。
多分そうなのだろう。それでも私がThe Deckを使い続けているのは、単に前に向かって走るよりも、後ろ向きに全力疾走する方が好きだからだ。カジュアルなフォーマットなのだから、自分の性癖に添い遂げるのも悪くない。
さてさて、ここまで駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
最後になりますが、上記の分析と前回までの経験を踏まえて、「もし次の旧作杯に出るなら?」という仮定でデッキを組んでみました。
それでは皆様、素晴らしいオールドライフを!