なんでもない猫のはなし
なんでもない猫のはなし。オチのないただの思い出ばなし。
猫と暮らしていた頃、押し入れの隅っこをエサをしまっておく定位置にしていた。押し入れは木製の引き戸で、開け閉めをすると普通の襖より大きな音がする。朝から布団をあげたらそのあと反対の戸を開けてカリカリのごはんを皿に入れてあげるのがきまり。
病院に連れて行く日に絶食を言い渡されていたとき。猫は押し入れの音がするたびに飛んでくるけどごはんは貰えず、ずっと足元にすりすりくっついて回ってニャーニャー(おなかすいたよー、ごはんちょうだいー)と鳴く。こちらもツラくて(ゴメンねー、今日はあげられないんだよー)と心の中で謝って堪えていたのだけど、彼女が最後の抵抗で私の足にガブッと噛みついた。アキレス腱の少し上あたり。
「ねぇねぇ、ごはんちょうだいよー」が、「あーも!腹減ったっていいよるやろうが!食わせろー!」に変わった瞬間だった。