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第二巻 巣立ち  6、入学式で

6、入学式で

※この小説は、すでにAmazonの電子版で出版しておりますが、より多くの人に読んでいただきたく、少しづつここに公開する事にしました。

 練馬高校は、新設三年目に入ったところで、やっと自前の校舎が完成するところだった。しかし、それが少し遅れていて、入学式は都立五商の校舎を借りていた。惨めな入学式だった。入学式が終わると、各クラスに分かれて担任からいろいろ心得を教わった。担任は川田さんと言って小柄のがっしりした先生だった。

新校舎の完成が遅れていて、二週間ほど五商の校舎を借りて授業をするとのことだった。ついては、申し訳ないがその期間は通学定期が買えないと言われて、耳を疑った。「学校に通っていて、何で通学証明書が出せないんだ! そんな馬鹿な話があるか」と、俺は思わず立ち上がって、川田先生に噛みついた。「君の気持ちはよくわかる。我々も東京都と何回も話し合いをしたが、認められなかった。本当に申し訳ない」、川田先生は本当に申し訳なさそうだった。

でも、俺はそれでは済まなかった。俺は通学定期が買えないと、電車賃やバス代が倍以上になる事を気にしていた。それもあって、俺は言ってはいけない事を口走ってしまった、「あなたでは埒があかない、校長を出せ!」と。今考えれば随分と呆れた話だったが、、、。俺は、川田先生が、怒り狂うことを想定していた。ところがである、川田さんは全然怒らなかった、微笑んでいただけなのである。俺はこの時、川田さんを大物だと思った。

これが練馬高校で最も尊敬していた川田先生との初めての出会いであった。練馬高校のトップクラスは、ほとんどが希望の高校から落ちてきた者でたぶん元気がなかったのだろう。そんな中で、高校受験で落ちてきたくせに、随分元気な奴だと思ったのだろう、何となく川田先生は嬉しそうに見えた。後で伊山と親友になるのだが、伊山はこの時の様子を逐一見ていて、おっそろしく元気のいい奴がいる、入って早々に担任に噛みつくなんて呆れた奴だとよく言っていた。伊山の親は高校の先生だった。

 練馬高校は、その多くの先生が昔の東京教育大学、今の筑波大学出身で、教育に熱心な先生が多かった。建物も新しいし気持ちが良かった。俺にはとても自由で相性の良い高校で、俺は大好きだった。人生すべて、塞翁が馬だ。

 不遜にも 入学式で逆らった 俺を見ながら 笑う担任

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