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わたしは君のことを知らない

45にもなれば、街で過去の知人に声をかけられることの1度や2度は経験があるやん? かくいうワシも、先日突然、街で声をかけられてん。

「おい、お前! 大ちゃんだよな、大ちゃんだろ?!」

ワシは困ってしまった。
なにせわたしは「大ちゃん」ではないのだ。
どちらかと言えば、ぐず夫ちゃんなのである。

「大ちゃんだろ? やっぱり大ちゃんだよな! 懐かしい、やっぱり俺たちの大ちゃんだ!」

ちと待て。「俺たちの大ちゃん」なんて呼ぶくせに、「おいお前!」て。
本音を言えば、ワシはこの瞬間にも手が出そうになった。でもなんかおもろい予感がしたので、この瞬間からワシは大ちゃんになった。紛うことなき大ちゃんである。

「俺さぁ、最近こっちに出てきたんだ。大ちゃんはもう大阪長いのか?」

コイツの中で、大ちゃんは一体どの時点の「俺たちの大ちゃん」なんやろか。仕方ない。探りを入れたろやないか!

「もう20年大阪にいるよ。お前は?」

イントネーションのおかしな標準語で聞いたったよ。ワシ、色んな地域に住んでたことあるけど、どっちか言えば関西弁寄りですからね。それをグッと隠したよ。

「俺はあれからもずーっと地元で仕事してたんだけどさ、一念発起してこっちへ出てきたのよ。ほら、ずーっと夢があるって言ってたろ?」

ごめん。それ大ちゃん知らんわ。
だってホンマはぐず夫ちゃんやもん。大ちゃんとちゃうしな。

「夢? そんな話してたっけ?」
「なんだよ、忘れちゃったのかよ。やっぱり大ちゃんは忘れっぽいよな! ま、それでこそ俺たちの大ちゃんなんだけどさ!」

新情報です。
どうやら大ちゃんは忘れっぽいそうです。しかもそこが愛されるポイントなんだって。メモメモ!

「ほら、俺さぁ、大学卒業したら研究室で扱ってた低温同時焼成セラミックスの技術生かして新しい回路設計やってみたいって言ってたじゃん。どうにもその夢を捨てらんなくてさ、昔のツテ頼って30にして独立したんだ。嫁に娘もいるんだけど、やっぱ男なら一度は勝負してみたいって言うか」

ここでまた新情報です。
どうやら大ちゃんは大卒だそうです。ワシはバリバリの中卒なので、もう何が何やら言葉の意味もわかりません。グッと拳を握っただけです。強く。強く!

でも大卒の大ちゃんとしての自覚だけは、もっと強く意識しています。

「結婚してたっけ」
「なんだよ水臭いな、ちゃんと式にも呼んだろ? あんなに最高の鳥知識を披露してくれたのに!」

結婚式で鳥知識てなんやねん。大ちゃんてどないなやつやねんな。
ワシに似てる大卒の鳥知識豊富な忘れっぽい大ちゃん。
おるかそんなの!

「これから時間ある? ちょっと飯でも一緒にどう? もちろん大ちゃんの奢りで! なんつって!」

アゴ殴って膝揺らして帰った。
結果、なんもおもろくなかった。

世界のどっかにいる大ちゃんよ。
次見つけたらただじゃおかんからな!
憶えとけよ!!



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ぐずお
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