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まか「歌えば尊し」感想
「文芸くらはい」はシロート読者・春Qが文芸作品を読んでアレコレと感想を書く企画です。感想を書いていい作品は絶賛募集中。詳細はこちら。
◆春Qの近況
前回は春Qのスケジュール不備でお休みをもらいました🙏すみません、ありがとう🍀こういった連絡はXとBlueskyでお伝えしております。よかったらフォローしてくださいね~✨でも、そういえばnoteにもつぶやき機能があるんですよね🤔今後は使ってみようかしら・・・💓
◇WEEKLY RECOMMEND! /「歌えば尊し」あらすじ
「神楽坂ドールズ」は桜木マリーが仕掛けた奈落(Vo.)、輪廻(Gt.)、黄泉(Vn.)、乃亜(Pf.)の4人からなるネット発のアイドルグループ。平均年齢16才という若々しさだが、クラシックコンクールで受賞歴のある黄泉と乃亜を筆頭にメンバーの演奏技術は高い。障害を隠さず活動する彼女たちは既成のアイドル観を大きく塗り替えたといえる。
一本の動画から火がついた人気は生配信と初ライブを経てさらに燃え上がる。初の握手会ではトラブルもあった、しかしグループの動画チャンネルでは大物スター・美波スバルとの共演を果たし、大手音楽番組から出演依頼の声がかかる。番組内では人気グループ「戦場ヶ原99」「フェイクエンジェル」らとしのぎを削り、アイドルの新しい在り方を全世界に投げかけた。
デビューから一年。全国ツアー最終日の東京会場で爆破事件が起こる。一部過激派から襲撃を受けた結果、観客に被害が及んだ。数名の負傷者と約一名の死者を出したこの惨事を受け、「神楽坂ドールズ」は活動停止となる。
それでも彼女たちは、歩みを止めなかった。
各々の過去に向き合ったメンバーたちは再起する。被害者支援のための野外公園チャリティーライブには豪華ゲストも登場し、盛大な盛り上がりを見せた。輪廻は伏せていた性自認を、奈落は自身のルーツをファンに向けて叫んだ。ダイバーシティという無限の可能性を示し、会場にラストソング『歌えば尊し』は響き渡った。
音楽雑誌っぽくまとめてみた🎶
春Qは就活の説明会がある日にこのお話を読みました。(ウッ、新宿なんか行きたくない、スーツとかやだ、むり・・・)などと朝から鬱々としてたんですが、これを読んでるあいだは現実的なことをほぼ忘れられて良かったな。その節はありがとうございました。
なんといっても本作は物量があるのですよ。40×40設定の用紙で71枚ある。自宅で印刷していてさすがに興奮しましたね。短編も無論すばらしいものだが、長編はなんつーか、物凄いよな。コース料理の凄さだ。
春Qはこないだ6万字~募集の賞に5万字ちょっとで応募しちゃったアホです。長く書けるってそれだけで才能だと思うよ。スゴイ!
文芸くらはいは文字数制限を設けておりませんので、これを読んでる方もぜひ長編をくらはいねっ。(※10万字を超える作品に関しては、キリのよいところまでの感想を書きます)
前置きはこの辺にして、内容に入っていきます。構成は以下の感じ。
◎Ⅰ部~サクセスストーリー~
⇒「神楽坂ドールズ」デビューの軌跡
(P1~1)プロローグ
世界観とキャラクター紹介
(P2~7)1章
奈落中心。動画初投稿から生配信。社会からの反応。
(P7~12)2章
乃亜中心。初ライブ。
(P12~17)3章
黄泉中心。握手会でトラブル ☆障害要素の開示
(P17~20)4章
輪廻中心。配信用動画収録。美波スバル登場。
(P20~28)5章
奈落中心。テレビ初出演。★アイドル論
◎Ⅱ部~過去との対峙~
⇒テロを受けてメンバーが自分を見つめ直す
(P28~31)6章
輪廻中心。ツアー最終日のテロ
(P31~35)7章
乃亜中心。活動停止中、本屋へ行く。
(P35~38)8章
黄泉中心。活動停止中、母との対話。
(P38~42)9章
奈落中心。活動停止中、街歩き。★多様性について
(P42~48)10章
チャリティーライブ決定。
輪廻中心。活動停止中、ルーシーとの出会い。
(P49~51)11章
マリー中心。ライブ準備、マリーの過去。
◎Ⅲ部~チャリティーライブ~
⇒ライブを通して社会に多様性について訴えかける
(P51~56)12章
奈落中心。ライブ序盤の流れ。
(P56~59)13章
奈落中心。ゲスト達の様子(「戦場ヶ原99」、美波スバル)
(P59~62)14章
輪廻中心。★アイドル論(黄泉)
輪廻のカミングアウト
(P62~67)15章
マリー中心。「神楽坂ドールズ」結成の秘密。
奈落のルーツ告白
(P67~69)16章
奈落中心。声が出なくなるトラブル⇒ファンの助け★アイドル論
(P69~71)エピローグ
奈落中心。奈落のルーツ告白詳細
感想を書く都合上、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲとパート分けしました。
これを基にあらすじを思いっきり簡略化すると・・・
(Ⅰ)デビューから順調にキャリアを積み重ねたアイドルグループが、
(Ⅱ)ツアーの最終日にテロに遭い、活動休止を余儀なくされ、自分の在り方をそれぞれ再認識する。
(Ⅲ)そして被害者救済のためのチャリティーライブで在り方を提示する。
・・・となる。やりたいことが明確でイイですよね。
ただ、Ⅱ部以降の話の流れが一本化されてなくて複雑に感じました。
まずⅠ部の構成を図にするとこうなるわけです。
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色はイメージカラーです。乃亜は水色だと思う!
・・・じゃなくて。このお話は三人称で書かれているんだけど、各章で中心となる人物が異なっている。たとえば1章は奈落中心、2章は乃亜中心でした。そしてⅠ部は「神楽坂ドールズ」としての活動の枠内に収まっているから、一本化されていて読みやすい。
それがⅡ部以降こうなる。
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言いたいことは伝わるでしょうか。メンバーそれぞれのお話に入っていくから、Ⅰと比較してエピソードが散逸した印象を受けます。
イヤ群像劇ってこういうものでしょ、と言われたら難しいんだけどさ。まず春Qは群像劇のお手本ってトールキンの『指輪物語』だと思っています。
あれは超・長いお話です。旅の仲間が増えてバラバラになり各陣営に別れてそれでも一つの目的に向かってみんなで戦う。(🌟ところでトールキンは後書きで「長い話を書くと読者の好きなシーンも分散するので、書いてものすごく嫌われるってことがないんだよねー」みたいなこと書いてる。それも長編書くひとには励まされる話だよね・・・)
登場人物も膨大ですが、「こいつはここではぐれる」「死んだと思わせてここでパワーアップして合流する」みたいな物理的な流れがハッキリしていて読みやすい。各陣営に分散しても仲良し同士はニコイチで行動していたりしてね。だからこそ引き離される時のドラマも生まれる。
登場人物たちみんなに役割があって大活躍する。そして彼ら一人一人の行動を通じて、愛や勇気や多様性という観念的なテーマを読者に強く語り掛ける。もちろん『指輪物語』とはジャンルが違うけれど、「歌えば尊し」がやろうとしていたことってそれに近いんじゃないか? と感じました。
だとしたらⅡ部、Ⅲ部でメンバー同士の関わりをもっと書いても良かったんじゃないかと思う。たとえば輪廻の受けたバッシングについてメンバーのみんなはどんな受け止め方をしているんだろう?
輪廻がⅢ部でカミングアウトする時、すでに「神楽坂ドールズ」対 世間 という構図ができている。だけど、その前提にあるはずのメンバー間の共有は描かれていない。美馬やマリーが導いてくれる描写だけだ。チームで音楽を奏でるのだからそのあたりの描写は盛り込んだほうが読みやすいし、グッとくるんじゃないかな~と思いました。まあこれは私がⅠ部のメンバーたちの掛け合いが好きだからでもあるんですけど・・・。
◇作中の情報開示について
「神楽坂ドールズ」メンバーが障害を持っていることはⅠ部3章まで明かされない。初配信でコメント欄に「イロモノが、偽善め」と書かれていたり、初ライブで奈落が乃亜と手をつなぎにくそうにしていたり、ほんのり匂わせてはいますが。・・・こういった布石を置いているということは、書いていたらたまたまそうなったのではなく、意図的にやっているのだ。
この情報開示の後ろ倒しはエンタメ的には間違いなく悪手なんだけれど春Qとしては、こういう哲学は今後とも守り続けてほしいと思ったので、その点ぜひ説明させてくださいね!?🏃💨💨
まずなぜ3章まで情報開示しないのが悪手と言えるのか、言語化しておきます。作中世界で「神楽坂ドールズ」がほかアイドルと比較して特異な点=ハンデアイドルだから、です。
ファンにとっても読者にとっても、乃亜が車椅子、黄泉が義手、奈落が難聴であることは、どうしたって売り込み要素の扱いになってしまうんですよ。奈落の声がいいとか、乃亜と黄泉がコンクール受賞者だとかより、パッと見てわかりやすいから。
春Qなんて即物的だからキャラの見た目と年齢はいの一番に知りたい。特にBLはどっちが受けでどっちが攻めなのかって死活問題ですからねっ。誰だって自分好みの小説を読みたいんだっ。
・・・そこで本屋へ行きます。障害を持った女の子たち4人が表紙の「歌えば尊し」を見ます。もしかすると帯には「ハンデアイドル、天下とっちゃるもん」って書いてあるかもしれない。(『ハンデアイドル』は非常にキャッチーな語だと思いますよ。たとえ初出が遊太だとしても・・・)
ただのアイドルものと銘打って書棚に並べるより読者とのマッチング率は高いことでしょう。とするとこの要素を早々に開示しない手はないのです。悪手というのはそういうわけ。
しかしね。
一般的に悪手だろうがなんだろうが、春Qはこのこだわりがとっても好きなんだっ。
Ⅲ部のチャリティーライブには、こんなシーンがあります。
奈落の告白が終わる時、観客席は水を打ったように静まり返っていた。顔つきは神妙にも見える。何かをみんなが考えてくれたらいい。奈落と輪廻の告白は神楽坂ドールズをもっと大きくするし、今まで以上にただのアイドルグループではいられなくなるだろう。
照明が落ち、暗闇が会場を包む。
「目からの情報を絶ち、耳と体で聴いてください」
黄泉が言い演奏が始まった。
奈落の低く力強いボーカルが会場に鳴り響く。跳ね返りはない。どこまでも広がっていく音。野外ならではの光景だった。
星灯りに薄っすら浮かぶ奈落の姿は右耳に手を添えて、ステージに這いつくばるように屈んでいく。地面を貫いて、地球の裏側にまで声を届けるかのようにぶつけていく。反響がないために、生音がダイレクトに伝わる。身を起こし天に向かって言霊を吐く。
目からの情報を絶ち、耳と体で聴いてください。いいセリフだと思う。
視界を絶たれて音楽だけに耳を傾ける時、神楽坂ドールズはファンにとってハンデアイドルではない。
プロローグから第二章までも、そうでした。読者にとっての彼女たちはただデビューしたてのアイドルグループだった。メンバーの持つ障害が明らかになったのはいつですか? Ⅰ部三章の握手会でトラブルがあった時。
「握手してください、そっちで」
声に現実に戻らされる。
「ぼっとしてんなよ」
「あ、ごめんなさい」
そう言うと同時に左手を引っ張られた。思わず相手の顔を見た。にやにやとしている。ファン、なんだろうか? 戸惑いながらも笑顔を向けた。応援ありがとうございますと言おうとした。
「やべ、かってーまじか」二十代くらいに見える男がさらににやついた顔で言った。これ、手なん? 感覚あんの?
ひとの悪意が黄泉の義手を障害に変えてしまった! その瞬間です。
意図がわかると、とてもいい書き方だと気づかされる。まともにアイドルをやっているだけなのに、偽善アイドルとして扱われる。おそらく健常者だろう読者に、障害があるってどういうことなのかを伝えるには実に効果的なやり方なわけです。
ただ・・・やっぱり意図が伝わりづらくはある。春Qも初読時には(なんで情報がこんなに後出しなんだ~?)と思った。それはつまり物語は注意深く読む必要があるということなんだけど、ライトな文体、アイドルものというイメージが先行して、つい読み流してしまったのだ。
じゃーどう書いたらいいんだと言われると、難しいんですけどね。たとえば握手会の出来事を冒頭に持ってくるとか? でも大工事になるのは間違いないし、主人公も黄泉になってしまうから難しいね・・・。
ちなみに春Qはこの話の主人公は奈落だと思っている。
◇主人公は奈落だと思っている。
最後にキャラクターのバランスの話をします。「神楽坂ドールズ」の四人はみんな各々の事情を抱えていますね。以下にまとめてみました。
奈落
母は朝鮮半島出身。ピアノバーのシンガーをしていた時、客として訪れたマリーと知り合った。マリーに娘の奈落のことを託した手紙を書き、ひとり故郷へ帰ってしまう。
奈落は父を知らない私生児であること、聴覚障害を理由に迫害を受けていた。マリーに引き取られてからは音楽に打ち込んだ。
輪廻
生まれつき性別違和があった。ギタリストに憧れてエレキギターに没頭する。幼馴染の遊太とバンドを組み、定時制高校に通いながら音楽活動を行っていた。ひょんなことからプロデビューの話が舞い込むが、嫉妬に狂った遊太の妨害を受けて話が流れる。その後、マリーの助けを受けた。
黄泉
15歳の時、国際バイオリン大会で優勝を果たすも母の運転する車で事故に遭う。同乗していた弟は死別、母は正気を失い、黄泉を娘として認識できなくなってしまった。児童養護施設に入所し乃亜と知り合う。その後、乃亜と共にマリーの元へ引き取られる。
乃亜
両親ともピアノ奏者だった。しかし次第に父が乃亜の才能に嫉妬するようになってしまう。暴力を振るう父から母は逃げ、乃亜は下半身不随にまで追い込まれる。その後、黄泉と共にマリーの元へ引き取られる。
みんなワンピースばりにヘヴィーな過去を背負っている。この四人ばかりでない。四人の親代わりであるマリーも大変な思いをしてきたし、Ⅲ部に登場するルーシーも親に虐待されてきた過去を持つ。
・・・やっぱり、情報量を絞ったほうがいいんじゃないかと思う。もちろんキャラクター1人1人の詳細な過去設定はあっていいんだけれど、メインストーリーははっきり一本にした方が読みやすい。話の目的が定まれば読者が主人公を応援できるし、物語にハラハラできるからです。
たとえば日韓ハーフの私生児である難聴の少女が声で天下を獲る物語。
性別違和を抱えた少女が自分のセクシュアリティを認識し、外部に発信する物語。
事故で家族と左腕を失った少女が音楽を通して母と向き合う物語。
ピアノによってすべてを失った少女がそれでもピアノに救われる物語、などが挙げられるわけですが。
あるいは、障害と多様性の在り方をアイドルを題材に紐解くのであれば、多種多様な障害を抱えた99人で構成された大マンモスアイドルグループV.S.哲学的ゾンビ世間一般みたいなのもありえるかもしれない。(は??)(全然関係ないけど「戦場ヶ原99」と聞いて春Qは、99人で構成されたアイドルグループなのかぁと思いました。違った!)
今のページ数にこだわるなら、そうです。10倍の700ページあったらまた話が変わってくる。わかってもらえるかはわからないが、内容が濃すぎてグビグビ飲めないという意味なんだ。春Qはチビチビ飲みましたよ🍶🎶
以上、春Qによる感想でございました。最後はステキなアイドル動画をシェアしてお別れといたしましょう。また来週~✨🎤🌈
次回の更新は11/15の予定です。
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