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赤木青緑「びゅう」感想

「文芸くらはい」はシロート読者・春Qが文芸作品を読んでアレコレと感想を書く企画です。感想を書いていい作品は絶賛募集中。詳細はこちら


 岩手県花巻市には「だぁすこ」という素敵な直売所があります。ダイスキとかそういう意味の方言かと思っていたら、宮沢賢治作品のお囃子の音(ダー、ダー、ダースコ、ダーダー)からきているらしい。斜め上をいく発想。

◇「びゅう」あらすじ

 無職で貧乏な猫平さんは女性にもてない。これまで百人もの女性に告白してきたがことごとくフラれ続けている。百人目にフラれた夕方、帰り道を歩いていると西の山に異変が起こった。
 赤い空が割れ、黄色い空間が生まれ、細かい雪のような粒が現れる。地面に着地した粒は集まり、狐のような形状になった。神々しい生き物は「びゅう」とないた。猫平さんははじめて見る超常的な光景に感動した。
 エナジーが湧いてきた彼はマッチングアプリを開始し、自分で「びゅう」と名付けた生き物のコミュニティを立ち上げた。
 開始一分後、マッチングアプリに反応があった。コミュニティに加入したみぃからメッセージがきたのだ。猫平さんはみぃとびゅうのことを語り合い、しあわせになった。以後、びゅうは多くのひとに語り継がれ、見たひとにしあわせを与えると言われるまでになった。


 百人の女性に告白し、百人目にフラれて事件が起こる。ここだけ見ると100カノのようですね。

中学で100回目の失恋をした恋太郎は、高校でこそ初めての彼女を!と願う。しかし、恋の神様は「高校生活で出会う運命の彼女は100人!しかし彼女達は、幸せになれなければなんやかんや(中略)あって…死ぬ」と告げる。100人の彼女を脱落しない!させない!DEAD OR LOVEなハーレム・ハイスクールライフ開幕!

「君のことが大大大大大好きな100人の彼女」あらすじ

 100カノはラブコメ漫画なので恋太郎くんを主人公として物語が描かれるわけですが、「びゅう」の主人公が誰かは・・・考えるとだいぶ難しい。

 詳しく説明する前に、いったん構成を見てみてください。

■びゅうの紹介
・鳴き声(⇒後半への伏線)
・言い伝え、生まれ方、感情など。
・猫平さんの活動。びゅう協会会長。
■猫平さんのエピソード
・びゅうを目撃した。
・マッチングアプリ開始、コミュニティ開設。
・「しあわせになりましたとさ」。

「びゅう」構成

 ちょっと説話っぽいんですよね。まず謎のイキモノ「びゅう」がいて、そのあらましを語るために猫平さんの目撃談が来る。そういう構成。

 ただし本作で「びゅう」周りの設定は非常にあいまいです。なので、春Qは猫平さん中心にあらすじを書きました。

 つまり、作中のびゅう情報がだいたい伝聞や推量で書かれているのですね。「~という。」、「~ないようだ。」みたいな文末です。不確かな情報からあらすじを書くのって難しいです。

 いっぽうで、びゅうの感情は断定的に書かれているから不思議でした。

びゅうを見、びゅうのなきを聞いた者が、びゅうをびゅうと呼ぶようになった。びゅうはよろこんだ。

赤木青緑「びゅう」

 初めてびゅうをびゅうと呼んだのは猫平さんである。猫平さんはびゅう協会会長でもある。びゅうを守りびゅうを広めてゆく活動をしている。びゅうはひっそりと暮らしたいと思っている。

赤木青緑「びゅう」

 どういうことなんでしょう。

 だって、よろこんだり、ひっそりと暮らしたいと思っているとしたら、びゅうは人間的な感情を持ったイキモノってことですよね。可愛らしささえ感じる。だけどそういう可愛いイキモノとして読むと、猫平さんが感じたような「神様、神様だ」というイメージが浮かばない。

 反対に、伝聞形式の文体や「何回も見聞きできる存在ではない」という設定は超常性を感じさせます。そうすると、なんでそんな超常的なイキモノの気持ちが冒頭で明らかになっているの?と違和感を覚えます。あまり紋切り型の読み方はしたくないのですが、びゅうのパーソナルな面を強調するなら、もうちょっと長い文章が必要なように感じました。

◇びゅうが先か猫平さんが先か

 さて、先送りしていた「びゅう」の主人公は誰かという話の続き。別にW主人公でもいいけれど、誰が物語の主体なのかがはっきりすると物語の軸が明確になります。感想を書くのが楽になるので、春Qはよくこれをします🐮ウッシッシ

 構成を見ると、びゅうの言い伝えが先にあって猫平さんのエピソードが後に続きます。であれば柳田国男の「遠野物語」のように、「びゅう」という謎のイキモノについて紹介することが目的なのでしょうか。タイトルロール的にも、びゅうが主人公?

 しかし、びゅうの名付け親は猫平さんです。

 初めてびゅうをびゅうと呼んだのは猫平さんである。

赤木青緑「びゅう」

 また、『びゅう』か『こう』かを確かめ合って、猫平さんとみぃはお互いを絶対に分かり合うことのできる相手として認識する。物語の目的がここにあるなら、主人公は猫平さんということになる。(=主人公・猫平さんが、びゅうを通じて絶対に分かり合う存在を獲得するお話)

 ただ、春Qはこの読み方がピンときていません。

 そもそも「初めてびゅうをびゅうと呼んだのは猫平さんである。」この一文が、書いてある内容と微妙に噛みあっていないように感じます。

 みぃもびゅうをびゅうとして認識しているんですよね。彼女は開設1分でコミュニティに加入し、猫平さんにコンタクトをとってきました。ということは猫平さんとほぼ同時期にびゅうを目撃している。

 びゅうを『こう』ではなく『びゅう』として認識した時点で、彼女も無意識にびゅうをびゅうと名付け、呼んでいるわけです。(『呼ぶ』と『名付ける』は厳密には意味が違うかもしれないけれど)

 それでも三人称小説において、地の文の持つ力は圧倒的です。猫平さんは、みぃよりちょっと早いタイミングでびゅうを目撃し、びゅうをびゅうと名付けた、そういう読み方になる。・・・でも読んでる側としては、それって何か変じゃないかと感じる。

 猫平さんは、この世界で初めてびゅうを目撃した人間なのでしょうか。文章からは、びゅうってそんなに歴史の浅い存在であると思えなくて。

 また、びゅう協会の存在も忘れてはならない。協会の詳細(規模がどれくらいか、広めてゆく活動って何をしているのか)が一切書かれていないので、もしかして猫平さんが一人でやっている可能性も全然あるんですけど、まっとうな集まりだとしたら猫平さんとみぃだけでなく、会員みんなが『びゅう』を『びゅう』として認識していることになる。

 そうなると、猫平さんとみぃの関係性が薄くなる。「主人公・猫平さんが、びゅうを通じて絶対に分かり合う存在を獲得するお話」という読み方に矛盾が生じます。

 もちろん、絶対に分かり合う存在=恋愛関係と決めつけるつもりはありません。しかしびゅう協会の起源はマッチングアプリのコミュニティにあります。そしてマッチングアプリは、恋愛や結婚の相手を探すためのツールです。だとするとこの物語で猫平さんが求め獲得したものは恋人ということになる。そして恋人候補が複数名多発的に発生したら、それこそ物語がポリアモリーみを帯びてきます。

 自分でも(この読み方は違うだろうな)と思います。許してください。春Qにはテキストの文言と自分の狭い見識しか読み解く材料がないのです。だから感想をうまく書けないし、書こうとすると(こういう点がよくわからない)と説明するしかなくなる。

◇しあわせになりましたとさ

 というわけでマヌケな春Qにはまだ難しいお話でした。ほかの方の感想も読みたいですね。noteユーザーの方、よかったら「こういうことだよ!」ってコメントに書いていってください。

 以下の文章は春Qなりの結論になります。・・・物語の軸は文体からわかることもあります。「びゅう」の場合は語り直しを多用していますね。

赤い空が割れ光のような黄色い空間が生まれ細かな雪のような粒が地面に降り注ぎびゅうがびゅうとなく。

赤木青緑「びゅう」

見上げた赤い空がゴゴゴゴと割れ始めピカッときらめくと黄色い空間が生まれ、細かい雪のような粒が降り注ぐのを見た。

赤木青緑「びゅう」

「はい。私がどん底のとき、赤い山を見、赤い空が割れ黄色い空間から細かい雪のような粒が降り、地面に落ちると狐のような姿になり、神様かと思って見ていると『びゅう』とないたのです」

赤木青緑「びゅう」

 この語り直しは言い伝え要素を補強しているのかな、と思いました。つまり猫平さんが目撃し、みぃが話し、言い伝えとなって残っている点を強調しているのかなあ、と。マッチングアプリがある時代に目撃したことを言い伝えって呼んでいいのか?などと春Qは思いましたがTinderが公開されたのは2017年らしいので認識を改めました。七年前は大昔かもしれん・・・。

 だから春Qは、このお話は「びゅう」という謎のイキモノの言い伝えを広めるために書かれたのだ、と結論付けることにします。当然、主人公はびゅう。猫平さんはびゅうの語り部にすぎません。

 ・・・つまり、全てはびゅう協会の広報活動だったんだな~! めでたしめでたし。


次回の更新は9/20の予定です。
見出し画像デザイン:MEME

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