悲劇的バーベキューⅡ
アールグレイと一緒に、友子が誕生日にくれたロイズのクッキーを食べながら華麗なるギャツビーの映画を眺めた。雄介はベッドに腰掛けながらパーカーを羽織って眠っている。あたしは毛布をかけてあげる、彼の美しい寝顔にもう一度恋して額にキスをする。すこし雄介のまぶたが動いた。起きたら起きたで、いいんだ。
「君の好きそうな、いい映画があるんだ」
なーんていう甘言にほだされて、あたしはついまた雄介の家まで来てしまった。恋人同士なんだからいつ来たっていいじゃない、とも思うけれどもあんまりいい気はしない。雄介の前の恋人の色が残りすぎている。雄介と友子が別れた一ヶ月後に始まったあたしの恋愛は、すぐに実った。雄介は、経験豊富で、話も料理も、セックスも何もかも、上手で、だけど、全然嫌味がない。いつも笑っているし、あたしのこともすごく丁寧に愛してくれている。こんなあたしを、とは思わない。あたしは友子に負けないくらい魅力的な女だ。と、思っている。つもりだ。
でも、ギャツビーって。
それに、先に眠っちゃうし。
別に映画が見たかったから家まで来たわけじゃないの。
別に映画が見たかったから誘ったわけじゃないでしょ。
それからね、別に捨てろとは言わないけれど。友子にもらったクッキー、あたしに出すってどういうこと。いつまで歯ブラシ三本のままなの。
「ん、寝てた。ごめん。あ、映画、どうだった? 終わっちゃったね」
「面白かったよ」
「ごめんごめん、今日はバーベキューも映画も付き合ってくれてありがと」
「ん」
変な声が出る。ん、と、ふ、が混ざったみたいな、鼻から抜ける声。可愛くなかったかな。だけど、雄介がこんな風に急にキスするからだ。ありがと、の時のくしゃっとした笑顔から真顔になって、雄介がどんどん近くなって、最後に熱いしずくがパアッと弾けた。
朝チュン。割愛。恥ずかしいから。雄介はあたしを満足させて、あたしを幸福の水の中へ放り込む。これは比喩。
朝が来た。雄介はバーベキューの洗い物を全部済ませて、甘いフレンチトーストを作ってくれていた。あたしは急いで服を着て、寝癖を直して軽く香水を振った。待たせないようにメイクは少しだけ。でも、見苦しくない顔にしないとね。
「あ、おはよ、ソファに落ちてたよ、ピンクのシュシュ」
「それ、あたしのじゃない」