火星人と花の色【1・2】

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 とん、とん、と音を立てて遮断機が降りる。日々、科学の進歩する世界に取り残されて、踏切だけはいつも死のかおりを漂わせている。
 電車が去って、遮断機を渡ると、百合の香気がたって、小さな公園でフリーマーケットが開かれているのが見えた。開催を伝える看板が公園の入り口に立てられている。薄汚れた白テントがそこかしこに張られ、各々がそれぞれ好みのものを売っている。
 顔に釣り合わないほど大きな丸メガネをかけ、カーキのエプロンに無精髭を生やした男が古びて傷だらけのレコードや小説を売っていた。僕を見て、にこりと笑った。
 壊れた炊飯器、マホガニーの時計、ブラジャー。そこで売られているものは本当に様々だった。初夏の公園では、この世の全てが売られていたし、それらがこれが世界だ、と僕に叫び続けていた。
 眩しく鋭い光が僕の目を刺し、一瞬たじろいで立ち止まった。透明の、ウィスキーの空瓶が茶色のバスケットの中で山積みにされている。彼らが光を反射して僕に狙いを定めていたのだ。頭上の暖かな春の太陽はは空き瓶を通して表情を変え、僕を睨んだ。
 僕の紅潮した頰は瓶に反射した。その瓶の透明な輝きはティファニーの広告にさえ使えるような気がした。ある種の透明性は反射性に依って確かめられるのだ。
 代金を払い、細長い紙袋に入れられたその宝石を僕は手に入れる。僕の頰は多分、もっと赤く、もっと熱くなっていた。ああ、そうか、と僕は買った空の瓶を見ながら思う。この宝石をプレゼントしたかったんだ。だから惹かれたんだ。僕はいつも、自分の欲望の源泉に気づくのが遅いのだ。
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 ねえ、どうして?
 彼女は言う。だから僕は毎回同じセリフを返さなくてはならない。
 そんなことない。あなたは綺麗だ
 そうして彼女はいつも上手に微笑み、僕は自分がまた欲望を感じていることに気づく。彼女の肩を抱き寄せる。窓の外では、決まってプルキニエの夕方が僕たちの交わるところをしっかりと見ている。彼女とのセックスの間、僕はもう一度、火星人に会いたくなった。青々とした空は、真っ赤な太陽に急かされて今にも燃え上がりそうだった。

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