ラブリー
環状七号線を走りながら、助手席に目をやると瑞果(みずか)はまだ眠っていた。僕は、彼女の好きな小沢健二の流れるカー・ステレオのボリュームを下げて、赤信号でゆっくりと停車する。
あなたの育った街が見たいーー
瑞果が今朝そう言ったので、今日は急に友人に車を借りて三時間の長いドライブに出かけた。僕の田舎は福島県の真ん中あたり山がちなところにあって、温泉街が有名だ。そこに両親が住んでいるわけでもないので、僕と瑞果は二人でいくつかの観光スポットを回った。地元にいた頃の恋人と来たことのある場所もいくつかあって、僕はなんだか変な気がしたが瑞果の狙いはそれだったのかもしれない。
急勾配の坂を車で登っていくと紅葉の美しい山々が見渡せる牧場にたどり着く。いつも高校の校舎の窓から見ていたが、実際に来るのは初めてだった。
ソフトクリーム食べよ、と言うと、
こんなに寒いのに? よかろう。と笑った。
ほんとは食べたかったんでしょ?
運転のお礼におごったげる
日曜だからかどこも僕の知っている街より人で賑わっているような気がした。昼は、なんでもいいというリクエストのもと、なるべく並んでいない小さな定食屋に入って焼きそばを食べた。
そういえばさ、なんで瑞果って、瑞果なの?
もぐもぐしながら話さない。哲学の話?
名前の由来。
知らなーい。瑞々しい果実のように、みたいな?
ふうん。
なんで?
いや、ちょっと気になって。
僕はサザンを聴きながら海沿いの道を帰ろうと提案したが、彼女が小沢健二がいいし、海沿いじゃなくていいから一番近い道で、と言うので僕は文句を言った。文句を、言った。途中一度の休憩を入れて、トイレを済ませてから彼女の二人分のたい焼きを買って彼女を待った。瑞果は美味しそうに物を食べるのが上手だ。可愛い。車に乗り込むと瑞果は、はい、と缶コーヒーを大切に隠し持っていたプレゼントみたいに渡してくれて、とびっきりの笑顔で運転ありがとう、と言った。寝る気だな。
瑞果、しりとり。
やだ。
しりとり。
りす。と、瑞果。
スイス。
スス。
スルーパス。
スイーツパラダイス。
今度行こうか。睡眠ガス。
できればかけてほしいわ、それ。すっぽかす。
すっぽかしたことないだろ。スカイプかけます。
普通にラインでいいよ。スクールバス。
うーん、そうだなあ、と僕が悩みながらしばらくすると彼女の寝息が聞こえた。うーん。すーすー。彼女は本当に美しい寝顔で眠る天才だと思う。背もたれに完全に体重を預けて顔はすっかり上に向いていて、鼻の中まで丸見えだし、口も少し空いている。
そうして僕は瑞果を家まで送り届けてから友達の家へ車を返して、電車で帰宅しながら彼女にラインした。
どうだった? 福島。
楽しかった!
カバンの中見てごらん。
え。
ふ。
ぶどう??
ぶどう。
なんで笑
福島で、瑞果、だったらぶどうじゃない?
いや、え笑
今日のお土産笑
明日、一緒に食べよう!
次のデートも決まった。きっとこの幸せが続かないことは感じているけれど、彼女の可愛い寝顔を見ているとそんなことはどうでもいいような気がして来る。
また、明日。