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ありがとう青木宣親。

ついにこの日が来てしまった。
2024年10月2日、青木宣親の引退試合。

ある朝、仕事の準備を進めながらトイレでスマホを開くと、【速報】の文字。薄々そんな気はしていたが、僕がヤクルトファンになってからずっと最前線にいた選手だった青木選手の引退が現実のことだとは中々信じられなかった。
会社に向かいながら一緒に野球を見る数人の仲間たちにLINEをした。まだ寝ている方々もいただろうが、気持ちが収まらなかった。
すぐに連絡が返ってきた。
「10月2日、見に行けるから最後に一緒に送り出さないか」という内容だった。僕はすぐにチケットサイトにログインし、まだ空席のある外野席を探して購入した。

従来、引退試合は神宮最終戦に行われることが多い。
前日だけど、仕方ない。引退試合じゃなくても最後にありがとうと言えたらいいよね、と自分で自分たちを納得させながら青木選手との思い出を振り返りながら酒を進めた。一番思い出深かったのは2009年のWBCか、2011年の中日の快進撃に負けたあの年か。そんなことを喋りながら。

そして2012年シーズン、彼はメジャーに挑戦。それからは僕も自分の人生に必死だった。
2017年に僕は念願の上京を果たし、まだ肌寒い3月のオープン戦、初めての神宮を訪れた。そこには背番号23の姿はなく、伝説の2年連続のトリプルプレーを果たした山田がたった一人真ん中で背番号1を背に獅子奮迅の活躍をしていた。僕がようやく手にした神宮で野球を見ることができる権利。しかしその年は球団最多の96敗を喫し、何かスワローズファンの本質みたいなものを感じた。
2018年、青木宣親の日本球界復帰。
テレビで見ていた。「このチームを本当に愛している」。

引退発表の日は、朝からずっと寂しかった。
あの応援歌がもう聞けなくなるのか、小さな頃モノマネしていたあの独特なフォームをもう見れなくなるのか。
2011年までの尖っていてイケメンだった青木は鳴りを潜め、チームのため、ファンのため、家族のために戦う男の姿があった。
それが、本当にかっこよかった。ファンのために最大限のコミュニケーションをとってくれる、石川雅規とのおじさんずヒーローインタビューも忘れられない。
もっと遠くにいたプロ野球選手がずっと近くに感じた。喜びを素直に表現する彼の姿は、等身大のヒーローだった。

少し酔ってきた頃、あとはどんな思い出があったかなとXを見ていると、
本人の意向で、10月2日に引退試合を行うことを知った。
高津さんも今シーズンまでなのかな、と思っていたから、チームの最終日は自分じゃなくていいという慎ましやかな決断だと思った。若手へのチャンスを与える意味で引退を決めた青木らしい。
そういう風にして、僕は彼の引退試合を見ることができることになった。つい、柄にもなくハイタッチなんてしてしまった。

ついにその日が来てしまった。
荒木トンネルから入ってくる青木、そしてBELOVEDが流れる。試合前だというのに青木は外野側を振り向いてファンの声援に応える。先に入ってきた村上と比べるとずいぶん小柄に見える。

つば九郎からの思い出ムービー、そして円陣中に聞こえた「1番センター青木」に飛び跳ねて喜ぶ背中。あとからテレビで見た、村上の円陣も素晴らしかった。こんな後輩、愛さずにはいられないではないか。
そしてプレイボール。あと何度見られるかわからない青木の打席を目に焼き付ける。酒が進む。涼しい日で、周りのファンの皆さんは真面目に彼の勇姿を焼き付けるべく、あまり売り子を呼びつける声は聞こえなかったが、僕は試合前に流した涙の分を取り戻すためにいつもよりたくさん飲んだ。

1打席目は凡退も、すぐに最多安打をかける長岡がヒットを放つ。サンタナが四球を選び、村上。ずいぶん力んでいるように見えた。無理もないことだ。オスナがあっという間にタイムリーで先制。幸先のいい攻撃だった。
高橋奎二の力投。絶対に負けられないという気迫のこもった、初回から150キロ台のストレートがばしばしコースに決まっていた。二回、髙橋のヒットから青木の2打席目見事な流し打ちで続く。「やめないで」とファンの声が上がる。僕も同じ気持ちだった。そして最多安打長岡のタイムリー、サンタナの特大のHRであっという間に5-0。髙橋はその後も力投を続け、6回1安打無失点ピッチング。6回裏、青木の4打席目、今度はレフト線へ引っ張った2ベースヒット。今日2安打目。大きな歓声が上がる、まだまだ彼の姿を見ていたい。
おそらく志願したであろうサイスニードと石川が準備を進めている。高橋に変わってサイスニードがいきなり2ベースでランナーを背負う、なんとか2アウトまで漕ぎ着けたところでピッチャー交代。石川雅規がマウンドに向かう。青木がセンターから駆け寄っていく、この20年スワローズを支え続けた二人の男の抱擁。涙が止まらなかった。ありがとう、本当にありがとう。

変わって二球目を菊池に捉えられ、2点タイムリーヒットとなる。今日初失点。でも、不思議とこれでいいのだという気持ちになった。石川はそうやって精神的な支柱としてこのチームを支え続けてきた、そしてそれだって懐かしい演出だ。そうだったなあと思いながらセンター青木の背中を見ながら涙を拭う、高めに浮いた真っ直ぐを打ち損じ最後はレフトフライで6回終了。終盤、今度は全然ヒットが出ない。
青木にいいところを見せたかった選手たちが軒並み力んでしまっていた。
特に僕が青木の後継者として期待をかける丸山、山田も村上も、あとは任せてください、というような打撃ではなかった。笑
(でも、翌日頑張ったからよかったね)
いつか、その誇らしかった23番を引き継いでくれ、丸山。

最終回、今シーズン急場のクローザーとして活躍した小澤が打ち込まれ、危うく追い付かれ、もう一度青木の打席が見られるのでは?なんて期待もしたけど、なんとか勝ちを決める。そしてセレモニーが始まる。

いやあ、語りきれない。本当にいい引退試合だった。
「泣くよ、そりゃあ、21年も野球やってきたんですよ」
同じ気持ちだった。21年も応援してきたんだ。泣くよ。そりゃ。
最後のインタビューも、素晴らしかった。ありがとう、と惜しみなく最後まで伝えた。

まだまだ語り足りないことがある気がする。
今シーズンはあきらめている部分もあった。スワローズらしいシーズン。
奥川の神宮復活登板も見れたし、まあもういいかなという感じだった。
それが、まさかこんなシーズンになるとは。
最後までCSを決める上位に何故か絡み、絶妙に迷惑をかけていく感じ。
青木が引退を発表してから怒涛の5連勝。やめられないよね、ファン。

丸山、山野、奥川、岩田、武岡、青木の故郷で行われるフェニックスリーグで大きく成長し、来シーズンの飛躍を期待している。特に丸山は、頑張ってほしい。来シーズンはユニフォームも、買おうかな。

村上のメジャー挑戦も近いだろう。
未来のスワローズを明るく照らす、リードオフマンが現れることを期待している。そして新たなキャプテンが生まれることを期待している。

本当にありがとう、帰ってきて本当に日本一を達成した姿、誰よりも早くマウンドへ駆け寄った姿、寒い寒い11月末の日本シリーズを制し、石川と二人で肩を並べて喜びを噛み締めた姿。(僕の最高の誕生日プレゼントでした。)

10月2日は父の誕生日だったのだが(僕がヤクルトファンになったきっかけは父だ)彼はセレモニーも見ずに寝てしまったそうだ。
ま、そういうこともあるか。
親父も、最後、バシッとな。


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