秋のカフェにて。
ー第六感?
ーそう、なんかこう、びびっと来るんだよね。
ーびびっと、ねえ。
ーそう、びびっと。
ー私にはそういうのなさそうだなあ。
ーうーん、まだなだけじゃない? 第六感て意外と機嫌の浮き沈みあるから。
ーそんな、無責任な。
ーうーん、例えばさ、親知らずって四本生えるでしょ?」
ー第三大臼歯ね。永久歯はそれを足して全部で三十二本生える。
ーさすが、看護婦さんね。それでね、そのー、第三、大臼歯? がー、四本、まっすぐ生えて来て抜かなくていい確率ってそれぞれのその、一本ずつに対して、何%かしかないわけでしょ。ほとんどの人は、抜くことになるでしょ?
ー歯科衛生士、ね。まあ、そういう人が多いかもしれない。
ーそれと一緒で、四人の男の人と出会って付き合って、びびっとくる確率ってそんなようなものなの。まっすぐ生えてくるかもしれないけど、基本的には抜かなきゃいけない。だから私たちは他の二十八本を大切にして生きていくの。歯を磨くように、私や、あなたや、たくさんの素敵な人たちとの関係性を大切にして。
ーううん、第六感の話はどこへ?
ーあ、そうだった。
ーねえ、びびっとくるってどういう感じがするの? 電気が流れる感じ?
ー全身麻酔をかけられて、次に目を覚ました時の感じ。
ーかけたことはあるけどかけられたことはないからわからないな。
ー世界の見え方が変わるの。ぱあって。まるでスクランブルエッグが目玉焼きに見えるくらい変わる。
ー生卵がゆで卵くらい変わる?
ーそれ、一緒じゃない? うーん、そうだなあ、あ、今日避難訓練しそうだなってわかるときあるでしょ、それ。そういう感じよ、第六感。
ーわかるときなんてないでしょ。
ーそうねえ、まあ、その時が来ればわかるようになるんじゃない。びびっと。
ー親知らずって、四本生えてこない人の方が多いのよねえ。
ー親知らずって、何番?
ー八番。
ー彼は私の何番めの男でしょう?
ー八番?
ー五番。
ーなんで聞いたの?
ーなんか、びびっときた。親知らずが五番じゃないかって気がした。
ーふうん。親知らずは八番です。
ーそれくらいびびっとって言っても適当ってこと。
ーなるほどね。
ー大丈夫、焦らなくても、親知らずは生えてくるよ。
ー生えて来たら来たで痛いんだけどねえ。
ーじゃあ、生えてこない方がいい?
ーそれはぁ、
ーないな。ーないね。