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『ファイティング・シンデレラ』 第1話

【あらすじ】
UFOオタクで妄想癖の松本文子(21)は、孤児として育つ。
親なし、金なし、家なしの文子は、ラブホテルに住み込みながら、清掃員として働いている。
彼女は自分が不幸な人間だと思っている。大好きなUFOグッズに囲まれた部屋で、日夜、空想に浸りながら貧しい生活を紛らわす。
そんな文子の脳内が作り上げたパラレルワールドでは、少年のレオン・ラウド(16)とその守護霊サラ・レイス(25)が日夜悪魔と戦っている。悪魔の親玉を倒し、事故で亡くなった母親を救い出し成仏させなくてはいけない。しかし、物語は文子の感情とリンクしていて、不幸を感じると悪魔はどんどん強くなる。母親を救うために、幸せになろうとする。


【登場人物】
松本文子(21)ラブホテル清掃員
文野怜子(65)ラブホテル清掃員

塚田早織(21)大学生・文子の友人
新田紘一郎(21)大学生・早織の友人
蛍原ホタル(20)文子のサークル仲間
田宮タタミ(20)文子のサークル仲間
日比野源蔵(65)ラブホテルオーナー

 レオン・ラウド(16)高校生
サラ・レイス(25)ラウドの守護霊
レオン・ジェリア(46)シンの母

 高宮鈴音(21)大学生・インフルエンサー

 悪魔
面接官
教員
従業員



【本文】
◯雑居ビル・表
まばらな人通り。


◯同・会議室

古びた会議室に男性面接官と女性面接官が座っている。
向かいに松本文子(21)が座っている。
リクルートスーツを着ている。
文子の履歴書を見る男性面接官。
「日進高校中退」と書かれている。

男性面接官「これ、高校……」

遮るように文子、

文子「仕事との両立が難しくなりまして。はい。仕事に専念したんです。はい」
男性面接官「そ、そうですか……」
文子「学力的には問題ないです」

苦笑いする男性面接官。

男性面接官「あとお住まいは、これホテルですか?」
文子「住み込みで働いてるんです。はい」
男性面接官「そうですか……連絡はこの番号で……」
文子「はい、ちゃんと私の部屋に直通できますから」
女性面接官「携帯とかは?」
文子「電波は人体に悪いので、持たない派です」
女性面接官「そ、そうなのね」
男性面接官「ま、人生色々ですからね。神様は乗り越えられない試練は与えないって言いますし……」
文子「やっぱ私不幸ですか?」
男性面接官「いや……そんなことは」
女性面接官「そうそう。人生笑ってたら絶対良い方向に向かうから!」
文子「なんで励ますんですか?」

真顔で言う文子。

女性面接官「いやそうじゃなくて……」


◯同・表
足早に歩く文子。 上着を脱ぎ、投げ捨て歩いていく。 立ち止まり、戻る。 上着を拾う。


◯盛運堂書店・表

足早に入っていく文子。


◯同・店内

雑誌コーナーの一角の前に立つ。
目の前には雑誌「ザ・シナリオ」。
目をつむり、祈るようにパンパンと手を叩く。
雑誌を手に取り開く。
『シナリオ大賞二次通過者』の文字。
名前がずらりと並んでいる。
名前の上に星がついている人がちらほら。
息を呑む文子。
『松本文子』の文字の上に星はなし。
すかさず雑誌を乱雑に置き去る。


◯ラブホ街

夕立が降っている。
傘もささずトボトボとうつむき歩く文子。
古びたラブホテルに一人で入る。


◯ニュードリーム・フロント

日比野源蔵(65)が受付から顔を覗かせる。
びしょ濡れの文子を見て、

日比野「おかえり、ふみちゃ……どうしたの?」
文子「ただいま」

文子、受付に手を差し出す。
部屋の鍵を渡す、日比野。
びしょ濡れのままトボトボ廊下を歩く。
部屋からカップルが出てくる。
歩いてくる文子に驚く。
女性、怯えながら小声で

女性「私だけが、見えてるわけじゃないよね……」
男性「お、おう。足ついてる……」

カップルを通り過ぎ、奥の104号室に入る文子。


◯同・104号室
部屋一面UFOのグッズで溢れている。
壁には宇宙のポスター。
机にはパソコンと紙の山。
文子、紙の山を掴み、破り捨てる。
ベッドにダイブする。
隣室からうっすら喘ぎ声が聞こえる。


◯アダムスハウス・外観

薄暗い森の中。数匹のカラス。
どこからともなく唸り声が聞こえる。
一軒だけ建っている廃墟の洋館。


◯ラウドの脳内・暗闇
サラ・レイス(25)がレオン・ラウド(16)を呼ぶ声が聞こえる。

レイス「ラウド!ラウド!起きて!」


◯アダムスハウス・客室
ベッドで仰向けに寝ているラウド。
レイスの呼ぶ声でハッと目を覚ます。
額には汗。
しかし体は金縛りで動けない。
ベッドの向かいには、ワゴンで紅茶を用意する従業員がいる。

従業員「あら、起きましたか」

ニコッと笑う従業員。
ラウドのそばへ行く。
ラウドは体を動かそうともがいている。

従業員「そんな暴れなくていいのよ」
従業員、ラウドの首をそっと締めようとする。

すると客室のドアが勢いよく開く。
レイスが入ってくる。
レイスは、ライダースーツにブロンドヘアの出で立ち。
瞬時に従業員の背後につく。
小型ナイフで後ろから首をそっと斬りつける。

レイス「バイバーイ」

血しぶきとともに倒れ込む従業員。
ラウドは金縛りが解け、上半身を起こす。
大きく呼吸が乱れている。

レイス「記憶が吸い取られるとこだったね」
ラウド「は、だれ?てか、ここどこ?」
レイス「私はあなたの守護霊、レイス。よろしくね」
ラウド「は、守護霊?意味わかんねーよ」
レイス「ラウド、私に見覚えない?」
ラウド「いや」
レイス「あなたのおばあちゃんよ。ふふふ。私があんたの守護霊として守ってやってんのよ!感謝しな」
ラウド「え、レイスってレイスばあちゃん!?」
レイス「どうも~」

セクシーなポーズをとるレイス。

ラウド「ばあちゃんって何歳…?」
レイス「何歳にでもなれんのよ。でも25歳の私が一番お気に入りなの~」
ラウド「へえ。てかそんなこといいから、ここ一体なんなのさ!」
レイス「さっきのは悪魔。触れられたら記憶を抜き取られるの」
ラウド「記憶?」
レイス「そうよ、悪魔の好物は人間の幸せな記憶。根こそぎ抜き取られた人間は不幸な記憶に苛まれ、自ら死に走る」

従業員がムクっと起き上がり、ラウドに飛びつく。

従業員「ぎおぐー!」
ラウド「うおお!」

後ずさりするラウド。
すかさずレイスが従業員を斬りつける。
再び倒れこむ従業員。

レイス「悪魔はいくら斬っても蘇るの。ここ出るよ、ラウド」

部屋を出る二人。
去り際に従業員を見て吐きそうになるラウド。


◯同・1階・廊下
歩くラウドとレイス。
不気味なオブジェが並んでいる。

ラウド「なんだよ、この気持ちわりいの」
レイス「悪魔が吐き捨てた人間の不幸の記憶。うまーく幸せなやつだけ吸い取るのよ。ひい、怖い怖い」
ラウド「ひまわりの種みてえじゃん」
レイス「ラウド、例えが不適切。ひまわりに謝って」
ラウド「す、すいませんした……急に厳しいな、おい」

不貞腐れた顔のラウド。
廊下の先で、ガタンと物音が。

レイス、手をラウドの前に出し、歩くのを制止する。
レイス「人間は匂いでバレやすいの。気をつけて」
ラウド「お、おう」

再び歩き出すラウドとレイス。

ラウド「てか、俺なんでここいんの?」
レイス「悪魔の親玉を倒すのよ」
ラウド「親玉?」
レイス「そう。ここにいる悪魔すべてを動かしている悪魔。そいつを倒すか、ここで死ぬかよ」
ラウド「なんで倒さなきゃなんだよ」
レイス「この館に張られてる結界を解くの。親玉を倒して。そしたら悪魔も成仏できる」
ラウド「ばあちゃんは?」
レイス「私は必要がなくなったらいなくなるわ」
ラウド「必要?」
レイス「あなたが親玉を倒すためにいるの」
ラウド「へえ。じゃあ鍵は俺が握ってるってことか!」
レイス「まあ」
ラウド「へへーん。霊界王に俺はなる!ってか」

すかさずラウドにビンタをするレイス。
レイス、険しい表情で

レイス「おだまり!」
ラウド「……」

呆然と立ち尽くすラウド。
先を歩いていくレイス。

レイス「尾田先生だけにな!あはは!」
ラウド「……」

廊下の隅にいるネズミ、レイスを見て硬直している。


◯ニュードリーム・室内(朝)
部屋を清掃する文子。


◯同・廊下(朝)
文野怜子(65)が文子に話しかける。

怜子「今日の客は野獣のようだねえ。ハズレだわさ」
文子「最近、また客が増えだして疲れますね……」
怜子「ほんとよ。こっちは給料変わんないんだからね!」
文子「ま、源蔵さんはうれしいんでしょうけどね」
怜子「あ、ふみちゃん。おにぎりいる?多く作り過ぎちゃって。このあと学校行くんで しょ?」
文子「いつもすみません。怜子さんのおにぎり大好き」
怜子「そんなこと言ったら毎日作っちゃうわよ」
文子「本当においしいんですよ」
怜子「あ、そうだ。昨日私UFO見たかも!」
文子「え、ほんとですか!どこで?形は?色は?」
怜子「どうだったか……でもシュッと消えたのよ」
文子「方角はどっちでした?」
怜子「スーパーの上にいたのよ!」
文子「むむ。富士山から来たのかもですね」
怜子「富士山にいるの?UFOが?」
文子「あ、富士山の地下に秘密基地があるって噂なんです」
怜子「あんれま。さすがUFOクイズ日本チャンピオン」


◯走るバス・車内
文子、椅子に座りメモ帳に絵を書いている。
メモ帳には、ラウドとレイスの絵。


◯アダムスハウス・1階・キッチン

冷蔵庫で食料を漁るラウドとレイス。

ラウド「もう腹減っちまったよー。いつから食ってねえんだ…」
ラウド、ふと思い出したように言う。
ラウド「そういや俺ここに来る前って病院に……あれ?あ!母さんは!そうだ!車が急に飛び込んで来て!」
レイス「……」

うつむいたまま黙っているレイス。

ラウド「俺たち、死んだのか……?」
レイス「あんたは生きてる。私が連れてきた」
ラウド「母さんは!」
レイス「もうじき母親もここにくる」
ラウド「え…?」
レイス「ここは不幸な死、不可解な死、悲しみながら死んでいった者が集まるところ」
ラウド「なんで!なんで俺だけ助かってんだよ!」

顔を埋め、泣くラウド。
台所に拳を叩きつける。

レイス「悪魔が死者の魂を食べちまって、みんな成仏できないんだ」
ラウド「母さんは大丈夫だよな?」
レイス「ここに来る頃にはもう喰われてる」
ラウド「どうにかできねえのかよ!」
レイス「だからあんたが倒すんだ。悪魔の親玉を。倒せば魂も戻る」
ラウド「なんだ、そういうことかよ。やってやるよ!」


◯日本美術大学・外観(朝)
天気の良い日差し。緑豊かなキャンパス。


◯同・校舎前(朝)
歩く文子。
塚田早織(21)が文子に声をかける。

早織「文子、おはよ!」
文子「あ、さっちゃん。よかった、会えて」
早織「201号室の授業は出席とらないからもぐれるよ」
文子「そっか。ありがとう」
早織「なんか、元気ない?」
文子「落ちてた。これで23回目」
早織「あ、そっか……」
文子「中卒でみなしごは資格ないの?中卒の脳みそは諦めろってこと?宇宙の塵として一生を彷徨えってこと?」
早織「コンクールで賞取るなんて宝くじ当てるようなもんなんだから!」
文子「くっ。早く宇宙人にさらわれたい」
早織「そんなこと言わないの!」


◯同・廊下(朝)
たくさんの生徒たち。
教室に入っていく文子。
202号室の看板。


◯同・202号室(朝)
小さめの教室。
生徒たちが机に座っている。
一番うしろの席に文子。その隣に新田紘一郎(21)が座っている。
教員が出席を取り始める。

教員「浅野さん、石田さん、遠藤さん……」

一通り呼び終わり、文子に話しかける。

教員「君、呼ばれたっけ?」
文子「え、あ、はい」
教員「名前は?」
文子「すみません、ちょっとお腹が……」

お腹を抱えて外へ出る文子。
追う教員。

教員「ねえ、ちょっと待ちなさい!」

新田の前を通る教員。
新田、教員の足をかける。
転ぶ教員。
ざわつく室内。笑う生徒たち。
文子、新田の顔を見る。
新田、文子にウインクする。
顔を赤らめる文子。
廊下を走り校舎を出る。
ホテルの鍵を落としたことに気づかない。
新田も、あとを追って廊下にでる。
文子の落としたホテルの鍵を拾う。
不思議そうに鍵を見つめる。


◯アダムスハウス・外観
桜が咲き、舞っている。
ほんのり甘い香りが広がっている。


◯同・エントランス
悪魔がラウドに襲いかかる。

ラウド「うわああ」

後退りするラウド。
首を締めようとする悪魔。
しかし悶えはじめ、次第に消えていく。

ラウド「ど、どうなってんだ?外の景色といい、急に世界が変わったみてえだな」
レイス「ここは感情が支配する異次元世界。ころころ変わるわ」
ラウド「ふーん、めんどくせえな」
レイス「でも今がチャンスよ。悪魔が弱ってる」

遠くにいる悪魔が徐々に消えていく。

レイス「行くよ!」
ラウド「どこに?」
レイス「親玉のとこに決まってるでしょ」

階段を駆け上がっていく二人。


◯日本美術大学・ミステリーサークルサークル部室・表
旧校舎の古びた教室の一角。
「ミステリーサークルサークル」と書かれた看板が置いてある。


◯同・同・室内
文子と蛍原ホタル(20)と田宮タタミ(20)が談笑をしている。

蛍原「このミステリーサークルサイクロンめっちゃ涼みますわー」

蛍原、ミステリーサークルの形をしたポータブル扇風機を顔に当てている。

田宮「なんですぞ、その激アツグッズは!」
蛍原「月刊ミステリーの懸賞で当てたんですよ」

田宮「むむむ!」
蛍原「ところで部長、昨日のニュース見ました?」
文子「もちろん。あのUFOはきっとアメリカによく現れるやつだね。先週ブラジルで目撃されたやつと似てる」
蛍原「さ、さすがUFOクイズ日本チャンピオン……」

田宮、文子に尋ねる。

田宮「それはそうと!今年の夏の未確認飛行物体調査はどこにします?」
文子「そうねえ、田宮くんはどこがいい?」
田宮「北海道とかアツくないでしょうか!調査後は海鮮とビールで報告会なんてのはどうでしょう!」
文子「ほ、北海道?それいくらかかるんだろ……」
田宮「部長。お金は心配ご無用です。部費を申請すれば負担ゼロです!」

目の色が変わる文子。

文子「それは良い調査結果が出そうだね」
蛍原「私も北海道に一票であります!」
文子「そうとなったら部費の申請だ!私たちの揺るぎない熱意は、きっと職員の心を揺さぶるだろう。さあ、行っておいで!」
田宮「え、部長は?」
文子「いや私はもぐりだから」
蛍原「ばれないですよ」
文子「社員証見せるでしょ」
田宮「ずるいですぞ、そういう時だけもぐりを利用して」
文子「君たちが勝手に部長って言ってるだけじゃない」
蛍原「だってUFOクイズ日本チャンピオンですもん」
田宮「しかも最年少記録保持者」
文子「あ、私そろそろ仕事いかなきゃ!」
文子、身支度を始める。
文子「じゃあ、よろしく!」


◯同・構内
歩く文子。
後方から新田が声をかける。

新田「ねえ!君だよね?」

振り向く文子。

新田「はい、これ」

文子の家の鍵を渡す新田。

文子「え、うそ!」

バッグの中を覗く文子。

新田「面白い鍵だね」

笑いながら言う。
顔を赤らめ、受け取る文子。
目を合わさずうつむいたまま。

文子「あ、ありがとうございます」
新田「敬語じゃなくていいよ。タメなんだから」
文子「あ、ありがとう。足も引っ掛けてくれて……」
新田「とっさにやっちゃった」
文子「私、あの授業とってなかったみたいで……」
新田「はは。だからって逃げなくていいのに」
文子「そ、そうだよね」

遠くから蛍原と田宮が文子に声をかける。

田宮「あ、部長!申請降りましたですぞー」

文子、気まずそうに蛍原と田宮に背を向ける。

新田「後輩?」
文子「あーいいのいいの!なんかこっち見てるね。あの人たち。あはは」
新田「あ、なにそれ!面白そう!」

文子の手にはミステリーサークルサイクロン。
それを指差す新田。
文子、挙動不審にその扇風機を投げ捨てる。

文子「あれれ、なんでこんなの持ってるんだろう……あはは」

呆然と見ている蛍原と田宮。

新田「てか早織と友達?よく一緒にいるの見るなと思って」
文子「え、あ、そうだね」
新田「俺も早織と友達なんだ!よろしくね」
文子「う、うん。よろしくね」
新田「そうだ。早織にも声かけたんだけど、テニスの試合見ない?俺出る予定で」
文子「え、行く!行く行く」
新田「7月20日なんだけど」

文子の離れたところから会話している田宮と蛍原。

田宮「そこは調査日ですぞ……」
蛍原「先約ですからね、残念、部長」

即答で文子、

文子「空いてる!い、行こう。てか絶対行く。這ってでも行くから!」

呆然とする蛍原と田宮。

新田「ありがとう!じゃあこれ。チケット」
新田、バッグからチケットを取り、文子に差し出す。
文子「あ、ありがとう」うつむいたまま受け取る文子。
新田「じゃ!がんばるから!」

その場を去っていく新田。


◯ニュードリーム・104号室
神棚に新田の試合のチケットが祀られている。


◯アダムスハウス・2階
あたりにはメリーゴーラウンド、馬車があり、おとぎの国のようになっている。
悪魔たちもニコニコしている。
ラウドにも襲いかからない。
それを見てラウド、

ラウド「おい、いったいどうなってんだよ」
レイス「悪魔たちが幸せの空気に浸ってる。今よ。いっきに最上階まで行くよ」


◯日本美術大学・テスコート
文子と早織が新田の試合を観戦している。
観客席には「ガンバレ!紘一郎♡」と書かれた大きな垂れ幕。
女子部員たちが声援を送っている。
ボールを追って首が左右に揺れる観客たち。
首が動かず新田だけを見つめる文子。
それを見た早織、

早織「いや見過ぎ見過ぎ!」

恥ずかしそうにする文子。
早織は新田の垂れ幕をみて

早織「それにしてもすげえな紘一郎。でもそんなモテるタイプかな?」
文子「そりゃ、モ、モテるでしょ。三拍子揃ってるもん!」

おどおどしながら答える文子。

早織「三拍子の3つって?」
文子「え、そりゃ、友達想いだし、ルックスも良いし、あと変な趣味なさそう!」
早織「UFO好きみたいな?」

笑って早織が言う。

文子「UFO好きは……、変だけどみんないいやつだよ!」

試合が休憩に入る。

早織「ねえ、今度夏祭り行かない?夏だし」
文子「私はいいかなあ。夏にやるイベントって夏以外にやるほうが絶対楽しくない?涼しいし」
早織「そっか。新田と計画してたんだけど……」
文子「行く!絶対行く!夏感じることにする」


◯ニュードリーム・廊下(朝)
部屋の清掃をする文子と怜子。
文子、怜子に尋ねる。

文子「怜子さん、夏祭りってどんな服着たらいんだろう?」
怜子「そりゃ浴衣に決まってるじゃない!」
文子「浴衣ですか……どうも『夏感じてる私最高』みたいに見えて気が引けるというか……」
怜子「そうは言ってもね、その場のノリに合わせられる奴が全部かっさらっていくのよ」
文子「くっ。人間界つらい……」
怜子「それが世の常」
文子「でもお金が……」
怜子「大丈夫。私のがあるから!」
文子「え、いいんですか!」
怜子「まかせなさい。だれでも美ボディになれる浴衣よ」
文子「なんて尊い」
怜子「明日持ってくるわ」
文子「ありがとうございます!何をお返しすれば……」
怜子「そんなのいいのよ!でもその浴衣でここに連れ込んじゃだめよ。うふふ」

笑う怜子。

文子「そ、そんな。あるわけないじゃないですか!」

恥ずかしがる文子。


◯神社・外観(夜)
夏祭り。
出店と浴衣姿の客たちで賑わう神社。


◯同・参道(夜)
早織と新田が立って話している。
浴衣姿の二人。

早織「待ち合わせここって言ったはずなんだけど」

遠くから文子が来る。

早織「ん?あ、あれ絶対文子だ……」

UFOの刺繍がつけられた浴衣を着る文子。
巾着にはUFOの形のお守りがついている。

文子「ご、ごめん。お待たせ」
早織「ううん。すぐ文子ってわかったわ」

恥ずかしそうにする文子。

文子「職場の……じゃなくてバイト先のおばちゃんが作ってくれて……お守りも」
新田「いいね、らしさ全開で。すてき!」

顔を赤らめる文子。

早織「よし、行こう!」

文子、早織、新田、お酒片手に参道を歩く。

新田「夏祭り楽しいよねえ!夏って感じ!」
文子「う、うん。すごい楽しい!」
早織「いや文子、夏祭り苦手なんでしょ?」

笑っていう早織。
文子、真顔で

文子「冗談だよ、そんなの」
早織「え、ご、ごめん」

早織、赤い花柄の巾着の中をゴソゴソ探す。

早織「あ、やっば!家に大事なもの忘れてきちゃった!」
文子「大丈夫?」
早織「ごめん、急ぎ取ってくるからちょっと二人で楽しんでて!」
文子「え、早織、ちょっと……」
新田「ほーい。戻ったら連絡して」

その場を去る早織。
困惑する文子。

新田「あ、じゃあ早織戻ってくるまであそこで座ってようか!」
文子「う、うん……」

新田と文子、二人で参道を歩く。
うつむき喋らない文子。
文子たちとは離れたところに、蛍原と田宮がいる。
浴衣姿で参道を歩いている。

蛍原「いやー夏祭りもいいもんですなあ」
田宮「夏の風物詩はやはり乙ですぞ」


◯同・本殿(夜)
人の少ない静かな本殿。
本殿の脇に腰を下ろす新田と文子。
新田、文子に話しかける。

新田「文子ちゃんって、休みの日何してるの?」
文子「え、なんだろう……小説、書いたり」
新田「へえ!どんなの書くの?」
文子「SFとかホラーとか……『E.T.』とか『未知との遭遇』みたいな」
新田「へえ、すごいな!全くの架空の話でしょ?才能だよなあ」
文子「え、いや、そんな。新田くんのテニスに比べたら、私なんかもう、宇宙の塵みたいだし……」
新田「宇宙の塵って」

笑って言う新田。
すると夜空に星とは違う光る物体が。
星よりも大きな光。
機敏に動いている。

新田「え、なにあれ?UFO?」

驚いて文子も空を見上げる。

文子「本当だ!新田くんあれUFOだよ!」
新田「え、やっぱそう?すげー」

すかさず動画を撮る新田。

文子「あの動き、光の大きさからすると、1986年9月ロサンゼルスの上空、1995年3月マドリードの上空で確認されたものに近いね!」

夢中になって喋る文子。

新田「めっちゃ詳しいね、文子ちゃん!」
文子「え、あ、まあ。あはは」

我に返り恥ずかしそうにする文子。

文子「あ!移動した!」

立ち上がり、急いで追いかける文子。段差に気づかず転んでしまう。

文子「いった……」

膝を擦りむき、痛そうにしている。
新田が駆け寄り、

新田「文子ちゃん、大丈夫?あはは、興奮しすぎだよ」

なんとか立ち上がろうとする文子。
蛍原と田宮、文子を見つけ、興奮した様子で話す。

田宮「部長!今の見ました!?」

座って膝を押さえる文子。

蛍原「あ、部長怪我してる。大丈夫です?」
文子「あ、二人も来てたんだ……」

文子、苦笑いする。
新田、文子の前でかがみ、おんぶしようとする。

新田「鳥居の近くに医務室があるよ。そこ行ってみよ」
文子「あ、いや、私大丈夫だから」

一人で起き上がろうとする。

新田「いいから。背中のって」

新田の背中に乗ろうとする。
横を見ると田宮と蛍原が見つめている。
やはり自分で起き上がろうとする。

文子「痛っ!」

転びそうになる文子。
それを支える新田。

新田「おとなしくしなって」

新田、自分の手で文子を背中に乗せる。
文子、顔を赤らめる。
田宮と蛍原の前を通っていく。
文子は恥ずかしさのあまり、顔を埋める。

田宮「パ、パイセン、夏、120%……」
蛍原「なんというloveでしょう……」


◯同・鳥居(夜)

早織、鳥居のほうへ歩く。
前方に文子をおんぶした新田を見つける。
早織、木陰に隠れ様子を見る。


◯同・医務室・室内(夜)
医師が文子の足を治療している。

文子「痛たたた」
医師「下駄は慣れないでしょう。転ぶ人多いんだ」
文子「夏祭りを悪く言った罰かもしれないです」
医師「それは悪いお嬢ちゃんだ」

笑って言う医師。


◯同・同・表(夜)
外で待っている新田。
そこへ早織がやってくる。

早織「え、どうしたの?」
新田「文子ちゃん転んで怪我しちゃったんだ」

早織、真顔で新田に言う。

早織「ねえ、本気にさせてないよね?」
新田「いや、おんぶしただけだよ」
早織「ならいいけど」
新田「怒ってる?」
早織「別に」



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