『愛はときどきクルってる』 第2話
【本文】
◯喫茶店・店内
向かい合って座る進と和枝。
注文をする二人。
進「じゃあアイスカフェラテ。あ、ガムシロ2つで」
和枝「じゃ、私もそれで。ガムシロも2つね」
進を見て微笑む和枝。
和枝「奏ちゃん、気を悪くしてないかしら?」
進「なんで?」
和枝「この前のこと……」
進「あいつは嫌なことは、次の日に残さねえからよ。酒みてえに。気にしてねえよ」
和枝「そう?ならよかった。大人げなかったから……」
進「いや俺も悪かったよ」
和枝「次郎にもちゃんと言っといたから。仲良くしなさいって」
進「いや俺もついカッとなっちゃて。悪い」
和枝「いいのいいの」
和枝、バッグからチャペルのパンフレットを嬉しそうに取り出す。
和枝「じゃ、仲直りしたことだし、式の予約しちゃう?しちゃうしちゃう?」
進「それなんだけどよ……」
和枝「なに?」
進「わりいけど、少し時間置かせてくれねえか」
和枝「なんでよ!」
進「奏たちに変な気を遣わせたくねえしよ」
和枝「……」
進「姉弟って関係じゃ、もし別れたら気まずいとかよ。あるじゃねえか。あと奏はメディアにでるような立場だし」
和枝「……それもそうね」
進「わりいな」
和枝「私ちょっと舞い上がってたわ。二人を見守らなきゃね」
◯遊園地・表
うつむき、足早で出ていく奏。
若いカップルのミキヒサとアンナが奏に話しかける。
ミキヒサ「あ、すみません、写真撮ってもらってもいいっすかー?」
見向きもせず通り過ぎる奏。
それを見て
アンナ「え、感じ悪っ!」
ミキヒサ「え、ちょー冷たくない?」
アンナ「北極かってくらい身震いしたわ」
ミキヒサ「大丈夫。俺が温めてあげる」
アンナを抱きしめるミキヒサ。
アンナ「え、ちょー温かーい。水風呂のあとの露天風呂ー」
◯同・園内
次郎、うつろな表情でトボトボ歩く。
ミキヒサとアンナが次郎に話しかける。
ミキヒサ「すみません、写真撮ってもらってもいいっすかー?」
真顔で答える次郎。
次郎「自撮りでお願いします」
足早に去っていく次郎。
アンナ「なに?ここの客。感じ悪くなーい?」
ミキヒサ「ちょー心狭いんですけど。エコノミークラスですか?」
ミキヒサに抱きつくアンナ。
アンナ「アンナの心の広さは、空と同じ」
ミキヒサ「離陸しちゃうんですけどー」
◯繁華街(夜)
客引きに見向きもせず通り過ぎる次郎。
うつろにトボトボ歩く。
ビラ配りから、ビラを受け取りそのまま歩く。
◯電車・車内(夜)
次郎、椅子に座っている。
うつむき、ぐったりとしている。
◯渋谷・ハチ公前
翌日。
男性が立ち止まって携帯を眺めている。
奏、その隣で自撮りをする。
男性の半身が写るようにさり気なく撮る。
◯英利大学・教室
淡々と授業をする次郎。
次郎「えー鳥は種類によって飛行方法が様々です」
仲良く雑談している男女の生徒を見つける次郎。
次郎「そこの男女!幸せだからってなあ。人前でいちゃつくんじゃないよ!」
カップル男「あ、すみません……」
ざわつく教室。
咳払いする次郎。
何事もなかったかのように授業を再開する。
◯笹川家・LDK(夜)
テーブルで寝てしまっている奏。
空いた缶ビールが何本も置かれている。
枕元には本『ハクトウワシに私はなりたい』が置かれている。
進が部屋に入ってくる。
静かに空き缶を片付ける。
◯鈴木家・次郎の部屋(夜)
ベッドの上で携帯を見る次郎。
奏のSNSを開く。
男性の半身が写った写真が投稿されている。
『今日は久々に友達と飲み!朝までコース!?』と書かれている。
携帯を投げ捨てる次郎。
枕に顔をうずめる。
次郎「うわああああ」
ベッドの脇にはビラが置かれている。
『2週間であなたも恋愛マスター!復縁、禁断の恋、恋の悩み、何でも来い!』と書かれている。
◯オブラディビルヂング・外観
雑居ビルの一角。
次郎、辺りを見回しそそくさと入っていく。
看板には「カツノリ式恋愛講座」という立て看板がある。
◯同・教室
10名ほどの生徒が机に座っている。
その中の一人に次郎がいる。
講師のジュード・カツノリ(40)が元気よく話している。
ジュード「ハーイ、みなさん。ようこそ、ようこそ、ようこそ」
真顔の生徒たち。
ジュード「みなさんは復縁コースということでね。はい、そこのあなた。なぜ復縁したいんですか?」
次郎がさされる。
次郎「え、急すぎませんか?」
ジュード「いいの、いいの、いいの」
次郎「えっと、別れた理由がわからないんです……」
ジュード「と、いうと?」
次郎「と、いうと……地獄に落ちても構わないって感覚が、僕といてもないって……」
ジュード「ビューティフォー!その方、きっと素敵な方ね。よくわかってる」
次郎「わかってる?」
ジュード「大丈夫です。2週間やればあなたもわかります。復縁、ロックオンです」
次郎「は、はあ……」
◯笹川家・和室
書道の練習をする奏。
右手首には包帯が巻かれている。
奏「うっ!」
痛くて筆を落としてしまう。
◯病院・診察室
デスクに座り、レントゲンを見る先生。
じっと見つめる奏。
先生「また練習したの?負傷してるのに」
奏「……」
先生「靭帯切ってるんだから。言ったでしょう。一ヶ月は安静にって」
奏「大事なショーなんです……一日だけでもどうか!」
ため息をつく先生。
先生「あのね、下手すると今後の書道家生命にも関わってくることだよ?」
奏「……」
先生「一度ゆっくり考え直したほうがいい」
右手を見つめる奏。