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『ファイティング・シンデレラ』 第3話
【本文】
◯日本美術大学・ホワイエ
文子、蛍原、田宮、高宮鈴音(21)を尾行している。
蛍原「あれがあの高宮鈴音ですか」
田宮「さすがキラキラしてますぞ。インフルエンサー」
文子「一人になったところを見計らっていくよ」
蛍原と田宮「ラジャー」
鈴音、一人で椅子に座る。
文子「今だ!行ってくる!」
文子、鈴音に声をかける。
ぶりっ子のように話す文子。
文子「あれーもしかして、鈴音ちゃんですかー?」
鈴音「あ、はい」
文子「やっと会えたー。ちょーうれしいですう」
遠くから文子を見守る蛍原と田宮。
田宮「ぶりっ子キャラ、さすがにキツくないでしょうか……」
蛍原「部長、陽キャ相手にはあういうのが効くと思い込んでるんでしょうね……」
田宮「我々には異次元過ぎたか……」
鈴音が文子に尋ねる。
鈴音「で、なんですか」
文子「私催眠術研究会に入ってるんですけどー、彼氏に効く催眠術とか興味ないですか?」
鈴音「え、それ、本当に効くんですか?」
文子「そりゃもう、彼女にメロメロになりますー」
あたりを見回す鈴音。
誰もいないことを確認し、小声で文子に言う。
鈴音「実は最近彼氏とうまくいってなくて……」
文子も小声で答える。
文子「鈴音ちゃん、SNSでそんな気配だしてたからー。私気になって」
鈴音「ありがとう!どうすればいいですかね?」
文子「じゃあぜひこっちのほうに」
空いている教室に誘導する文子。
蛍原と田宮、教室にスタンバイする。
◯同・教室
鈴音を教室に案内する文子。
蛍原と田宮を紹介する。
文子「優秀な催眠術師の蛍原先輩と田宮先輩ですー」
鈴音「あ、よろしくお願いします」
頭を下げる鈴音。
ゆっくりとお辞儀をする蛍原と田宮。
蛍原「ようこそ、催眠術の世界へ」
田宮「あなたのお悩みは?」
鈴音「最近彼氏とうまくいってなくて」
蛍原「承知しました。魅力的な女性になる催眠をかけましょう。これで彼氏がメロメロですよ」
鈴音「ありがとうございます!」
蛍原と田宮、ひもをつけた五円玉を使って、鈴音に催眠をかける。
田宮「では目をつむって」
目をつむる鈴音。
◯ニュードリーム・廊下(朝)
部屋の清掃をする文子。
以前と違い、てきぱきと動く文子。
日比野「ふみちゃん、今日も頑張ってるねえ!」
文子「このホテル、今に有名になりますよ。そしたらお金分けてくださいね!」
日比野「本当にそんなことあるかなあ」
笑っていう日比野。
怜子も会話に加わる。
怜子「催眠術で本当に客が来るの?」
文子「もちろん。インフルエンサーの手にかかれば余裕ですよ!」
怜子「いいわねえ。焼肉焼肉!」
文子「引っ越し引っ越し!」
◯日本美術大学・ミステリーサークルサークル・部室
SNSを見ている蛍原と田宮。
文子が入ってくる。
田宮「部長、大成功ですぞ!ニュードリームがバズってます!」
文子「本当!どれどれ?」
鈴音のSNSを見る文子。
文子「わ!本当だ!」
鈴音、SNSの投稿で『ニュードリームっていうホテル、カップルが泊まると絶対幸せになるらしいよ』と書いている。
文子「明日から忙しくなるぞ」
蛍原「でもちょっと気の毒なことしましたね……」
田宮「本当に彼氏がメロメロになってたらいいですが」
文子「今度その催眠かけてあげればいいじゃない」
田宮「いや彼氏にかけないと意味ないような……」
蛍原「今度彼氏も連れてきてもらいましょう」
田宮「そうですな……」
◯ニュードリーム・表(夜)
たくさんのカップルで行列ができている。
◯同・受付(夜)
日比野が必死にお客の対応をしている。
その隣に文子もいる。
日比野「すみません、今日はもういっぱいで……」
文子「ね、言ったでしょ?」
日比野「たまげたよ。人気ラーメン屋の店主になった気分だよ」
文子「この前テレビでも特集されてましたね」
日比野「人生なにがあるかわからんね」
満面の笑みでうなずく文子。
文子「私の人生も」
◯同・104号室(夜)
はちまきをして、パソコンに向かう文子。
◯同・104号室(朝)
窓から朝日が差し、鳥が鳴いている。
まだパソコンに向かっている文子。
文子「よし、できた」
笑みを浮かべ、大きく伸びをする文子。
◯大通り(朝)
ポストに封筒を入れる文子。
封筒には、『シナリオ大賞御中』と書かれている。
パンパンと手を合わせる文子。
◯アダムスハウス・3階
悪魔に首を締められているラウド。
苦しくもがいている。
レイスの体が徐々に消えている。
レイス「まずい。記憶が消えかけてる」
レイス、悪魔に斬りかかるも敵わない。
何度やっても吹き飛ばされてしまう。
もがくラウド。
消えかかるレイス。
すると悪魔の後ろから、ジェリアが悪魔の腕を斬り落とす。
助かるラウド。
ラウド「か、母さん!」
レイス「魂がまだかすかに残ってたようね」
ラウド「レイス、足がなくなってる!」
レイス「ラウド、あと少しよ。やつを倒せば私はもう消えていい」
ラウド「そんな……」
◯同・外観
空に光が差し込める。
今までになく明るい景色。
花や草木が生い茂っていく。
◯同・3階
あたりが光で照らされていく。
レイス「今がチャンスよ。光で悪魔は弱くなる」
ラウド、悪魔に斬りかかる。
悪魔「ぎゃああああ」
さらに斬りつけるラウド。
悪魔「このザコがあ!」
吹き飛ばされるラウド。
壁にぶつかる。
ラウド「くっ!」
悪魔「痛えじゃねえか!」
ラウドの首を締める悪魔。
苦しくもがくラウド。
ラウド「離せ!」
すると後ろからジェリアが悪魔を斬りつける。
悪魔「ぎゃああああ」
ジェリア「ラウド、早く!」
勢いよく悪魔を斬りつけるラウド。
悪魔「ぎゃああああ」
あたりに大きく光が差し込める。
悪魔「光を消してくれ!」
苦しく悶える悪魔。
悪魔「頼む。消してくれ!光を消してくれ!」
悪魔の体が焼けていく。
悪魔「ぐわああああ」
ドシンと大きく揺れる。
レイス「ラウド、やったわ!結界が解けた」
大きく揺れだす館。
あたりが砂になって、崩れはじめる。
◯同・外観
悪魔に吸われた記憶たちが浮遊体となって、四方八方に飛び散っていく。
◯同・3階
どんどん崩れだす館。
悪魔「ぎおぐを返せー」
消えかかっていくレイスを見てラウド、
ラウド「レイス!待ってよ!」
レイス「よくやったわ、ラウド。もう私は必要ないわ。これを」
エメラルドに光るペンダントをラウドに渡すレイス。
レイス「今後もう私が現れる必要がないことを祈るわ」
消えていくレイス。
ラウド「レイス!」
ペンダントを握りしめる。
ジェリア「ラウド」
人間の姿に戻ったジェリア。
ラウドを抱きしめるジェリア。
ラウド「母さん!やっと会えたのに……」
涙を流すラウド。
ジェリア「あなたのおかげで天に行けるわ。あなたは勇敢な子」
ラウド「行かないでよ。お願いだから!」
ジェリア「いつも見守ってるから。悲しまないで」
強く抱きしめるジェリア。
ジェリア「早く行きなさい。もう崩れるわ」
ジェリアが消えていく。
ラウド「母さん!」
涙を拭いながら走るラウド。
館が崩れ落ちるギリギリで外へ出る。
◯盛運堂書店・表
冬。雪が降っている。
足早に入っていく文子。
◯同・店内
雑誌コーナーの一角の前に立つ。
目の前には雑誌「ザ・シナリオ」。
目をつむり、祈るようにパンパンと手を叩く。
雑誌を手に取り開く。
『シナリオ大賞二次通過者』の文字。
名前がずらりと並んでいる。
名前の上に星がついている人がちらほら。
息を呑む文子。
『松本文子』の文字の上に星がある。
笑みを浮かべる文子。
◯ニュードリーム・表(夜)
春。
たくさんのカップルで行列ができている。
◯盛運堂書店・店内
雑誌コーナーの一角。
「ザ・シナリオ」を手に取る文子。
目をつむり、祈るようにパンパンと手を叩く。
雑誌を手に取り開く。
小さくつぶやく文子。
文子「大賞こい、大賞こい、大賞こい」
『シナリオ大賞受賞者発表』の文字。
名前がいくつか並んでいる。
息を呑む文子。
大賞には別の名前が。
ファイナリストに『松本文子』の文字。
天を仰ぐ文子。
雑誌を置く。
店を出る。
◯同・表
文子、小さくつぶやく。
文子「まあ、よくやったぞ、文子」
笑みを浮かべ歩く。
◯ニュードリーム・屋上(夜)
文子、怜子、日比野、蛍原、田宮でバーベキューをしている。
日比野「いやあ、明日から寂しくなるなあ」
蛍原「引っ越しても、部室には来てくださいね!」
田宮「待ってますぞ!部長は永遠です」
文子「はは。ありがとう」
怜子「ずっといられたら私が辞めれないわ」
笑って言う怜子。
文子「本当にお世話になりました」
怜子「私もなにかニュードリーム始めようかしら」
一同笑う。
蛍原「そういえばさっき、早織さんと新田さんがここに来てましたよ?」
文子「二人にはスペシャル仕様でご案内しといたよ」
田宮「といいますと?」
文子「激辛唐辛子エキス入りコンドームのお部屋だわさ」
蛍原「そ、それは激アツですね」
文子「そろそろじゃないかな」
下の階から、早織と新田の悲鳴が聞こえてくる。
◯同・105号室(夜)
新田と早織が悶えている。
新田「ヒイヒイ、な、なんなんだよ、これ!」
早織「なにここ!信じらんない!」
◯同・屋上(夜)
夜も更け、屋上には文子と怜子の二人きりに。
柵に寄りかかり、外の景色を眺めている文子。
怜子に話しかける。
文子「私、怜子さんいなかったら、ずっと自分のこと不幸だと思ってました。本当に……」
振り返り、怜子の方を見て話そうとする文子。
すると座っていたはずの怜子がいない。
驚く文子。
文子「怜子さん……」
怜子の椅子までいく。
エメラルドに光るペンダントが置いてある。
ハッと驚く文子。
ペンダントを胸に当てる。
笑みを浮かべて空を見上げる文子。
了