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『スケバン美玲』 第1話

【あらすじ】
台湾出身の江美玲(こうめいれい)(25)は、『スケバン刑事』で日本語を覚えたことから、独特な喋り方をする。
彼女は日本で恋愛詐欺に合い、借金を抱えてしまったことから飛び降り自殺を図る。自殺を図ろうと屋上にいる美玲の下の階では、富永雄一(30)が会社の金庫から金を奪っている。しかし職員に見つかり逃げるように屋上に向かった先で、美玲と富永は出会う。
富永は美玲の自殺を思いとどまらせ、その後も美玲に一緒に行動するよう促していく。それは、美玲が富永の妹・富永里子(19)と瓜二つだからである。富永は里子を悪い仲間から救い出そうと試みているため、美玲をうまく利用できないかと考えていた。


【登場人物】
江美 玲  (25) 留学生
富永 雄一 (30) 賞金ハンター
富永 里子 (19) 雄一の妹
田宮 壮亮 (34) 強盗犯
川上 真司 (32) 強盗犯
三浦 ジョー(32) 強盗犯
新田川 権 (45) 刑事
塚田 段  (30) 刑事
手城 サトル(40) 便利屋
白石 真希子(27) 会社員

警官
老婆
支店長
女性銀行員
清掃員
チケット販売員
乗組員


【本文】
○新生ビルヂング・屋上(夜)

都内の雑居ビル。
ビルの端スレスレに江美玲(こうめいれい)(25)が立っている。
美玲の右目にはホクロがある。
美玲の後ろには靴と手紙。
ヨーヨーを手に持ち、じっと見つめている。


○同・ユニオン工業・室内(夜)
最上階、30畳ほどの小さなオフィス。
真っ暗闇の室内。
富永雄一(30)が、金庫の中から札束をバッグに移している。


○同・同・表(夜)
白石真希子(27)が鍵を開け、オフィスに入る。


○同・同・室内(夜)

富永、扉が開く音に気づき急いで金庫を閉じる。
室内の電気がつく。
富永は机の下に隠れる。
浮かない顔の真希子。
重たいバッグを、ため息をつきながらズシンとデスクに下ろす。

真希子「バッキャロー!」

その声に驚く富永。
頭をデスクにぶつけてしまう。
ドン!と物音。

真希子「え、だ、だれ?」

富永、一目散に玄関へ向かい、表へ出る。

真希子「え、え、人!?」


○同・同・表(夜)
富永、焦りながらエレベーターのボタンを何度も押す。
ボタンの上の数字は1階を指している。階段で降りようとするも、行き止まり。階段をあがり屋上に出る富永。


○同・屋上(夜)
扉を開けると目の前には、美玲。
美玲は振り向き、落ち着いた様子で富永を見て、また前を向く。

富永「さ、里子?」

美玲、訛りのある日本語で言う。

美玲「里子?」
富永「いや、人違いだ」
美玲「ふん、邪魔しないでおくんなまし」
富永「おくんなまし?」

苦笑いを浮かべる富永。
美玲の方へ歩み寄る。

美玲「ちょ、ちょっと、近づかんでよ!」
富永「激痛だよ?地面にぶち当たってからの数分間。いいの?」

唾を飲み込む美玲。
富永は気付かれないように、靴と手紙をバッグへ入れる。
屋上の扉が開く。
そこには真希子が。
ほうきを持って震えながら言う。

真希子「ちょ、ちょっとあんたたち。盗んだでしょ!」
美玲「盗んだ?え、あてえ違う!」

富永は、真希子の前へ行く。
バッグから札束をポンと、真希子の前へ放り投げる。

富永「見逃してくれないか?」
真希子「きょ、共犯なんてごめんよ」
富永「すでに誰もいなかった。そう証言すればいい」

首を横にふる真希子。
もう一つ札束を放り投げる富永。

富永「じゃあ一つ、何でも言うこと聞いてやる。それでいいだろ」
真希子「か、彼氏。彼氏ちょうだいよ!」

呆れた顔の富永。

富永「タイプは?」
真希子「吉沢亮。それか竹中直人!あ、それか真矢みき!」
富永「わかった。俺はトミー。あんたの名前は?知らないと渡せないだろ」
真希子「ト、トミー?」
富永「ああ」
真希子「オ、オーケー、トミー。アイム、ア、アンジェリーナ」

真顔で見つめる富永。
言い改める真希子。

真希子「……白石。白石真希子よ」
富永「わかった。用意する」

遠くからパトカーの音が鳴り響く。
富永、急いで下へ降りる。
走って降りていく富永に向かって、真希子は大きな声で言う。

真希子「クリスマスまでだからねー!」

美玲も走って階段まで向かう。
真希子の前で立ち止まり言う。

美玲「あてえ、違うから!」


○繁華街・表通り(夜)
クリスマスのイルミネーションが所々で飾られている。
行き交う人は、厚手のコートを羽織っている。
裸足で薄着の美玲、早足で雑踏をすり抜ける。
警官が美玲に話しかける。

警官「君、ちょっといいかな?」

足早に歩きながら

美玲「な、なにさ」
警官「ちょっといくつか尋ねても」
美玲「マッポの手先なんかにゃならんぜよ!」
警官「警官のことマッポって……久しぶりに聞いたな……」

走って逃げる美玲。
雑踏の中を駆け抜ける。

警官「お、おい!待てコラ!」

走って追いかける警官。
その足を引っ掛ける富永。
勢いよく転ぶ警官。
富永と美玲、雑踏に紛れ込む。


○同・裏通り(夜)
富永、美玲に話しかける。
美玲、足早に歩きながら

美玲「ち、近づかんでおくんなまし」
富永「真冬にその格好じゃ職質くらうだろ。まずくないか、就労ビザきれてるんだし」
美玲「な、なんで知ってるんじゃ!」
富永「これに書いたろ」

富永の手には遺書。
遺書を奪い取る美玲。
男とツーショットの写真が落ちる。
慌てて拾う美玲。

富永「とりあえず一緒に来いよ。金もある」
美玲「遠慮する。さっさと行き!」
富永「ちょっとくらい信じろよ。俺のこと」
美玲「ふん、信じたら負けじゃ、人生」
富永「終わらせようとしたくせに」
美玲「うるせえ!」

美玲、お腹がグーッとなる。
富永、バッグから美玲の靴を差し出す。
自分の上着を脱ぎ、美玲に着せる。

美玲「…ふん、とりあえず、夕飯だけな」

美玲、ポケットに手を入れる。
慌てた様子。

美玲「あてえのヨーヨーがない!」
富永「俺がもっといてやる」

美玲のヨーヨーを持っている富永。

美玲「返せ!」
富永「あとでな」
美玲「あてえを利用しようたって何も持ってないぜよ!」
富永「そんなつもりじゃないさ」
美玲「ふん、この冷酷男!」


○レンタカーショップ・表(夜)
店内で富永と店員が話している。
表で待つ美玲。


○同・店内(夜)
免許証を差し出す富永。


○走る車・車内(夜)
赤いワゴン車。
運転する富永。
助手席に美玲。
富永が美玲に尋ねる。

富永「いくら騙されたの?写真のイケメンに」
美玲「……1000万」
富永「だからって飛び降りなくても」
美玲「家族なんておらんし。死のうがあてえの勝手だろ」
富永「まあそれもそうだな」
美玲「いや否定せんのか。冷酷男」
富永「……悪い」
美玲「やっぱ降りる」

助手席のドアを開ける美玲。

富永「おい!やめろ!」
美玲「いいから降ろせ」

ハンドルを掴む美玲。
大きく車が左に寄る。
ドアがガードレールにぶつかる。

富永「よせ!悪かった。謝る!」
美玲「聞こえん」
富永「すまない。死んでほしくないよ!助けたろ!」

ドアを閉める美玲。

美玲「よろしい」

大きくため息をつく富永。

美玲「腹減ったか?」
富永「まあ」
美玲「元気だすにはやっぱ肉だな!あんたも顔が疲れてる」
富永「今ので疲れたんだよ」


○大通り・俯瞰(夜)
富永の車を、一台の白いセダン車が尾行している。


○走る車・車内(夜)
運転席に塚田段(30)。
助手席に新田川権(45)が乗っている。

塚田「あの女、相棒っすかね?」
新田川「さあな、まあ泳がせとけ」


○焼肉屋・外観(夜)
牛の絵が描かれた看板。
『焼肉』の文字。


○同・店内(夜)
向かい合って座る富永と美玲。
テーブルには肉がズラリと並んでいる。

美玲「いくらでも食いな!」
富永「俺が出すんだよ」

テーブルの上に富永の携帯。
画面がつく。
待ち受けには妹と母と富永の三人で写っている写真。
妹の右目にはホクロがある。

美玲「それ、里子か?」
富永「ん?よくわかったな」
美玲「この娘にさっき間違えたろう。なんかあてえに似てる」
富永「ああ、驚いた。なんでここにって」
美玲「妹は何やってんのさ」
富永「強盗」
美玲「クソだな」
富永「クソって言うな。悪いのとつるんじゃったせいで抜け出せないんだ」
美玲「自業自得」
富永「だから妹を連れ戻すのさ。金で」
美玲「それで盗んだのか」
富永「明後日のクリスマスで20歳なんだ。それまでに連れ戻したい」
美玲「金ですんなりいくんか?お前さんはどうなるんだい」
富永「しばらくその連中といて、すぐ抜け出すさ」
美玲「それ、大丈夫なんか?」
富永「ちょろいもんさ」
美玲「そうかい」
富永「母さんとの約束なんだ。20歳の誕生日にこれを渡さないと」

富永、バッグからDVDを取り出し、見せる。

美玲「それなにが入ってるんじゃ?」
富永「ビデオメッセージさ。亡くなる前に録画しといたやつだ」
美玲「……そうか」
富永「それにしても、あんたの日本語、どこで覚えたのさ」
美玲「スケバン刑事さ。台湾にいるころから好きだったんじゃ!」
富永「なんでそこにたどり着いた……」
美玲「あてえみたいに話す奴おらんが、なんでじゃ」
富永「なかなかいないだろうな。絶対東京にはいない……」
美玲「そうか」
富永「おくんなましなんて言ってたか?スケバン刑事」
美玲「それはあてえのオリジナルさ!へへ」
富永「ますますいないな……」


○スーパー・表(夜)
富永里子(19)と田宮壮亮(34)、川上真司(32)、三浦ジョー(32)が歩いている。
里子、立ち止まりタバコを吸う。
田宮、川上、三浦は店内へ入る。


○同・店内(夜)
クリスマスのBGMが流れている。
無言で店内をうろつく田宮、川上、三浦。


○同・表(夜)
里子の前を老婆が通る。
老婆、ポケットから財布が落ちそうになっている。
それを見て里子、

里子「なあ、ばあさん。落ちるぞ」
老婆「あら本当だ。どうも」

にっこり笑う老婆。
平然とタバコを吸う里子。


○同・店内(夜)
目を合わせうなずく田宮、川上、三浦。
そっと商品をバッグへ入れる。


○山中荘・外観(夜)
古びた2階建てのアパート。


○同・102号室・室内(夜)
田宮、川上、三浦がスーパーの惣菜、フライドチキンを食べている。
里子は一人、大きなノートに絵を書いている。
田宮が里子に

田宮「おい、里子。なんでさっきババアの財布盗まなかったんだよ」
里子「大して持ってねえよ」
田宮「けっ、お人好しだな」

田宮、里子の絵を取り上げる。

里子「おい、やめろよ!」
田宮「また描いてんのかよ」
里子「別にいいだろ」

里子の絵を見て

田宮「金になんねえことしたって、しょうがねえだろ」
川上「そうそう。金あるとこからパクったほうが、断然金持ちだぜ」
三浦「うまいもん食えるしな」
田宮「ハッピーライフ、バンザーイ」

ゲラゲラと笑う田宮、川上、三浦。

里子「……くそ」

外へ出ていく里子。


○同・表(夜)
一人、タバコを吸う里子。


○サービスエリア・外観(夜)
駐車場に停車している富永の車。


○富永の車・車内(夜)
美玲、助手席で寝ている。
運転席には富永。
携帯を見ている。


○サービスエリア・駐車場(夜)
富永の車の隣に、一台の車が停まる。
車には『便利屋てっちゃん』の文字。
車から手城サトル(40)が降りてくる。
富永の車の窓をノックする。
窓を開ける富永。

手城「よお、久しぶりー」
富永「悪いな、ここまで」
手城「いいの、いいの。ハンティングは順調かよ?」
富永「まあね」
手城「さすが。世界を股にかける賞金ハンターじゃねえか」
富永「これ、お願いしたいんだ」

ボストンバッグを渡す富永。

富永「あとこれは、こいつのサインだ」

美玲の遺書を渡す。

富永「まとめてロッカーに頼む」
手城「はいよ。あ、この娘調べたけど、身寄りないね」
富永「らしいな。自分で言ってた」
手城「あと里子ちゃん、詳細わかったよ」
富永「どうだった?」
手城「明日14時50分に山尾銀行。4名、黒のハイエースだ」
富永「わかった」
手城「まあ、世界の富永なら余裕でしょうよ」
富永「新入りがいるからな、どうだか」

札束の入った封筒を渡す富永。

手城「じゃ、また何かあったらいつでも」
富永「元気でな」
手城「また会おうくらい言ってくれよ!」
富永「おお、またな」

車を出す手城。


○同・外観(朝)
快晴。
車の往来が増える。


○富永の車・車内(朝)
美玲、目を覚ます。
大きく伸びをしてあくびをする。
運転席には富永がいない。
周りを見回し、後部座席のバッグに目がいく。
バッグに手を伸ばし、ファスナーを開けるとたくさんの札束が。
一つ手に取り、上着の内ポケットにしまう。
あたりをキョロキョロ伺う美玲。


○サービスエリア・女子トイレ・表(朝)
寒そうに出てくる美玲。
隣接するコンビニへ歩く。


○コンビニ・店内(朝)
美玲、棚からDVDを取り、レジに向かう。
内ポケットの札束から1万円を抜き取る。
怪しそうに店員がポケットを見つめる。
お釣りを受け取り、店をでる。
すると男が店員に怒鳴りつける。

男性客「なんで値上がりしてんだよ!」
コンビニ店員「そう言われましても……」

騒然となる店内。


○同・表(朝)
急いでコンビニを離れる美玲。
杖をついた白髪の老人がコンビニに入ろうとしている。
美玲、老人の腕をつかみ、

美玲「いかん!今あぶない!こっち」

老人の手を引っ張る美玲。
外まで聞こえる怒号。
舌打ちしながら外へ出ていく男性客。
老人、男性客を見て

老人「これはこれは。ありがとう、お嬢ちゃん」
美玲「いいよ!」
老人「お嬢ちゃん、お名前は?」
美玲「あてえは美玲。台湾出身だ!」
老人「そうかい。ありがとう、美玲さん」

去っていく老人。


○ファミレス・店内・中央(朝)
富永と美玲が向かい合って座っている。
美玲、食べながら富永に話す。

美玲「あてえさ、老人を助けたんだ。クレーマーから」
富永「人を信用しないお前が?」
美玲「あてえは慈悲深いビューティガールさ」
富永「へえ。じゃあ内ポケット見せてみろ」
美玲「な、なんでじゃ」
富永「返せ」

手を美玲のほうへ出す富永。

美玲「……わかったよ」

札束を内ポケットから差し出す美玲。

富永「まだあるだろ」

小銭と千円札をテーブルに置く美玲。

美玲「もってけドロボー!」
富永「いや俺のだ」
美玲「けっ、なんだい。冷酷男」
富永「バレないとでも思ったのか」

お金をポケットに入れる富永。


○同・同・奥(朝)
奥のテーブルに塚田と新田川が座っている。
富永と美玲のやりとりを見て

新田川「黒だな」
塚田「相棒もなかなか悪そうっすね」
新田川「なに企んでやがるんだ」
塚田「ハニートラップでもやる気ですかね」
新田川「くそ、ふざけたことしやがって」


○同・同・中央(朝)
富永、美玲に言う。

富永「いい作戦思いついたんだ」
美玲「へえ」

食べることに夢中の美玲。

富永「お前が里子にすり替わるんだ」

口に入れていたものを吹き出す美玲。

美玲「は?」
富永「瓜二つだからな。喋らなきゃうまくいく」
美玲「やるもんか」

ヨーヨーを見せつける富永。

富永「これ返してやる」

奪い取ろうとする美玲。
かわす富永。

美玲「やっぱりクソだ」
富永「タダとは言わない」
美玲「どいつもこいつもあてえを利用しやがって!許さんぜよ」
富永「安全も保証する」
美玲「……くそ。半分な。盗んだ金の半分」
富永「バカ言え!割に合わないだろ」
美玲「妹に似てるあてえにしかできないんだぞ」
富永「高くても100万だ」
美玲「やだ。やらん」
富永「盗み覚えとくと、この先いいぞ」
美玲「死ねないわ、強盗になるわ。人生終わってる」
富永「二代目美玲ってことでいいじゃないか。スケバン刑事は四代まで続いたんだ」
美玲「一代で十分じゃ。こんな人生」

ヨーヨーを奪い取る美玲。

美玲「冷酷男!ケチ野郎!ついてこなきゃよかった!」


○山中荘・102号室・室内
田宮、銀行の間取り図をテーブルに広げる。
椅子に座る里子、川上、三浦。

田宮「今日はクリスマスイブの一大イベントだ。山尾銀行の金、全部もらってくぜ!」

雄叫びを上げる川上と三浦。

田宮「最終確認だ。14時50分決行。里子は外で見張ってろ。途中から合流だ」
里子「はいよ」
田宮「15時00分。銀行の門が閉まったらパーティーの始まりだ。合流した里子と俺で金庫へ。川上は人質を見張ってろ」
川上「うす」
田宮「三浦は裏口に車をつけて待機」
三浦「へい」
田宮「警察が来るまでの15分で終わらせる。いいな!」
川上「うす!」
三浦「うす!」





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