お別れ遠足のアンコール
小さい頃はできない事の方が多くて“努力”なんて言う意識はない。でも食べる事、歩く事、喋る事、そんな“当たり前”と呼ばれるものは“決して当たり前では無い” 生まれた瞬間には何も備わっていないのだ。その過程は確実に努力だ。生まれてたった2年の努力家。我が子の話。
娘の通う園のクラス目標は3月にお友達と手を繋ぎ自分達の力で公園に遠足に行くこと。自分のペースで歩く事は出来てもお友達と手を繋ぎペースを合わせて歩く事は2歳児にはとても難しい。吠える犬が怖くて立ち止まる子、気になって駆け寄ろうとする子、色々だ。そんな好奇心の塊の年頃の子供たちが、どれだけ相手を意識して歩けるようになるのか。新学期から毎日コツコツ散歩をした。
8月生まれの娘は4月の進級時は1歳8ヶ月。
一般的に1歳半には殆どの子が歩けるというが娘はまだハイハイだった。
お迎えの時に娘より半年以上あとに生まれた子達が歩き回ってる姿を見て可愛いなと思う傍らで「焦ってはダメ」と言い聞かせていた。しかし、それがなかなか出来なかった。
そんな中、園内の移動は押し車を押させ、階段上り下りを別メニューで組んでくれたりベテラン先生、若い先生、皆で娘がどうやったら歩く事が楽しいと分かってもらえるかの作戦を練っていると聞き、その日から私は1人胸の内で悩む事を辞めた。
5月ペンギン歩きでペタペタと歩けるようになった。
6月まだまだ安定せず浮き足を心配され検査を受けた。
7月お迎えの時、笑顔でペタペタ歩きの娘が私の元へ辿り着くのが早くなってきているのを感じた。
8月には園で誕生日会をしてくれ、メッセージつきの手型と足型を貰った。
手型の方には
「好き嫌い無く何でも食べる2歳の手」
足型方には
「しっかりと歩けるようになった2歳の足」
短い文字に色んな想いが詰まっていた。
胸がジーンとしたのを感じた。
お散歩のスピードが遅く
手を繋いでる子に
引っ張られる形でよく転んだ。
転んだ傷が治る間もなく
新しい傷ができ両膝はいつも
瘡蓋と生傷だらけだった。
駆け足の横断歩道は怖くて
座り込んで泣いてしまう事も
しばしばあったそう。
土日は晴れていたら
パパとママと色んな公園で
いっぱい歩いた。
「ドングリみつけた!」
「まちゅぼっこり〜」
「あ!!小鳥さん!」
歩く事を楽む娘の姿に
私も夫も喜んだ。
ある日、お迎えの時
駆け足で私の元へきて
飛び付いてきた勢いで
私は尻もちを着いた。
その力強さが嬉しくて
ぎゅーっと抱きしめた。
こんなに早く歩けるように
なったんだね...と嬉しかった。
いよいよ進級からずっと頑張った
“歩くこと”の集大成の遠足。
その前日に娘は39度の熱を出した。
痙攣の心配と遠足を諦めなければならない悔しさで一睡も出来なかった。熱は遠足の日もその次も続いた。
あんなに頑張ってたのにね。
元気になったらママと同じコース歩こうね。
でも、やっぱり皆と手を繋いで歩く事が叶わなかったのが残念で...娘は未だ分からないだろうけれど歩ききれた達成感を経験させてやりたかったな。仕方ないことだと割り切りたいのに頭から離れなかった。
熱も下がり久々の登園、「遠足残念でしたね...」の会話をしなきゃならないのか。億劫だな...という気持ちで教室まで歩いた。
先生が娘を見つけるとパァっと明るい笑顔で駆け寄り「元気になって良かった!」「明後日、遠足だよ~」と言った。
「え?遠足?」思わず聞き返すと
「そう!〇〇ちゃん行けなかったからね」
「もう1回 アンコール遠足だよ!」
「皆と歩きたいよね」
驚いて何と言ったらいいのか
咄嗟に言葉が出てこなかった。
そんな事が...良いの?本当に?
そして今日がそのアンコール遠足だった。
走る事もジャンプも出来ず
長距離歩く事もまだまだ不安定な娘。
大人の足で15分の距離、
歩けるのかな?大丈夫かな?
先生も私も分からなかった。
ドキドキのお迎え。
娘の元へたどり着く前に
会う先生、会う先生皆に
「〇〇ちゃん!歩けたのよ!」
「〇〇君をリードして歩いたのよ!」
「疲れて泣きそうな子を励ましてたのよ!」
と娘が遠足を楽しんだ事を報告してくれた。
駆け寄ってくる娘を
ぎゅーっと抱きしめた。
私が声をかける前に
「ママ!!公園歩いたのよ」と
キラキラの笑顔で教えてくれた。
たくさん頭を撫でて褒めると
舌をペロッと出して得意気な顔をした。
毎日、毎日、娘の歩行の安定を一緒に悩み、
嫌がって涙が出る時も励まして、
泣かずに歩けた日は一目散に私に報告してくれ、
2回目の遠足を企画してくれた。
そんな先生方に伝える正確な言葉が浮かばない。
ただただ、本当に嬉しくて感謝しかない。
娘の成長と先生の存在が嬉しくてたまらない。
素敵な1年を経験させてもらった。
歩くこと含め体を使って何かをする事が
怖くて泣いてしまう娘。「ママ抱っこ…」と直ぐ両手を伸ばす娘にグッと堪えて「大丈夫。やってみよ」と声をかけ励ます。
自ら挑んでできた日は大いに喜び、
できなかった日は「上手だった~あと少しだったね」と自分の心にも言い聞かせるかのように声を掛けた。私では状況に応じての声のかけ方が浮かばない。完全に保育園の先生の真似っ子。それでも娘は少しづつ変わっていった。
出来た時はビックリした顔で「できた...」と1度呟き
「ママ!でーきーたー!」と大声で教えてくれる娘。
今日は今までだと両手をついて登ってた階段を手放しで登り、怖がって降りれなかった椅子を自分から降りていた。遠足が自信に繋がったのかな。
この世に生まれてたった2年。そんな生まれてホヤホヤなヒヨコさん。人知れず悩んだり悔しんだりソレを上手に表現出来ずイヤイヤしたり。こんな小さな体の人間歴2年の子供も既にコツコツと努力と経験を積んでいるんだ。
毎日、自分との葛藤。そして不器用でも遠回りになっても少しづつ克服していく娘。
“私はどうだろうか?”
大人になるにつれ後回しとサボりくせがついてしまったな。小さな2歳児の方が逞しいや。
いい所をたくさん見つけよう。
見つけたらたくさん褒めてやろう。
我が子にも、自分自身にも。
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