目を奪われるひと
いつもより一本早い電車に乗る。
スピードを残しつつ横浜駅に滑り込む電車が止まる。
その時、「あ、乗ってくる...」と思った。
凛とした女性、長めのカーキ色のコートに身を包み、少し茶色に染めた綺麗な髪の女性。
同じ車両に乗っただけで、なんだか「早起きしてよかった」と思えるのは不思議である。
もう12月の足音が聞こえる。
渋谷も新宿も恵比寿だってイルミネーションが始まった。
「なんか...イルミネーション辛いなあ」
「そうかなー?綺麗じゃない?」
なんてたわいもない話をした友人は、もう結婚している。
なんでもない話だが、ふるさと納税のCMを見るたびに、「ああ去年は元カノにふるさと納税教えたっけ...」と思い出す。
もう別れて一年経つのか。
そんなセンチな朝を迎え、寒い寒いと言いながら電車に乗り込んだら、あの人に「目を奪われた」のだから、少しくらい思い出に浸ってもよいだろう。
人間は不純な動機の方が頑張れることが往々にしてある。なにも綺麗な動機が常に必要なんて、ない。
「お金が欲しい、地位が欲しい、名誉がほしい、モテたい...」
邪道だと言われつつも、プロセスより結果だ。
結果が出ればよい。
そう自分に言い聞かせて、私は明日も早起きするだろう。(完)
豆腐
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