オキナワンロックドリフターvol.22
朝5時過ぎに宿に戻り、ドミトリー内の電源コードを探して、携帯の充電をすると、そのまま二段ベッドの下段に倒れこむように眠った。
どろっとした微睡みから目を覚ますと、携帯の時計は10時半と表示されていた。
携帯もフル充電されている。今日は何をしようか?
バスルームでシャワーを浴びて着替えて歯を磨き、また出掛けた。
昨日は食べ過ぎたなあと胃に収めた食べ物の数々を思い浮かべて身震いし、摂取しまくったカロリーの消費と運動ということでひたすら歩くことにした。
ゴールは宜野湾市野外海浜公園。
小さなナップザックにペットボトルのさんぴん茶とるるぶ沖縄と写るんですを入れて、いざ、無謀なるハイキングだ。
スタート地点は嘉間良。てくてく歩いていき、未だに寝静まったようなコザの街を歩いた。
途中、ゲート通りと胡屋の間に小さな商店があり、立ち寄ることにした。ゴヤマートというお弁当とお惣菜を主体とした小さな商店は、狭い店内をパートのマーマーたちがキビキビとお弁当やお惣菜を作って並べているそんな店だった。
途中のお弁当にと、昆布おにぎりとツナマヨポーク卵おにぎりを購入。前者はともかく、後者を買った時点で運動の意味がない。とはいえ、働き者なマーマーたちのお手製のおにぎりは魅力的だ。
私はせっかくだからと沖縄市にある動物園、こどもの国に立ち寄ることにした。ナップザックを探ると、ペンとメモ帳があったので、動物園の象や猿を下手なりにスケッチしたりして楽しんだ。
童心にかえったあとはまたひたすら歩いていった。途中、クバサキハイスクールを見て、ジョージさんの母校だと感激したり、暑い日差しの中、アイスクリンを売るかわいい女の子がいたのでアイスクリンを買って食べたりしながら歩いたものの、気がついたら、昼には普天間宮に到着したのでお参りすることに。
この旅行が終わったら、仕事を早く見つけられますように。そして、私の好きな人たちが幸せでありますようにと必死でお参りした。おみくじをひくと、今の私にはグサグサ刺さる助言のようなことが書かれており、お守り代わりにしようと、木に結ばずに財布に入れた。
普天間宮からてくてく歩くと、道に迷ってしまった。
私は疲れた足をさすりながらベンチに腰掛け、おにぎりを頬張り、さんぴん茶で喉を潤した。
私は迷いながらひたすら歩き、気がついたら普天間どころか北谷へ向かっていた。
仕方ない、バスを使うかと途方に暮れていたら親切なねーねーに声をかけられた。
私は宜野湾市野外海浜公園まで行きたいけれど道に迷ったと正直に話したら、ねーねーに呆れられ、これから出かけるついでだからとねーねーに野外海浜公園があるコンベンションセンター近くまで乗せていっていただくことになった。
親切なねーねーには近くにある自動販売機でジュースを買って渡した。ねーねーからお礼を言われ、私は遠ざかるねーねーの車に何度もお辞儀をした。
道に迷った分、かなり時間は過ぎてしまい、宜野湾市野外海浜公園に着いた時には、午後15時になっていた。
ここで、再結成ドキュメントでも放送されたオリジナル紫のライブがあったんだなと、思っていたよりこじんまりとした会場をフェンス越しで見ながらしんみりした。
会場をじっと見ていたら、不意に正男さんに反古にされた約束や、誘いを頑なに拒む俊雄さんのことがフラッシュバックし、涙があふれ、私はしばらくうずくまっていた。
だんだん日が暮れていく。私は帰り道まで足を早めたのだが……。途中、るるぶ沖縄にも紹介されたタコス専門店・メキシコを見つけたので立ち寄り、早い夕飯にすることにした。
メキシコは、威厳ある店主である儀武さんが三線を爪弾かれていた。静かな店内に三線の音色だけが響く。私は儀武さんにタコスとペプシを注文すると、儀武さんは立ち上がり、ゆるゆるとタコスが作られた。
出来上がったタコスはパリッとした薄皮に、上品な味付けのタコミートと、程よく盛られたレタスとトマトが絶妙な味わいのタコスだった。コカ・コーラ派なので、ペプシしかないのが残念なものの、ペプシの強すぎない炭酸と甘味がメキシコのタコスの味を損なわないという儀武さんのこだわりからペプシを置いてあるというのを後に雑誌媒体で知り、あのいい塩梅のタコスの味を思い出しながら納得した。
美味しかったですと儀武さんに代金を払いながらお礼をいうと、儀武さんはこくりと頷き、また三線を爪弾かれた。風貌と佇まいといい、その姿はまるで雲の上を住処にしている仙人のようだった。
タコスを堪能したらすっかり日が暮れた。私はせかせかと早歩きし、ようやく普天間にたどり着いたのでバスで嘉間良まで戻った。くたびれた足を揉み、サロンパスを貼っていると、ゲストハウスの他のお客さんから、北谷はハンビーナイトマーケットに行くから行きだけでもタクシー相乗りして行かないかという呼び掛けがあり、私は痛む足を無視して、他のお客さん4人と一緒にタクシーに乗った。
ハンビーナイトマーケットは、さながら外国の市場と屋台をまぜこぜにしたような多国籍さと賑わいを見せていた。
フードトラックでエンパナーダやチュロスを売るペルー人のご家族、手製のアクセサリーを売るアーティストっぽい風貌の移住者、白檀のお香の匂いがしそうな中国雑貨を売る中国人のねーねー、ヒップホップを大音量で鳴らしながらクラブファッションを並べて売っているブラザー気取りの地元のにーにー、近所の人だろうか、ガレージセールさながらに古着や日用品を捨て値で売るおばさん、小さなケージに入れられた子犬や鶏を売る年齢不詳のおじい……と、ジャンル、国籍問わないカオスな空間がそこにはあった。
皆、散り散りにお目当ての場所に行ったので私もうろつくことにした。途中、寒い日にちょうどいい紫色のポンチョがあったのでそれを300円で買い、白いハンチング帽があり、小銭入れと合わせて500円で買った。
何台かあるフードトラックの中にフルーツジュースの店があり、グァバジュースがあるのを見ると、それを買い、飲みながら他にいいのがないか物色した。
すると、どこからともなく聞き慣れた歌声が聴こえた。耳を澄ませてよく聞くと、数十メートル離れた場所にある、CDやカセットを売っているブースからだった。
近づいてみると、ブースに置かれたラジカセから流れていたのはIslandの“After the rain”だった。
正男さんの甘く無垢な歌声が矢のように私の心を射抜いた。
フラッシュバックからなのか、急に胸と頭が痛くなり、私はタクシーを見つけると急いで飛び乗り、嘉間良のゲストハウスに戻った。
熱いシャワーを浴びても、ナイトマーケットで買ったポンチョを羽織り、布団を被っても寒気がしてなかなか寝付けず、日付が変わる直前にようやく眠気が訪れ、きりきりする心を抱えながらその夜は眠りについた。
目を覚ますと、既に空は明るんでいて、充電していた携帯を見たら、午前8時だった。窓から叩きつけるような雨音が聞こえた。小雨になってから歩こうかなと雨粒が伝う窓を見ながら私は深くため息をつき、ロビーにある漫画の置かれた棚から漫画を何冊か取り、退屈凌ぎに読むことにした。
雨音はだんだん小さくなっていく。
漫画を読み終わったらまたゆっくり歩くかと、私は昼のコザを散策することに決めた。
(オキナワンロックドリフターvol.23へ続く……)
文責・コサイミキ