フェンスの向こうのアメリカ(あるいは望郷の旅vol.0)
先日、地元デパートにて沖縄物産展があり、行ってきました。来月はじめには5年半ぶりに沖縄行く予定なのに、祖母から「あんた8月に沖縄行くんじゃなかとね?それでも行くと?」と呆れられる始末(が、お土産に大好物のグァバジュースやたんかんジュースを買い込んだら喜ばれました(笑)祖母ェ……)
昨年はコロナの爪痕が生々しく、ブース出店も少なく、かつてちょくちょくこられていた店が廃業されたと聞いたりと悲しく寂しい物産展でしたが、今回はアメリカ文化な沖縄に特化したブースが増え、色鮮やかなタッチで描かれた沖縄を主軸としたアート作品や、タコスの実演販売、映えるなあとしみじみするくらいビビッドな色合いのメロンパンなど珍しい物販がありました。さらに、北谷の著名ハンバーガー店『ゴーディーズ』が出店していて、びっくり。一度食べたことがありますが、かりっとしたバンズの香ばしさとパテの肉厚さと肉汁の旨味、ほこほこでほんのり甘いポテト等食べてすっかり魅了されました。
物産展でまさかの再会とは!すぐさま買っていただきました。残念ながら作り置きではありましたが、できてからそんなに時間が経っていないからなのか、まだ温かく、パテも噛むと肉汁がじゅっと広がりました。……バンズが少し焦げていたのが残念でしたが。
しかし、弱くなったと痛感した私の胃袋。かなりずっしりときて満腹に。夕飯は食べないでおきました。
物産展でグァバジュースや竹製菓の飴等を買った後、上通から並木坂をぶらぶら。
3年ぶりにやっとイートインスペースが解放され、同時に解禁になった『蜂楽饅頭』のかき氷に大歓喜し、個人的な夏の風物詩であるコバルトを満喫しました。
そして、古本屋でタイトルに惹かれて文庫本を一冊買いました。岩瀬成子さんの『オールマイラヴィング』。1960年代半ばの、岩瀬さん自身がモデルであろう岩国市在住のビートルズにはまった中学生から見た当時のビートルズ旋風とビートルズを不良視する大人たち、そしてうっすらと米軍基地の影響のある町並み、なまじ英語が得意なばかりにすっかりアメリカ被れになり、アメリカ兵に片想いするようになった姉、そんな姉の挙動に憤りながらも心配する父親等が描かれています。
主人公がビートルズに熱をあげ、コツコツ貯めたお小遣いをLPレコードに費やすさまも息づかいが感じる程リアルなのも読みごたえあるのですが、自室にしている離れの部屋を無理やりカーペットとギンガムチェックのカーテンと白く塗った壁でせめてものドラマの中のアメリカに近づかせ、薄いインスタントコーヒーを星条旗がプリントされたマグカップですする主人公の姉のアメリカ被れなさまが今の視点で見ると滑稽なのですが、アメリカを輝かしいきら星のように見ている様や、基地の街とはいえ、山口の田舎町である自分の生まれ育った町のぺたぺたした過干渉やもっさりした空気に嫌気がさし、ここではないどこかとしてアメリカへの憧憬を膨らませ、英語を教えてくれるアメリカ兵に恋に恋する姿が痛々しくも切ないです。逆に主人公はそんな姉のアメリカ被れを冷ややかに見つめ、出征する前のささやかなレクリェーションとして姉とボウリングを楽しむアメリカ兵を見て「これから人殺しをするだろうに何をはしゃいでいるんだろう、ボウリング楽しいですか?」と内心毒づいたり、アメリカ被れが加速し、アメリカ行きの片道切符の為なのか主人公が貯めているバイト代にたかり、無心しようとする姉に呆れ、「そんなにアメリカがいいのですか?アメリカから目を醒ませ!」と怒鳴ったりするさまの対比がなんだかありありとその姿が思い浮かび、胃と心がきりきりしました。
終盤、主人公はどうしてもビートルズが見たくて、こっそりと夜行列車で東京に行こうとするも途中で駅員さんにキセルがばれて作戦失敗。駅員さんに諭されて帰りの電車に乗り、泣きながら『オールマイラヴィング』を無意識に口ずさみ、それと同時にビートルズ熱が一気になくなる主人公の姿も「岩瀬さんさあ、せめて一目だけでもビートルズを見せてやれよ!都合のいいファンタジーかもしれないけどさ」と思いながらも実際決行して補導されたり、主人公のようにキセルがばれて断念してビートルズ熱がさめちゃった十代の子たちがいたんだろうなという等身大の空気を感じる小説でした。
そして、『オールマイラヴィング』を通して、コザ、福生、佐世保、横浜とはまた違う、中国地方の基地の街ならではの『フェンスの向こうのアメリカ』を感じたのでした。
(文責・コサイミキ)