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本牧ドールを読んでみた

今日は休みだったので、録りためていたテレビ番組を観ながら英単語アプリで単語演習。
過日、NHKにて放送された『沖縄の夜を生きて~基地の街と女性たち~』を見て、レビューを書こうとしたけれど、いろんな思考が渦巻き、消化できず、頭がオーバーヒートした後に無性に読みたくなり、本棚から引っ張り出したのはこの本。

高橋咲の『本牧ドール』
天井桟敷の団員、安部譲二の情婦、そして本牧を拠点としたブルースバンド、パワーハウスのリーダーであったチーボーの妻だった女、高橋咲。この作品は彼女の自叙伝的小説の第三作目で、作中、名前こそは出ていないが本牧出身のグループサウンズ、ゴールデンカップスのグルーピーたちに導かれるように本牧にたどり着いた著者が、むせかえるような異国の匂いがする本牧の街と、美貌のベーシスト、セイ坊(名前は変えているがルイズルイス加部こと加部正義)に魅せられ、やがて本牧の顔役的存在のバンドマンであるゴローといい仲になり、籍を入れるものの、それと反比例して基地の門前町としての役目を失い、都心の衛星都市となっていく本牧と、本牧独特の閉鎖的な風土に疲弊し、ある事件をきっかけに本牧を離れようと決意しつつあるまでを描いている。
作中の登場人物はドラマチックだがどこか寂しい人たちばかりなのも印象的だ。ひとつの恋の傷を引きずりながら生きていく、堕天使のように美しい容姿を持つベーシストのセイ坊、セイ坊のグルーピーで、血の繋がらない兄の死から立ち直れず、その悲しみを兄の恋人と共有しながら生きるモモ、本牧の顔役的存在であり、多くの取り巻きに囲まれてはいるが空虚さを抱えている、後に咲の夫となるゴロー、華僑ならではの血の柵と結束から解放されたものの、二十代半ばという年齢からの焦燥感、日々の目まぐるしさの中で駆け引きすら知らずに生きていた幼さから焦るように恋をして捨てられ、また恋をし、命を落とした中国美人のメイ。皆、それぞれ美しくも痛々しい。
そして、本牧の街の変換描写も秀逸だ。輸入物の菓子と洗剤の匂いがしそうな70年代の本牧の情景から、だんだん寂れていき、都心のベッドタウンないし、都心から離れた穴場ナイトスポット化していく本牧が鮮やかに描かれていくのもこの作品の特色である。
読後のひりひりするような痛みを感じながら、今は遠い昔、『フェンスの向こうのアメリカ』があった頃の本牧の街に想いを馳せた。

(文責・コサイミキ)

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