オキナワンロックドリフターvol.57

The Whoのベスト盤をウォークマンに入れ、いざ、恩納村までバスの旅。
普段は那覇空港→ゆいレールで旭橋→コザのルートでの移動ばかりなのでバスで他のエリアに行くのは最初の来沖でひめゆりの塔に行った時以来なので心弾んだ。
ガラケーで沖縄のバス会社の公式サイトをもう一度見て時刻表を確認。胡屋から嘉手納、嘉手納から恩納村で行けるとわかり、そちらのルートにした。嘉手納で一旦降りてバスを待つものの。バスがなかなか来ない。
バス停近くのパチンコ屋がやけに豪奢で、ああ、九州といい南の方はやたら目立つ外装のパチンコ屋が多いよなーと目が糸のようになってしまった。
やっとバスが来て、恩納村まで行ったものの、何を間違えたのかルネッサンスリゾート前ではなく、山田という停留所で降りてしまい、暗く人気のない海沿いの村をてくてく歩くことに。地図を見ながら半泣きで歩き、やっと遠くからとはいえ、マリブレストランの自由の女神が見えた時は心底ほっとした。
ルネッサンスリゾートからココナッツムーンへ。たどり着いた時は靴は砂まみれに。
ココナッツムーン店内では、リナママさんとカウンターのマヤちゃんが大忙しだった。
「あら、久しぶり!」
リナママさんが赤い唇をにっと広げて応対された。
カーリーヘアにノースリーブの服が色っぽいマヤちゃんに挨拶をし、モスコミュールをオーダー。東京でのバーテンダー経験のあるマヤちゃんのカクテルはいかがなものか?
マヤちゃんの作るモスコミュールはジンジャーエールの甘辛さとウォッカのキリリとした味わいの加減が絶妙だった。大絶賛すると、マヤちゃんは照れ臭そうに笑った。
ココナッツムーンのマスコット的存在も代わっていた。ビーグル犬のテキーラは看板犬を引退し、清正さん宅で余生を送り、代わりに迷い猫から看板猫になったナッツが私の足元でふくぶくしい体を丸めてくわあとあくびをしていた。
人のざわめき、ひんやりとした潮風、スクリーンに映されたMTVの微かな音を感じ、タコスを食べながら清正さんを待った。
足音が近づいてきた。清正さんだ。
マヤちゃんも気づいたようで、「まいきーさん、パーパ来てますよ」と耳打ちした。
清正さんとの再会……なのだが。あれ?
なんか、清正さんが心なしかむくむくして見える。例えるなら南国のサンタクロースみたいだ。
私は人のことを言えないものの、怖々尋ねてみた。
「おい……ちゃん。あの、人のことを言えない立場ですが、お太りになられました?」
清正さんは当然ながらむっとしたようで、眉を吊り上げながらも憮然と答えられた。
「ああ。おいちゃん、禁煙はじめてから食欲出てきてね。そうしたらこうなったわけさ」
あらー。個人的には清正さんの煙草を燻らせる姿が好きなので見られないのが残念だ。
さて、清正さんがこられたことだし、連絡したい人がいる。私はフランさんの携帯メールに連絡した。ココナッツムーンにいるとメールしたら、フランさんから即座に返事がきた。
せっかくココナッツムーンに来たのだから、フランさんにサプライズプレゼントをしようと思った。
私は清正さんにフランさんのことを話し、フランさんに電話し、彼女が出るとすぐに清正さんに代わった。
フランさんは相当嬉しかったようで、フランさんの歓喜の声が電話口から漏れ、私は笑いをこらえた。
しかし、清正さん。
「おいちゃん、禁煙してから太り出してね。さっきまいきーから笑われた」と、こちらをじと目で見られるのは……。ていうか、私は悪者扱いですかい。
清正さんにからかわれたものの、清正さんを愛してやまないフランさんにサプライズプレゼントができたのは良かったなと今でも思う。
「アナウンサーみたいな綺麗な声の人だねえ」
フランさんとの電話のあと、清正さんはフランさんについてそう感想を述べられた。
後でフランさんにメールで教えてあげよう。私はフランさんの笑顔を思い浮かべた。
さて、清正さんと話なのだが……。ココナッツムーン通信の打ち合わせの口実に電話でオキナワンロック事情のだいたいは聞いているので身近な話がメインになった。しかし。
「ところで、今回は俊雄には会うわけ?」と清正さんに不意打ちで言われた時はあたふたしてしまった。
清正さんは煙草を吸いたいのか、テーブルの上を無意識にまさぐっていたものの、煙草がないのを諦め、ジョッキに注がれた泡盛のコーヒー割りをぐぶりと呑むと大きなため息をつかれた。
「今回も会えそうにないわけか」
ええ。そうなりそうです。
私は答える代わりにモスコミュールを飲み干した。
長い沈黙が流れ、日付が変わりつつある時間のせいか、客は私だけになり、スクリーンのMTVもいつの間にか消され、波の音だけが聞こえた。
清正さんは泡盛のコーヒー割りを飲み干すと、ぽつんと呟いた。
「まあ、あいつもしばらく誰とも会いたくないだろうな。あれだけ正男がやらかしたらな」
そのとおりなのだけれど心が痛かった。
やはり、正男さんの3度目の不祥事から手を差し伸べようとした人も次々と匙を投げたようだ。そうなるのも仕方ないよなとしか言い様がない。しかし、それでもやはり私は城間兄弟のことが気がかりだった。私は自ずとそれがすぐに顔に出るようだ。清正さんは小さくため息をつくと、ポンポンと私の頭を軽く叩いた。
「あまりあいつらばかりを気にしすぎなさんな。ね?」
多分、清正さんは私がそうならず、やはり気にすることを見透かしてるんだろうなと思いながら、私は清正さんの大きな手の感触と温もりを感じていた。
日付が変わった。ココナッツムーンが閉店準備に入ったので、私は清正さん、リナママさん、マヤちゃんにお礼を言い、タクシーで恩納村を後にした。
タクシーのカーステレオからはFMが流れ、地元のDJが70年代ロックを流していた。
曲はHeartの“Magic Man”。魔性の男と嘯く男に恋し、母親の嘆き混じりの忠告を無視してその男の家に入り浸る危うい女の子を唄った曲だ。
Girlどころか当時既に25歳、四捨五入したら30になる年だというのに、曲の中の“Magic man”をオキナワンロッカーたち、いや、清正さん、城間兄弟、そして鬼籍に入ったものの今も私の心を掴んで離さないジミーさんに投影してしまい、ついつい小さく呟いた。
「でも、わかりたいんだよ。もっと知りたいよ。だってあの人たちはMagic menだからさ」と。
タクシーはスピードを上げ、コザの街へと進んでいった。

(オキナワンロックドリフターvol.58へ続く……)

(文責・コサイミキ)

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