オキナワンロックドリフターvol.40

セブンスヘブンに着いたものの、街の変化とジミーさんとの別れですっかりグロッキーになった私はオフ会のっけから挙動不審で完全に浮いていた。
オフ会に参加されたのはワイアードさんにコウさん、そして8-ballからオキナワンロックを知った、滋賀からこられたせつらさんと沖縄在住のかのんさんという方だった。
どこにフォーカスを置いていいのか、何を話せばいいのか。焦れば焦る程空回りしていく。
会話のキャッチボールをしていく周りの中で、私だけが話のドッジボールか千本ノックをしてしまう、もしくはパスができずにボールを落としてしまう、そんな感じ。
長年の旧友同士のように話を弾ませていく、ワイアードさん、コウさん、せつらさん、かのんさんたちを見ていたたまれず、私はカウンターにいるジェイソンにチキンナゲットをオーダーし、それをワイアードさんたちの前に置くと、「少し出掛けてきます。ライブまでには帰ります」と言い、ゲート通りをうろつくことにした。
せつらさんだけが心配そうに私をちらりと見たので、私はせつらさんに会釈した。

外に出ると、蒸し暑い風が体にまとわりついてきた。午後20時半、すっかりネオンの灯ったゲート通りの風景がとても優しく感じ、ワイアードさんたちには申し訳ないけれど心身共に楽になった。
体が楽になると、お腹がすいてきた。南京食堂は既に閉業してしまったけれど、19thホールタコスはまだ健在だ。看板のライトが灯っているのを確認し、私は階段を上り、タコライスとマッシュルームスープをオーダーした。 カウンターではアメリカ兵がハンバーガーや焼きそばをぱくついていた。赤いライトが照らす店内から見るコザの風景は相変わらずタイの歓楽街のようで外国にいる気分になる。

タコライスとスープができるまで、私はジュークボックスにお金を入れて音楽を聴いた。山口百恵をうっかりリクエストして、ジュークボックスの機嫌を損ねないようじっくり吟味して。
悩んだ末にリクエストしたのはBee Geesの“Stayin Alive”だった。
バリー・ギブのハイファルセットを聴きながら私は運ばれたタコライスを黙々食べた。温かいものを食べたら少しずつだけれど元気を取り戻した。
タコライスを食べ終えると、私は携帯でPCのメールボックスをチェックした。
いくつか来たメールの中にイハさんからのメールがあった。日付を見ると昨日の夜の受信だった。
まずい。早く返信しないと。しかし、なんだろう?と思いながら急いで開封した。
「沖縄きてるんだって?コザにいるのかな?日曜に良かったらお茶でもどう?」
日曜ってことは明日だ。今回も俊雄さんに会えそうにないし、暇を持て余し、うじうじまた悩みながら8 8 rockdayに行くよりはイハさんとお茶でも飲んで話をした方が気持ちが楽になるかもなあと思った。
私は悩みながらも「まだスケジュールがわからない状態なので、明日の朝連絡します。それでも大丈夫でしょうか?」と、携帯メールのアドレスを添えて返信した。
しばらくして、マッシュルームスープを啜っていると見知らぬメールアドレスからメールがきた。イハさんからだった。
「それでもいいよ。じゃあ、明日の朝、連絡ください」
もしかしたらワイアードさんたちと8-ballの出演するイベントに行くかもしれないけれど、面倒くさい私を連れて行くよりも気の合うメンバーだけで行くだろうなと、スープを啜りながら私はイハさんとのサシオフを確信していた。
支払いを終え、外に出るとワイアードさんからメールがきた。
「ライブがもうすぐ始まるよ」と。
私は覚悟を決めて、セブンスヘブンへと足を早めた。
ライブはさらにワイアードさんたちと私の温度差をはっきりとさせてしまった。
話をしなくていいから楽ではあったものの、うっとりした目をして8-ballメンバーを見つめるせつらさんとかのんさん、雄々しい歓声をあげて最前列にかじりつくように進んでいくコウさん、ワイ、コウたんと互いを呼び、コウさんとハイタッチしあうワイアードさんの中で私だけが醒めた目をしてライブを見ていてだんだん溝は深まっていった。
ライブが終わると興奮冷めやらず飲みに行こうと話し合うワイアードさんたちに会釈して私はそそくさとおいとました。ライブ観賞のあるオフ会ですらこんな調子だ。感情がメルトダウンを起こしたら大変なことになる。
疲れているにも関わらず、ふらふらと歩き、たどり着いたのは2度目の沖縄旅行最後の夜にアメリカ兵たちと一緒に行ったカラオケバー“Key Stone”だった。
その夜は、土曜の夜だというのに客は少なく、丸眼鏡をしたオーナーのレニーさんと、初めて来店した時もいたおかっぱ頭のかわいいバイトちゃん2人で店を切り盛りされていた。
レニーさんとおかっぱちゃんは私の姿を認めるととても歓迎してくださり、なんだかこそばゆくも嬉しかった。
気持ちが楽になり、おかっぱちゃんにモスコミュールをオーダーし、モスコミュールの代金にカラオケの料金を追加してIslandの“Stay with me”を唄った。
祈ったところで何も変わらないけれど、私は祈り、願うように唄った。また俊雄さんと会えますように、いつか正男さんと会える日がきますようにと心の中で呟きながら。
私の歌を聴き終えたレニーさんはぽつんと呟かれた。
「アイランドはね。80年代のコザで一番のバンドだったんだよ。でもね、色々あってダメになっちゃった」
その色々を思い出したのだろう、人差し指で×印を作りながらレニーさんは大きくため息をつかれた。
おかっぱちゃんは笑顔で拍手してくれた。おかっぱちゃんの拍手に私の心は少し救われた。
2人にお礼を言い、ゲート通りから嘉間良までノロノロと歩いて帰った。
ゲストハウスに戻り、冷たいシャワーを浴びて着替えて寝ようとするものの、満杯のドミトリーでは熱風機と化した扇風機だけが稼働していて蒸し暑くて眠れず、ようやく寝付いたのは涼しい風がそよぎ出した明け方だった。
目を覚ましたのが午前9時で、携帯を見るとコウさんからメールがきていた。
「すまん!何度か電話したけれどまいきー電話に出なかったからワイたちと北谷のイベントに行ってきます!ごめんね」
着信とメールをくださったコウさんに申し訳なかったなと思うと同時に、やはり予想通りになったなと思った。
さて、こうなったらイハさんとサシオフだ。
イハさんがどんな人なのかまだ掴み所はないけれど、一か八か会ってみよう。
私はイハさんにサシオフの承諾メールを送信した。

(オキナワンロックドリフターvol.41へ続く……)
文責・コサイミキ

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