愛のカバーをうたおうを観たんだ。
昨年末、作曲家でキーボーディストのマッタラーさんこと新川雅啓さんの某SNSでの投稿で知ったこの新春特別番組。
思わず目をむき、何度も何度も投稿を読み返し、どうか沖縄のみの放送でなく、Tverにて配信されないかと願った。
別SNSにてさる方がTverにて配信されることをお知らせしていたので、年末から配信を今か今かと指折り数えて待っていた。
そして、1月3日、午後12時。アプリを起動させ、観賞。え!いきなり序盤からかい!Anlyとかりゆし58のコラボやHYの『芭蕉布』のカバー等を経て中盤くらいになるかと思っていたら序盤からかい!
琉球放送のアナウンサーのナレーションに合わせ、オキナワンロックの映像が流れるけれど、オリジナル紫の映像箇所で流れるのが“Double Dealing Woman”ではなく、“Rock'n roll nightmare”なのがある意味新鮮。
そして、流れてくるアイランドの映像に泣く箇所ではないのについ泣いてしまった。
い、いや。正確に言えば笑い泣きである。
何故なら、正男さんのステージ衣装がやたらテラテラした質感の中国服だからだ。どこで手にいれたんだこんな衣装。ていうか、玖保キリコの漫画に出てくる子どもがこんな服着てたぞ。
閑話休題。けれども、城間兄弟の不祥事や正男さんの起こした事件からとはいえ、長年の間、沖縄の音楽界隈では「なかったこと」にされていたから、こうやって沖縄のテレビ局で、しかも、正月の昼過ぎにアイランドの映像が放送されたのは感慨無量である。
そして、映像は、今回“Stay with me”のカバーをされる前川真悟さん、“Stay with me”の作曲者である新川雅啓さん、正男さんのご子息でドラムの城間滝さんによる対談へ。
前川さんの「“Stay with me”はウチナーンチュの誇り」という言葉に思わず身を乗り出してしまった。
20歳の頃に東海地方でトラック運転手をされていたという前川さん。勤めていた会社には沖縄の方が多く勤められていて、仕事が終わるとカラオケスナックにて、地元の方と歌合戦状態になっていたとか。「俺たちの島にはこんな歌があるんだよ」と歌われたのが“Stay with me”だったそうだ。そして、「歌うというのは自分の人生を象徴する、込めるものなんだな」と瞳輝かせて語る前川さんの姿にふっと目を細めるマッタラーさんが印象的だった。
そして、アイランドの全盛期。今となっては遠い昔話となってしまった、城間兄弟にとって『我が世の春』だった頃であろう時代。正男さんの息子さんの滝さんが語るアイランドの華やかなりし頃はちょうどバブル景気~音楽バブルの時期と重なっていたのもあってかきらびやかなものだった。週末は300人は入っていたという大盛況、アイランドが拠点としていたライブハウス『アイランド』があった山根ビル付近ではタクシーが横付けされて渋滞していたという。そして、そんな話の中から滝さんがドラマーを目指したきっかけを知れたのも収穫だった。
話題は“Stay with me”誕生秘話へ。
曲作りをしていたマッタラーさんに、正男さんが“Stay with me”という詞を書いたんだけれどと詞を見せたものの、歌詞が一番しかできておらず、マッタラーさんとの合作で詞が完成。その日のうちに“Stay with me”ができたとか。マッタラーさん天才か?オリジナル紫でも、正男さんが問わず語りした夢の話からジョージ紫さんが“Mother nature's plight”を作曲されたし、正男さんの感性と、ジョージさんしかりマッタラーさんしかり、キーボーディストの感性には親和性があるのかなと素人の浅い推測でしかないがそんなことを思ってみたり。
そして、ライブハウス『アイランド』にユーミンこと松任谷由実女史が来店。ユーミンの側近の方を通し、“Stay with me”をユーミンのオールナイトニッポンのエンディングテーマにしたいと申し出が。デモテープ等なかったので即座にレコーディングし、テープを送付。かくして、“Stay with me”はスマッシュヒットしたという。
対談のラストは『語り継がれる名曲とは?』というお題。
前川さんの言葉が熱を帯びていく。「一生懸命唄った時に自分の何かを曲が受け取ってくれる」、「生み手よりも愛し手が曲を育てていく」と“Stay with me”を表した前川さん。その言葉に、「あー。確かにそうだよな。うん」と頷いてしまった。
そして、唄われる“Stay with me”。
前川さんは2011年8月にリリースされた、バイオリニストの宮本笑里さんのコラボレーションアルバム、『大きな輪』でも“Stay with me”を唄われていた。その当時の声は紆余曲折あれど歌を選んだ人ならではの揺るぎなさの中に少しやんちゃさが混じっていた。今回の“Stay with me”の前川さんの歌声は“凪”だった。鏡のように波のない凪の海が見えた。
そして、キーボードにマッタラーさん、ドラムに滝さんがという豪華なカバーにアドレナリンがだくだく放出されると同時に、コーラス時の滝さんの尖ったハイトーンがありし日の城間俊雄さんのコーラスを想起させ、思わず泣いてしまった。
色々あったね。でもやっぱりいい曲は代々に語り継がれるんだよ。良かったね、俊雄さん、正男さん。
拭っても拭っても涙が零れていく。同時に、愛してやまない“Stay with me”が世代を越えて歌い継がれることを確信し、私はほっとして笑った。
(文責・コサイミキ)