山口冨士夫・皆殺しのバラードを観賞したんだ。

2015年6月、DenkikanにてJimi:栄光の軌跡を観賞したもののがっかりクオリティに落胆し、気を取り直して、『山口富士夫・皆殺しのバラード』が始まるまで幕間のミニライブを観賞しました。
熊本のアーティストにうとい自分が情けなくなりますが、 Montelimaというバンドのギターヴォーカルを務めるハンダマサユキさんが丁寧に優しく奏でて唄うAngelと、熊本を拠点としているミュージシャン、風太郎さんが山口冨士夫さんを偲び、唄う「冨士夫さん」にしんみりしながら、二本目の映画、山口冨士夫・皆殺しのバラードを観賞します。

正直、山口冨士夫さんというと、QuickJapanの最初の頃に連載された、村八分のチャー坊の追悼特集でインタビューをされた際に名前を知り、ハッチポッチステーションで気になった曲、トンネル天国が冨士夫さんがいたザ・ダイナマイツがオリジナルであることくらいしか知らず、後にYouTubeで聴いた村八分や裸のラリーズは、聴いたけれどもあまり得意でないジャンルで、曲のジャンルは苦手だけれどなんだか物凄い人というのが山口冨士夫さんに抱いたイメージでした。

冨士夫さんが米軍兵士のいさかいに巻き込まれ、他界して二年後に公開されたこのドキュメンタリー。
ミニシアターで一夜限りの上映ということで、山口冨士夫に触れてみようと決意し、皆殺しのバラードを観賞しました。
冒頭、グァテマラのインディオをそっと包み込むように唄う冨士夫さんは、よぼよぼで、老いと病と積み重ねた不摂生が白髪だらけのアフロとシワだらけの顔に現れていました。

ところが、ぶつ切りに挿入されたライブ映像ではっとしたのはそのギターの澄んだ音色。
例えるならば、汚泥にまみれた川に頭まで浸かって恐々目を見開いたら、そこの中は、藻や魚もいる澄んだ水の世界だった驚きというのでしょうか。
それでいて、唄う時はこの世の不条理、臭いものに蓋な時世に切りつけるように、手錠にかけながらも暴れるパフォーマンスをしながら、叫ぶ冨士夫さん。
楽屋で呂律の回らない喋りで酒をマネージャーにねだり、呆れられる老人と同一人物は思えないくらいの輝きが断片的とはいえ映像に留められていました。
そして、mcを茶化した客への凄み。さながら、研ぎ澄まされたメスを喉元に突きつけるような凄みで、見ているこちらもすくんで姿勢を正してしまいます。
映像全体には、時にマネージャーに支えられ、ローディーがハラハラするほど老いが現れた冨士夫さん。しかし、断片的とはいえ、輝きと激しさと鋭さが記録された晩年の映像でした。
ラストのステージを去る冨士夫さんの姿は生の輝きと忍び寄る死の匂いが相反していました。
映画が終わると、今はもう亡きロックの伝説の一人、山口冨士夫に敬意を表すように観客が拍手を送っていました。
拍手をしながら、ジャンルや観客層が苦手だからと退かずに一度でもライブに足を運び、あのギターを、信じられないほどに透明なあのギターの音色を聴けば良かったと悔やむのです。

文責・コサイミキ

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