オキナワンロックドリフターvol.59

京都観光ホテルまで駆け出して、部屋で横になると、あっという間にこてんと眠りについた。
目覚めたのは午前9時。
さっとシャワーを浴びて着替えつつ備え付けのポットでお湯を沸かしてお茶を飲み、地下の食堂へ。和定食の具だくさん味噌汁はおいしく、食堂のおばちゃんたちは変わらずてきぱき働いているものの、快活さはなく、京都観光ホテルの「あまりよくない変化」が如実に現れていた。
食事を終えて、荷物を取ったら早々とチェックアウト。京都観光ホテルからサンライズ観光ホテルまではすぐ近くだ。荷物だけ預けておこうと思ったら、恰幅のよい初老のフロントの男性から「チェックインできますよー」と言われたので、お言葉に甘えてチェックインすることにした。
サンライズホテルはさながら、70年代のドラマに出てくるホテルそのままの内装かつ、古いながらも清潔感があるホテルだった。フロントに煌めくシャンデリア、アンティークの絵皿を飾る黒檀のキャビネット、鮮やかな桃色が愛らしい猫足のチェア。
そして、部屋の中もレトロかつ愛らしい調度品があった。よく磨かれた木のチェアに丸いテーブル。ふかふかのベッド、そしてバスルームは大きなバスタブがあり、ゆっくり湯船を楽しめそうだった。
パリッとしたシーツに横になり、このままうとうと昼寝したくなったものの、私にはやることがあった。
俊雄さんに会えなくても、城間家に行き、お土産を渡すことだ。
意を決して立ち上がり、いざ、行かん。
中の町から城間家がある街は歩いて20分弱。少し遠いが、散歩にはちょうどいい距離だ。ご当地サブレをエコバッグに入れてひたすらてくてく歩き、モルタルの壁のこじんまりした家が目に入った時は鼓動が早まった。前回は俊雄さんの憔悴ぶりから無理に訪れたら嫌われそうで引き返した場所。でも、たとえ俊雄さんがいなくてもご家族にお土産を手渡したかった。
大きく息を吸い込みインターホンを押すと、玄関から可愛らしい男の子が顔を出した。浅黒い肌と丸い瞳に正男さんの面影がある子だが、彼は怪訝そうに私をじっと見ている。
気まずさからうろたえつつも「あ、あの。これ、みなさんでどうぞ」とサブレを手渡した。男の子はか細い声で「どうも」と呟いて受け取ると、すぐさまきびすを返して玄関の奥へ駆け出した。会釈すると、玄関の奥から小柄なおばあさんが見えた。おばあさんは何度も何度も私にお辞儀をされた。城間兄弟のご母堂さまだと確信し、ちくちくと胸が締め付けられた。
言い様のないやるせなさが去来し、私は緊張と興奮で熱くなった体を冷まそうとあてもなく歩いた。
気がついたら普天間宮まで歩いたのでせっかくだからと参拝することにした。
賽銭箱に100円を入れ、ありったけの念を込めて祈った。歩きすぎたせいか足はパンパン、喉はからからだった。普天間宮近くにある自販機でさんぴん茶を買って喉を潤し、帰りはバスで胡屋まで。
時計を見たら昼を過ぎていた。歩いたせいかお腹がすいた。私はニューヨークレストランに行き、ハンバーガーを食べることにした。Aサイン時代の名残ある長方形のハンバーガーを噛り、満足するとパークアベニュー探索だ。
チャレンジショップのひとつだった一銭洋食屋ゆゆやは撤退し、他にもアイリッシュバーモリガンズ等いくつか閉店した店があり、パークアベニューはますます寂れてしまった。コリンザもかろうじてベスト電器とダイソーにちらほら人がいるだけで後の店は死んだような静けさだ。
ムオリさんとのオフ会までまだ時間が十分ある。パークアベニューにネットカフェをみつけたので、私はそこで携帯を充電し、掲示板の書き込みをチェックしたり、ブログの更新をして過ごした。
そうこうしていたら夕方になった。私は一旦着替えてからオフ会に行こうとネットカフェを去り、パルミラ通りを歩いた。すると。
見覚えのある、しかし、ここにいるはずのない、銀狐の尻尾が視界を横切った。
「ジ、ジミーさん?」
思わず叫んでしまった。振り返るその人は似ているけれど別人で、島ナイチャーのジュンキチさんという、コザで中古車販売をされている男性だった。ジュンキチさんはジミーさんと生き別れの双子かと言われるくらい似ていて、ジミーさんがご存命の頃はジミーさんとよく間違えられたそうだ。
ジュンキチさんはくくっと笑いながら足を上げて、「ごめんねー。ジミーじゃなくて。ほら、足があるからね。僕はジュンキチ」
ああ。なんてベタな人違いをしたのだろう。恥ずかしさと情けなさと、改めてジミーさんのいない寂しさでないまぜになり、私は泣き崩れた。
ジュンキチさんは泣く幼子をあやすような手つきでポンポンと私の頭を撫で、「ジミーのこと好きだったんだね」と優しく呟かれた。
さらに、タイミングが悪いことにターキーさんが通りかかった。ジュンキチさんは「タカシ、俺さあ、またジミーに間違えられたよ」と苦笑いしながらターキーさんに話しかけられた。ターキーさんは私をちらりと見、「あー。よく来てくれる子だね」としゃがんで私の顔を覗きこんだ。
ぐずぐず泣く私の肩をさすりながらもターキーさんが呟かれた言葉は柔らかい口調ながらもシビアかつ辛辣だった。
「寂しいよね。でも、仕方ないよ」
あまりにあっさりした言葉に固まり、泣き止んだ。
仕方ないよ、か……。
タフじゃないとコザの街でロックは続けられないよなと思いながら、私は複雑な気持ちでゲート通りへ向かうターキーさんに手を振った。
時は残酷な程に流れが早い。いつまでも、亡き人を探す私は時に見捨てられるのだろうかと思いながら、私は吹き付ける風の寒さに身震いし、何か温かいものを飲もうとパルミラ通りにある『コザクラ』というバーに立ち寄ることにした。

(オキナワンロックドリフターvol.60へ続く……)

(文責・コサイミキ)

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