ぼくは、ひとり
ほんとうの家族を失って、でも、やがてぼくには仲間ができた。それは与えられたものだったけど、ぼくが掴み取ったものでもあって、それがぼくの家族になったんだ。
ぼくは、ぼくの大事なものを守ろうとした。でも、時という大きな力には逆えず、流されていく。ぼくは、こんなにも、無力だったんだ。
人生がいくつもの岐路を経て、今という場所につながっているならば、ぼくたちは、今も共にいるという道を、選び続けることができなかったんだろう。ひとつ、道を間違えば、ひとつ、離れていく。やがて、積み上げたものが、ひとつひとつ、壊れていく。
そうして、ぼくは、ひとり。
孤独と、向き合い、寂しさと、戦わなければいけない、ぼくは。
でも、ぼくはあきらめない。ひとりでも、この場所に居続ければ、ぼくの大切な人が帰ってくることができるだろう。
ひとつひとつ、修復していく。先が見えなくてもいい。一日一日を、ここで一生懸命生きることで、一歩ずつ先につないでいく。そうやってぼくは生きていく。
一日の終わりに、寂しくてたまらなくなるときは、暖かい記憶を蘇らせて笑っていればいい。ぼくは、きみの場所を守っているんだから。そう信じていれば、辛くはないから。幸せだった昔を思い出すことは、けっして悲しいことじゃない。
過ぎ去った幸せを、面白がって生きていく。胸の痛みと、底の見えない寂しさは、そのまま受け止めていればいい。寂しさに耐えきれない時には、思い切り泣いたっていい。痛みにはそのうち慣れるんだろう。
そうやってぼくは生きていく。生きていく。
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突然、先が見えなくなった。
このままではいけないと焦り出した。求められれば叶えてやりたくて応えてやりたくて守ってやりたくて、このままではいけないと思った。先に進むことで見える未来があるならば、ここに止まるんじゃなくて先に進まなければ。
終わらせることで始まる何かがある。急げ時は進んでいく。このままじゃいけない。誰もここにいるべきじゃない。このままじゃいけない。あいつを逃がすんだ。そうだ。気づいた。これはフェイクだ。行き場のない、甘く、居心地の良い、フェイクだ。
誰もここにいちゃいけない。フェイクが誰の足枷になってもいけない。冒険はしたほうがいい。一か八かでもそれで新しい何かが見えてくるなら。
そう思って過去を捨て今を振り切って自由になって突き進んだんだ。
ここまで来て、立ち止まる。
そうして、ふと気づくと、あの焦りは、本当は自分のものじゃなかったかもしれない、と思うんだ。
今、目の前にあるものに向き合って、ああ、傷を舐め合っていただけだ、と知ったんだ。真実に目を背ける空虚さを、互いの繋ぎにして。
あの焦りが、本当は、フェイクだ。Oh my goodness, what a joke!
思えば、置き去りにしたものが、一番大切なものだったんだろう。なぜ置き去りにした?
共にあり続けて、共に苦しむ道もあったはずだろう。なぜ、それを選ばなかった?
なぜ? 焦りに取り込まれたのは? なぜ? 置き去りにしたのは? 逃げ出したかったのか? ……いや、ただ、どうすればいいのか、わからなかっただけだ。
あの、惑いの一歩が、いつのまにか未来を分け、道は別れて、あいつはもうここにはいない。ここにはいない。
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ぼくはここにいる。
ぼくは、ひとり、きみが帰ってくるのを待っている。
きみが間違っているとは思わない。きみが帰ってこなくたっていい。
でもぼくは、ここにいる。
辛くても、きみの場所は、やっぱりぼくの隣だと、たぶん、ぼくは疑っていないんだろう。