”Social Mirai Design”「激変する時代の未来デザイン」(第7回)
今回の講義は、太刀川英輔さん。NOSIGNER代表、デザインストラテジスト。1)ソーシャルデザインで美しい未来をつくる、2)発想の仕組みを解明し変革者を増やす、この2つの目標を掲げ、次世代エネルギー・地域活性・伝統産業・科学コミュニケーションなど、SDGsに代表される分野で多くのデザインプロジェクトを実現されている方で、プロダクト・グラフィック・建築・空間・発明の領域を越境するデザイナーとして活動されています。
1)何をデザインするか?ではなく、「なぜ」デザインするか?
最近、デザインという言葉が広義に使われ、認識され始めている気がします。
辞書によると、「服飾・建築・工業製品・商業美術などの分野で、機能や美的効果を考慮して作品・製品などの形態を立案すること。」とされていますが、公益財団法人日本デザイン振興会は、「その目的のための計画そのものがデザイン。色や形、技術や機能は、その目的を実現するための手段のひとつ。デザインは常に「ヒト」が中心にあり、社会を発展させる力を持っている。」と説明しています。
なので、前者は狭義のデザイン、後者を広義のデザインと僕は認識しています。
太刀川さん率いるNOSIGNERは、まさしく広義のデザインの目的に対して活動されていて、だからこそ、何をデザインするか?ではなく、「なぜ」デザインするか?を大切にしていると言います。
そして、「デザインは代案を出すことができる。」というシンプルな言葉はとても分かりやすいと感じました。
たとえば防災。
「防災の備えって大事だよね。」「いろいろ準備したほうがいいよね。」という意識はほとんどの方の共通認識だと思いますが、それを「防災キット」という形にデザインして、「こんなのどう?」と代案を出す、という感じです。
防災セット「THE SECOND AID」
https://nosigner.com/the-second-aid
防災関係では他にも、
生存に役立つオープンデザインを被災者に届けるwiki「OLIVE」
https://nosigner.com/olive
や
東京都民を、世界一災害に準備ができた市民にする「東京防災」
https://nosigner.com/tokyo-bousai
なども紹介していただけました。
「防災って大事だよ。」という単なる呪文や、「行政は何をやってる!」みたいな批判ではなく、代案を提示することができるのがデザインの力。
NOSIGNERはそれを実践して証明しています。
ただ、このような取り組みも、すぐに実現したわけではなく、防災セットは完成までに2年を要したそうです。大事なのは、信じてやり続けること。
最初は小さなムーブメントでも、雪だるまを転がすように大きくなっていけるし、言い続けていることで仲間も増えていくのだと思います。(雪だるま式の例として、温暖化対策を訴えたスウェーデンの16歳の女子高校生、グレタさんが良い例ですね。)
デザインには仲間を集める力があり、人と人を結びつける力があり、目的をドライブする力があります。
2)創造的な人を増やしたい。
太刀川さんは「創造的な人を増やしたい。」と言います。
創造的な人というのは、代案を示すことができる人ですね。社会課題を解決していくためには、批判ではなく、代案を提示していくことが必要です。「こういうのはどう?」って。
「創造的な人」というと捉え方によってはハードルが高いと感じてしまうかもしれませんが、「代案を提示できる人」という言葉に置きなおすと、少し現実的に考えられるのではないでしょうか。
太刀川さんは創造的な人の具体的な目標値もあるそうです。それは2,000人に1人。
日本の人口が126,500,000人だとすると63,250人、愛知県の人口が7,553,000人だとすると3,776人、僕が住む瀬戸市の人口が129,000人だとすると65人。
ここまで細分化していくと、実現できそうかもって思えてきます。具体的な数値目標ってやはり大切です。
3)「秀才」と「バカ」の両方を学ぶ~進化思考~
今回の講義のメインは、太刀川さんの提唱する「進化思考」がメインでしたが、これがとても面白かったです。
創造とは何か?という問いに対して、生物の「進化」からアプローチしてるんですね。
創造がもし進化の模倣だとしたら?という仮説に基づき、進化の摂理から創造の核心を導く、というのが進化思考です。
進化は、「変異による試み」(HOW)と「関係による淘汰」(WHY)の繰り返しループによって行われてきました。
「変異による試み」とは、キリンが首を長くしてみた、です。
「関係による淘汰」とは、首が長くなったキリンが高いところの草を食べて生き残れた、です。
「変異による試み」を「バカ」に例え、「関係による淘汰」を「秀才」に例えることができます。
そしてこの「変異による試み」と「関係による淘汰」は、それぞれパターン分けできるのではないか?というのが進化思考の肝です。
【変異】~概念の「変異」を大量に起こす~
欠失、融合、代入、擬態、転移、変量、反転、増殖の8つに分けられます。
生物の進化と、デザインで例えてみると、
欠失:足をうっかり作り忘れたトカゲ→ヘビ、羽根のない扇風機→ダイソン
融合:細菌が細胞内に住み着いてミトコンドリアになった、カレーにうどんを入れてみた→カレーうどん
代入:殻に子孫を入れてみた→卵、おにぎりの具にいろいろ入れてみた→コンビニおにぎり
擬態:カメレオン、ロボットを犬の形にしてみた→アイボ
転移:草が違う土地で生えてみた、筆を顔に使ってみた→メイクブラシ
変量:鳥がくちばしの大きさを変えてみた、iphoneを大きくしてみた→ipad
反転:さかさまにぶら下がってみた→コウモリ、傘の閉じ方を逆にしてみた→反転傘
増殖:イワシが大量に集まってみた、小さいライトを大量にしてみた→テレビモニター
という感じです。
よく、「アイデアを発想するにはバカになれ。」と聞きますが、「バカのなり方には型がある」ということです。
【関係】~時空の「関係」を理解する~
解剖(ミクロ/内部)、系統(過去)、生態(マクロ/外部)、予測(未来)の4つのベクトルで分析することができます。
わかりやすく言い換えると、過去、未来、内部、外部の4つです。
この進化思考は、いわばフレームワークのようなもので、世の中の事象はすべてこの手法で分析できるというものです。
社会に代案を示したとき、よくある意見としては「それは実現可能か?(ほんとにできるの?)」と、「限りなくシンプルか?(ムダなくできるの?)」です。
これに対して、自然界における生物の進化がそれを証明している、という事実がこの上ない後ろ盾になる気がします。
「進化思考」入門
http://cocre.jalan.net/cocre/lab/shinkashikou/
※来春には書籍が発行されるそうです。
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