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新世代のリーダーは救世主となるのか

前回の投稿で、医師夫婦の働き方について、サッカーに例えてみました。最後に、共働きの医師夫婦の苦労を解消する方法として、新しい世代のリーダーに期待するということを書きました。しかしそこでも書きましたが、たぶんそれは難しいと思います。それはなぜかを書いていきたいと思います。

1: 結局、専業主婦パターンがけっこう多い

若手のホープとか、次世代のエースなどと呼ばれる人が医師や研究者の中にもいます。若くしてトップクラスの雑誌に論文を発表したり、海外で活躍していたり、自分の研究グループを動かしていたり、大規模臨床試験を主導していたり、中には30代で大学教授になられる方もいらっしゃいます。彼らをみていると私などはため息しか出ないのですが、たまに勉強会などでそういった方たちとお話する機会を得ることがあります。

コロナが流行る前のこと、ある勉強会の後の懇親会で少しお酒を飲みながら、私より少し上のいわゆる若手ホープの先生とお話をしていました。一通り学術的な話をした後、子供の話になり、休日は家族サービスなど、どうしているのか私が聞ききました。すると、その先生は真顔で「わかりません、私は基本的には休日も研究室にいますから」と答えられました。この後も保育園のことや育児環境のことを少し聞いたような気がしますが返事はすべて、「妻に任せていてわからない」でした。非常に物腰穏やかな先生なので、その冷たい返事に驚き、同年代でもこういう生活をしている方もいるのだなと思ったものでした。

しかし冷静になって私がいた大学のことを顧みると、准教授以上の男の先生の奥様は大抵、専業主婦(もしくは奥さんが時短のワンオペ)ばかりだったことに気付きました。

アカデミアに身を置くと実感するのですが、研究社会の競争は激しく、時短で子育てをしながら戦い抜くのはなかなか厳しいと思います。このあたりは九州大学の中山敬一先生の「君たちに伝えたい三つのこと」という本(ウェブでも読める)に詳しく書かれています。ちなみに10年前に書かれたこの本の中に、「研究するにあたり結婚は△、出産は×」という文章があって私は衝撃を受けたのですが、最近、久しぶりに中山先生のホームページを見てみると、「あの文章はそういう意図ではなくて」というお詫び記事のようなものが載っていました。女性差別だという世間の声に答えたようです。興味のある方はぜひ一読されると良いと思います(引用フリーかわからなかったのでリンクは貼ってません)。

話を戻しますが、結局のところ若手ホープも男性の場合は、専業主婦の妻を持つパターンが多い印象です。もしくは独身というパターンもあります。逆に共働きの場合などはどちらかがペースを落としたり、もう少し楽なポストに移ったりということが多いのではないでしょうか。妻に家庭のことをすべて任せ、仕事のみに集中した若手ホープが順調にキャリアをつみ、将来的にリーダーになるとどうなるのか。結局、いまとそんなに状況は変わらないのではないでしょうか。

2:それでも頑張った共働き夫婦がリーダーになった場合

体育会の部活では謎ルールがたくさんあります。私の高校の野球部にも一年生は水を飲んだらダメとか、部室に向かって挨拶らしきものを叫ぶとかよくわからないルールがありました。これは伝統という名のもと、なかなか改善されません。その理由は、謎ルールに苦しんでいた下級生が上級生になった時に「俺たちの時もそうだったから」とか「俺たちも苦労したから」という心理が働き続けるためだと思います。

この心理は誰にでも起こり得ます。仮に夫婦で協力し、実家やシッターさんなどの補助を受けながら、なんとか大学病院や一流研究所で踏みとどまり、業績を積んでリーダーになった方がいたとします。先の部活の謎ルールと同じことが起きないでしょうか。つまり「我々も苦労したんだからお前らも同じように苦労しろ」と考えてしまう可能性です。

もっとひどいのは、「我々は延長保育で夜8時まで子供を預けて頑張ったぞ」とか「夕方5時に子供を迎えに行って、子供が寝てから研究室に戻って夜通し実験したな」などと言って、そういう働き方を強制してしまう場合です。

考えすぎと言われるかもしれませんが、筒井冨美さんの「女医問題ぶった斬り! 女性減点入試の真犯人 (光文社新書)」にも同じような可能性が指摘されています(この本の場合は女性上司の話ですが)。多少、偏った意見かもしれませんが切って捨てられないとも思います。

このほかに例えば夫がバリバリ働いて出世し、妻の方が時短ワンオペで頑張ったケースもあります。この場合、共働きは共働きなので、夫は「共働きでもなんとかなる」と、なおさら勘違いしてしまう可能性は高いです。

3: それでも風穴は開けたい

前にも書きましたが、それでもなんとか頑張って生き残り、これからの若い人たちに働きやすい環境を作りたいというのが私の今の目標のひとつです。とはいえ、あまりに辛かったら、楽な方へ流れるかもしれませんが。

実は妻の職場に子育て世代に理解のある先生(部長クラス)が何人かいらっしゃいます。若い頃、共働きで子育てされ、子供が熱を出した時など日中は夫婦交代で子供の面倒を見て、深夜に病院のルーチンをこなすというような苦労をされたそうです。そしていまは子育て中の医師が、なんとか働きやすくできないか尽力されているようです。

4: 具体的な改善策

それでは具体的にどんなことが環境改善に役立つか考えてみました。

・グループ制と時間をずらした勤務

まず複数人でチームを組み、同時に働くのでなく時間をずらして決まった時間、働くことで効率的な働き方ができるかなと思います。チームのメンバーが一緒の時間に働かないというのがポイントです。

・多施設のコラボ

ここからは研究活動についてです。ヨーロッパなどをみるとあまり長い時間働いていないのに多くの成果を出されています。これは多施設でコラボして研究を進めているからで、さらには情報共有が半端ではありません。こういう体系が組めると理想的かなと思います。

・徹底した外注

研究も外注が増えています。例えば論文作り、つまりfigure作りや文章作成(英語)も外注することで時間はだいぶ短縮されないでしょうか。症例報告なども、アイデアのみまとめ、あとは外注で書いてもらうというのもありかなと思っています。英語を書く力がつかないという意見はここでは無視です。まあ大学院の博士論文くらいは自力でまとめた方が良いかもしれませんが。

・とにかく仕事を分割

アメリカでよくあるのですが、仕事を分割して担当者はそれしかやらないという方法です。特に大学などで担当部署があれば理想的です。例えばフローサイトメトリー部門、次世代シークエンサー部門などを設置し、サンプルを持っていけば結果が出るという仕組みで。ついでに論文のfigure作り部門とか、英語校正部門とかもあれば最高だと思うのですが、どうでしょうか。

とりあえず思いついたことを少しだけ挙げてみました。これらを実践するには人員も必要ですし、外注などはお金もかかってきます。現実的ではない部分も多いと思います。また色々な人を巻き込むので、研究活動の場合、主導権を握りにくくなるというデメリットもあります。他にもアイデアがあれば、ぜひご教授いただきたいです。

5:まとめ

大学病院はじめアカデミアの働き方は、このままだとずっとかわらないでしょう。いま教授やリーダーとして働いている50-60歳の人と、いまの若い人、特に若手のホープと言われている人たちで根本的な考え方は変わらないからです。

悲観的なことばかり書いてきましたが、それでもそこに風穴を開けるような人たちが本当に少しずつ出てきています(自分もそこに加わりたいところです)。またこれまでの常識を打ち破ることで劇的な時短ができ、素晴らしい成果があげられるのではないかとも思っています。この辺はまだまだ考えていかなくてはいけないところです。

長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。写真はなんとなく、どこかの水族館のクラゲです。

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