学級崩壊の体験
私が小学校5-6年生の時、学級崩壊を体験しました。厳密に言うと、私のクラス以外の2つのクラスが学級崩壊していたのです。25年くらい前のことで、その後から全国的に学級崩壊が問題となったので、かなり早い時期の体験だったと思います。
1:崩壊の予兆
私が通っていた小学校は東京郊外の公立小学校で地元の子達が通っていました。もともと私が住んでいた地域は文教都市として教育に力を入れており、それを知って引っ越してくる家族もいたくらいなので比較的、大人しい子供が大半でした。一方、やんちゃな子や少し変わった子もおり、それなりに軽いいじめなどはありましたし、いじめとは関係なく登校拒否している子もクラスに1人か2人はいました。
うちの小学校は2年ごとにクラス替えがあり、その度に担任が代わります。3年生にあがったタイミングで担任が代わり、3クラスあったのですが、30歳代の若い女性の先生が2人、ベテランの女性の先生が1人という布陣になりました。私は若い先生のクラスでした。ところがしばらくしてベテランの先生が体調不良で休職され、亡くなられてしまいます。おそらく、がんの類だったのでしょう。休職後は色々な先生でつなぎ、途中から新しい先生に代わりました。ところがこの新しい先生というのが大学卒業したての本当にかわいらしい先生で、生徒からなめられてしまったのです。振り返れば、そのクラスは少し問題のある子が集まっており、そのためにベテランの先生を担任にしたようでした。
そのクラスだけ、だんだん授業を聞かなくなり、授業中に立ち上がったりするようになり、全体集会でもまとまりがなく少し浮いた存在になっていきました。またこの先生も、本当にお嬢さんという感じの先生だったので、子供達に何か言われると涙ぐんだり、時に泣いてしまうこともあったようでした。そして、これを見て生徒達はさらに先生をなめるという悪循環に陥りました。
学校側も問題と思ったようで、他の先生をそのクラスに臨時で教えにいかせたり、逆にその新卒の先生に割と落ち着いていた、うちのクラスで授業をさせて経験を積ませたり、さらにそれを他の先生に見てもらったりしてと努力はしているようでした。しかしそのクラスは元に戻ることなく5年生にあがることとなります。
2:崩壊前夜
5年生で再びクラス替えがあり、ベテランの女性の先生2人と30代の女性の先生1人の布陣に代わりました。私は30代の若い先生のクラスでした。結論から言うとうちのクラスだけ学級崩壊せず、他の2クラスが両方とも学級崩壊します。
理由のひとつは先に書いた崩壊気味だったクラスの生徒が、この2クラスに集まったことでした。ベテランの先生なら対処可能と学校側が考えたのかもしれません。
もうひとつの要素は中学受験でした。中学受験をする子達はこの頃から塾に行き始めます(いまはもっと早いようです)。塾で難しいことをやっていると学校の勉強が少しバカらしくなるようです。また夜遅くまで拘束されて宿題もやらなければいけないのでストレスもたまります。そして、この受験組がストレスを解消するため、クラスを扇動していきます。構図としては頭のいい受験組が悪さを考えて煽り、やんちゃな子達がその指示を受けて暴れるという感じでした。たまにストレス解消で受験組も暴れていました。ただ小学5年は反抗期という時期でもあったので、周りもなんとなくこんな感じなのかと捉えていたようです。
3:そして崩壊
こんな感じで時は進み、6年生になる頃には、この2クラスは完全に学級崩壊していました。
授業を聞かないで教室内を歩き回るのは当たり前で、外に飛び出したり、空いている教室で授業時間内に遊んだりしていました。
ある時、5人くらいの生徒が空き教室で、雑巾とほうきを使って野球を始めます。当然、授業時間内です。担任のベテラン先生が注意しにくると、そのうちの一人の生徒が先生に向かってスライディング。その生徒いわく、そこがホームベースだったから。不意のスライディングに先生はバランスを崩し、転倒。肘を脱臼したと聞きました。
またとある放課後、隣のクラスのやんちゃな子数名と隣の教室内で話していました。家が近くて彼らと仲は良かったのです。そのクラスの女の子の話題になり、一人が「あいつ気に入らないな」と言い出しました。そして段々、ヒートアップし、ついにはその女の子の机をカッターで傷つけ始めます。それでさらに興奮したのでしょう、最終的にはその女の子の机ごと窓から外に放り投げてしまいました。教室は四階にあります。私は唖然としましたが、気が済んだのか、そのまま帰ったと記憶しています。
そんな感じで学級崩壊は進行していき、中には校長室に殴り込む猛者も出てきました。先生が注意しても「嫌なら殴ってみなよ。親から教育委員会に言って問題にしてもらうから」とドラマのようなセリフを言う輩も出てきました。
ただこのベテラン先生達は生徒がめちゃくちゃやっても対外的には何故か生徒達をほめていました。印象に残っているのは学芸会です。中世ヨーロッパ的な舞台の劇で、町人達が登場するシーンの音楽とダンスを自分たちで決めていいよと言われたのです。この半グレ集団はなぜか当時、流行り始めていたtrfのez do danceを選曲します。そして振り付けも何故かブレークダンス風にします。それをみた私の母親が「時代背景がむちゃくちゃやったね」と言っていたのを覚えています。それでも先生達は生徒達が自分たちで演出した!すごい!とほめたたてていたのでした。
また驚いたのが、4年生まで同じクラスで成績も良く、品行方正だった女子が、崩壊したクラスで暴れ回っていたことです。彼女は非常に頭が良く、最終的には名門の中学に進むのですが、その頭の良さを使って教師に文句を言ったり、たしか校長室に突撃したメンバーにも入っていたと思います。環境により人はこんなに変わるのかと驚いた出来事でした。
4:かわいそうな転校生
6年の途中に1人の子が隣町から引っ越してきます。彼は塾で成績がよく、中学受験を予定していました。またサッカーがうまく、運動もできました。さらに腕っぷしが強く、喧嘩も強い番長タイプという評判で、本当に非の打ち所がない存在だったようです。なぜ彼が、この妙な時期に転校してきたのかというと、私のいた町が教育に力を入れていると聞き、そちらで受験前を過ごした方が懸命だと彼の両親が判断したためのようでした。しかし学校は絶賛、学級崩壊中。しかも彼は学級崩壊しているクラスに入りました。そのためかはわかりませんが、彼は中学受験に失敗。模試の成績はよかったのに滑り止め含め全敗します。
その後、地元の公立中学に進みましたが、怪我をしてサッカーは断念。不良っぽいところもありましたが、中学にいた本物の不良の先輩(当時はまだ私の地元に昔ながらの不良がいました)にボコボコにされ大人しくなってしまいます。さらに勉強も段々、おろそかになり成績も徐々に降下し、結果、高校受験も全敗。最終的には二次募集で引っかかって高校に進学するのですが、こんなことになるとは両親も思っていなかったでしょう。彼とは中学卒業以降、疎遠になりましたが、あそこで引っ越してこなければ別の人生もあったのではないかと思ってしまうのです。
5:なぜ私のクラスは無事だったのか
そんな中、うちのクラスだけが学級崩壊しませんでした。なぜでしょうか。
ひとつはクラスのメンバーのキャラクターです。おとなしい子が多かったと言えばそれまでなのですが、他のクラスに比べて子供っぽい子が多かった気がします。他のクラスは少し大人びているというか、大人の世界に憧れているというか。そういう微妙なメンタル面も作用して暴れていたのでしょう。逆にうちのクラスは素直な小学生っぽい子ばかりでした。それで先生の言うことを聞いていたのだと思います。
もうひとつは担任の先生です。私達の担任の先生は大学まで体育会の運動部に入っていたという経歴の持ち主で、怒鳴ったり手を出したりは一切ないのですが、怒る時ははっきりした言い方で怒っていました。逆に他のクラスの先生は威圧的な怒り方をしていたので、逆上してさらに炎上するというパターンになっていました。
あとうちのクラスも中学受験組がいたのですが、他のクラスと少し毛並みが違っていました。なんとなくバリバリ進学校を目指すというよりは少しレベルを抑えたエスカレーター式の中学を狙っていた子が多かった印象です。また塾には通っているけれど、そこまで勉強もガリガリはやらず成績もそこまで良くない子も多かった気がします。受験的にはよくないですが、彼らは他の生徒を扇動することもなかったので基本的な無害でした。実は一人だけいじめられている子がいて、それはそれで問題だったのですが、少なくとも学級崩壊はしていませんでした。
6:崩壊後の世界
この秩序のない世界は中学進学で突如、終わりを告げます。まず受験組が私立中学に進み、ブレーンがいなくなったことがひとつの原因です。そして受験組に踊らされていた、やんちゃな子達は地元の公立中学に進みますが、そこで待っていたのは、体罰も辞さない教師達でした。このあたりはまた別の機会に書きたいと思います。
7:まとめ
小学校時代の体験を振り返りました。
だいぶ前に、子供が産まれたばかりの先輩女医先生にこの話をしたことがあります。この先生もふんふんと話を聞いてくれ、時間が来たので部屋から出て行かれました。すると、しばらくして私のいた部屋に戻ってきて真顔で聞いてきました。
「ねえ、やっぱり公立の小学校って入れないほうがいいのかな?」
正直、いらん話をしたと後悔しました。答えは「なんとも言えません」です。たしかにお受験をして、国立や私立の小学校に行けば、こんな悩みはもたなくて良くなるのかもしれません。しかし公立は公立で、色々な子達と知り合いになれるといつメリットもあります。悩ましい問題ですが、正解はなさそうです。
今回も長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。しばらくしたら中学編も書く予定です。