チョコレートと、森の再生
カカオの木を森林農法で育てるところから始めて、その実からチョコをつくる取り組みをしている、エクアドルのマシュピ農園のことを知ったのは、エクアドル在住の友人、和田彩子さんを通じてでした。カカオナシオナルというエクアドル自生種のカカオの木の実からつくられたその貴重なチョコを試食させていただいたのが6年前。これがおいしくて、マシュピの名はずっと記憶に残っていました。
先日ナマケモノ倶楽部さんのオンラインイベントで、そのマシュピ農園を主宰しているアグスティーナさんとアレホさんから直接お話を聴くことができて、その取り組みのすばらしさに、椅子から転げ落ちそうになりました。
マシュピ農園のある一帯はこの数十年の間に大規模な森林伐採が行われてきて、原生林の99%が失われており、今も鉱山開発によるさらなる森林破壊の危機にさらされ続けています。そんな中、アグスティーナさんとアレホさんは森を保全・再生する活動を開始。10年以上前のことです。その後、敷地の一部分で森林農法によるカカオの栽培を始められたのでした。
森の再生は、この地での遷移(森が自然に再生される過程)を模して、先駆樹種(裸地に最初に生える陽樹)の苗木を植えるところから始め、森に自生する苗や種を採取しては植え、多層構造の森にしていったそう。森の植生の観察と並行して、この森にいる鳥の種類を経過観察してこられていて、当初54種類だったのが、10年後には201種類になったとのことでした。
カカオを栽培している区域も、土壌の再生から始めて、カカオの苗木と一緒にほかの木々や植物を混植し、元あった森を模した多層構造の森の状態で栽培しています(=「アナログフォレストリー」と呼ばれる、アグロフォレストリーよりも在来生態系の回復に力点を置いている森林農法です)。
さて、なぜカカオか、というと、カカオのおおもとの起源はエクアドルだから。最近の考古学調査によると、5000年以上前からこの地にはカカオがあったそうです。
栽培したカカオの実からチョコレートをつくる工程もひととおり見せていただきましたが、印象に残ったのは大部分が手作業であることと、必要なものをほぼほぼ森から調達していること。チョコレートのフレーバー付けに使っている材料(カルダモンなど)もこの森で育ったものを使用しているほか、カカオ豆の乾燥工程では、天日乾燥で追いつかない部分をロケットストーブの熱で乾かしていて、その燃料である薪もこの森から調達しているとのことでした。
マシュピ農園の、森の再生の取り組みとチョコレート製造については、「マシュピの森のチョコレート」を通販されているウィンドファームさんのサイトにすばらしくまとめてありますので、ご興味あったらぜひ!
こちらの動画もどうぞ(^-^)
オンラインイベント時にウィンドファーム代表の中村隆市さんからチラリとお聞きしたのだけれど、昨年12月にEUで暫定合意された「森林破壊関連品の販売を規制する規則案」によると、食品分野では、パーム油、牛肉、コーヒー、大豆、そしてカカオの5つが「森林破壊関連品」とされています。EU域内で販売・輸出する際には、森林破壊によって開発された農地で生産されていないこと(「森林破壊フリー」)を確認することが、今後企業に義務づけられることになるようす。
パーム油、牛肉、コーヒー、大豆までは、なんとなく想像できていましたが、カカオが森林破壊を引き起こすことは、自分の意識の中から抜け落ちていました。もうひとつよくわかってなかったのは、マシュピのチョコはカカオ豆、そしてカカオから抽出されるカカオバターが主成分だけれど、市販のチョコはカカオバターのかわりにパーム油脂が使われていることも多いこと。つまり市販のチョコには、5つの「森林破壊関連品」のうち2つが使われてしまっていること。
チョコは大好物なのでよく食べるのですけれど、今後もう少し選び方を考えようと思いました。
(ということで、小さなお知らせですが、ぐりとグリーンウッドワークの木削りセッション時にお出ししていたチョコも、今後は厳選するか減量するかしようかと思います。。)
「森林破壊フリー」はもちろん、一度破壊された森林を再生させるなかで生まれているマシュピのチョコは、このバレンタイン2月14日まで、大阪(阪急百貨店うめだ本店9階カカオワールド)、北海道(丸井今井札幌本店のサロンドショコラ会場)、東京(渋谷ヒカリエの8階cube2ショコラ雑貨フェスティバル)で買えます。お近くの方はよかったらぜひ!
通販だと、ウィンドファームさんのほか、スローウォーターカフェさん、冬季限定でナマケモノ倶楽部さんからも購入できます♡
アレホさんによると、マシュピのチョコは、基本的には地元地域での販売で、あとは農園の取り組みへの理解のある、対話可能なところに限定して卸しているそうでした。
■マシュピ農園も参加している、生産者参加型の認証制度の取り組み
もうひとつ、とても感銘を受けたのが、アレホさんたちエクアドルの生産者コミュニティで取り組んでいる参加型自己認証システム(Sistema Participativo de Garantía)。日本ではその英訳(Participatory Guarantee Systems)から日本語化して「参加型保証制度(PGS)」と呼ばれるもので、いわば”生産者参加型の認証制度”です。有機認証やFSC認証など、国際機関・第三者機関による認証制度ってどうなんだろう、と疑問に思うところもあるなか、この取り組みはとてもすてきだと思いました。
Red Guardianes de Semillas(シードセイバーズ・ネットワーク=”タネの守り人ネットワーク”かな?)というエクアドル国内の100世帯ほどで構成される組織によるこのPGSは、認証マークが8枚の花びらからなるお花の形をしていて、一つひとつの花びらが、以下の保証項目を表しています。
・リジェネラティブ農業である(森が自然に育っていくような、大地が再生していくような形の農業である)
・環境にやさしい需品を使っている(肥料や農薬は環境に優しいもののみを使用していて、自家製あるいは地域産のものを優先的に使用している)
・健康と環境を守っている(環境汚染・健康被害のない生産工程であり、動物福祉を尊重している)
・循環型である(生産工程や製品、包装材において、リデュース・リユース・リサイクルを実践している)
・小規模家族経営・手工業である(手を使い、ヒューマンスケールかつ高い質で暮らしの中で行われている生業である)
・ローカル市場が対象である(生産された地域で販売し、地域経済の発展に寄与している)
・社会的公平性がある(生産プロセスに関わるすべての人のあいだで社会的公平性があり、全員が意思決定に参加できる)
・シェアリング(協働型)経済である(販売価格が消費者にとっての最適な価格と生産者にとっての適正な報酬の分析に基づいている、地域通貨などを適用している)
これらすべてを満たしている生産者は8つの花びらが揃ったロゴを提示できるわけです。ちなみにマシュピ農園さんは現時点では一枚だけ花びらが半分欠けていて、それは「3R」の花びらだそう。チョコレートを包んでいるビニール包装を代替品に変えるのが品質保持上まだチャレンジなんだそうでした。
アレホさんによると、この保証制度(PGS)では「花びらをもらえるかもらえないかよりも、花びらの欠けている部分について、今後どう取り組んだらいいかの工夫を一緒に考え励してもらうことのほうに、むしろ重きが置かれている」そうで、とてもすてきだなと思いました。
そして、この8つの花びらのうちの1つに「小規模家族経営・手工業である」が入っていることも、ぐっときました。
機械に人の仕事を奪わせないこと。ヒューマンスケールで物事に当たること。
つまり、人間らしさを失わずに生きていくこと。。。?
個人的には、最近の機械翻訳の向上によって翻訳者としての自分の仕事もゆくゆくはなくなっていくのかなと感じるこの頃で、そんな中、木削りへの衝動がずっとあるのだけれど、この衝動はやっぱりちゃんと守っていくといいのかも、と思ったりしました(お門違いですが、励まされた感じです)。
(PGSの花びらの保証項目については、あいまいな記憶とスペイン語の情報からの読み取りだったところを彩さんから資料をいただいて直しました。感謝♡)