メキシコの先住民の文化と民藝が想像以上にすばらしすぎたこと(2)
メキシコ南部、オアハカの街に滞在中、メキシコの先住民文化の多様性を、たまたま目の当たりにした日がありました。
■いきなりパレード
ある日、夕方にオーガニックの市場に行って、おいしい苺ケーキ食べて、ティーンの流しの女の子ギタリストの弾き語りを聞いたりしてたら、市場の外から賑やかな音楽が聞こえだし。。外に出てみたら、オアハカからはバスで5時間かかるくらい遠いはずのイスモ地方の民族衣装のおばちゃんたちが大勢集っていました。
△大きな花模様の刺繍をびっしりと刺したブラウスが特徴の、イスモ地方の民族衣装。
これはいったいどういうこと?と不思議に思いつつ、あまりにも楽隊の音楽がかっこいいので聴き入っていたら(今日は吹奏楽器とスネアドラム、ギロの楽隊)しばらく市場の前で、自分たちだけで楽しむみたいにみんな踊った後、やおらそのまま道に繰り出し始め。。見ると別の地方の民族衣装を着た男女のグループ(女の子は全員頭に大きなマリア像を乗せてる)も道に繰り出し始め、、さらに別のグループ(こちらはセロファンでつくった巨大な苺とかメロンとかのハリボテを棒に挿してかかげている)も合流。
みんなそれぞれのステップで踊りながら歩き出したので、おもわず沿道をついていきました。すると。。最初は私たちのほか数人だけだったのが、ソカロ(中央広場)へ向かうにつれて人だかりがばばーんと増え始め。。。しかもそのほとんどがさまざまな民族衣装を着た人たちで、別の衣装の人と懐かしそうにハグしたりし始めて、しばしカオス状態に。
それが、そのうちそれぞれの衣装ごとのグループに分かれて、さっきの列の後ろに加わって、ながーいパレードの列になっていきました。グループの最前列の人は旗を持っていて、そこにどこの州から来たかが書いてあって、メキシコ全土から集まってきてたことがわかりました。
△独特の民族衣装に身を包んだ女性たち。人数の多いところも少ないところもありつつ、どの民族の方々も堂々と誇らしげだったのが印象的でした。
歩きながら歌い、踊り、シュプレヒコールをあげたりおやつを沿道に投げて配ったりしつつ(袋入りの大きいパンまで投げられてた!)、楽隊の音楽も延々と続きつつ、広場にたどり着く頃には日が暮れてたのだけど、われわれも結局最初から最後までハーメルンの笛に釣られたみたいについて行きました。
明日が、「国際母国語デー」らしいことをオアハカにきて最初に泊まった宿で見かけた広報誌で知ったので、その前夜祭かなとおもったけど、沿道の地元の人何人かに聞いてもどうも違うらしく、広場にある教会の聖母像の名前をみんな言うのでした。
でも聖母と、この明らかに先住民のみなさんのプライドパレードにしか見えないパレードがどう関係してるのかはわれわれには謎すぎて。。最終的にパレードを終えた方々に直接聞いてみたのだけど、そのときもやはり、全部の州から集まってきている、ということと、この広場の教会の名前を言われました。
わからないまま家に帰ってネットでひいてみても、何にも手掛かりらしい手掛かりがなく。。しつこく調べてたら唯一、この日が「国連社会正義の日」だとわかりました。でもなんでメキシコ全土からオアハカに先住民族のみなさんが集まってるのかは謎なまま。
スペイン語がわからなすぎて💦はてなはてな。。
でも後日、地元の女の子たちと話をする機会があったときに聴いてみたら、「それはCalenda(カレンダ)という習わし」と教わりました。「カレンダ」とは先住民の間に伝わる伝統的なお祝いの方法なんだそうでした。そしてどうやらカレンダはオアハカならではのものらしかった。村を練り歩きながら楽しく歌い踊り、最後はその村の寺院で終わるんだそう。このときもソカロ(中央広場)の教会のところでパレードは終わりになりました。
■惹かれるデザイン
民族衣装の色合いや模様だけでなく、あらゆる生活アイテムについて、この地には先スペイン時代から美しくバラエティに富んだデザインの伝統があふれているようでした。
昔ながらの手仕事のデザインの一端を、メキシコシティにある人類学博物館で見ることができました。
△何族のものかわからなかったけど、蓋の取っ手がかわいかった壺。
△ウィチョル族の毛糸絵。毛糸をびっしりと貼ってある。
△同じくウィチョル族のビーズ細工。ヒョウタンをくりぬいた器の内側にビーズをびっしりあしらってある。
△オルメカ文明のセクションで見かけた壺。この時期の手仕事は表情が朗らかで、動物のモチーフが多かったのが特徴的。
△模様と色使いがきれい。オアハカ文明のセクションで見かけた壺。
△びっしりと花模様が刺してある伝統的な刺繍ブラウス。サンアントニーノ村のサポテカ族に受け継がれているデザイン。
博物館にあるアイテムは、現在でも現役のデザインとして活躍しているものが多々あります。花刺繍のブラウスも、今も人気の民藝品ですし(私も何枚も買ってしまいました)、最初の壺のような素焼きの壺は、お世話になったオアハカのおうちのテラスにも置いてありました。蓋がやっぱりとってもかわいかった!
△お世話になったおうちのテラスのテーブルにおいてあった素焼きの壺。蓋のつまみが動物になっていてかわいい。
トウモロコシの実をはずすための「ウッロ」という道具も、市場で初めて見たとき美しい道具だな、と思いました。近くにいた英語を話すアメリカ人とおぼしき方が声をかけてきて「自分は長くこちらに住んでいるけど、この道具は初めて見たんですよ。インテリアの飾りにしようと思って買いました」とおっしゃっていたので(わたしは内心「え、飾り。。」と思いつつ)、この道具はそのお店のおじさんの創作品かと思っていたのですが、後日、人類学博物館の昔ながらの生活道具の展示の中に、ちゃんとありました。
△市場で売られていた「ウッロ」という道具。輪っかの中にトウモロコシの芯をぎゅうぎゅうに詰めてある。この上でトウモロコシをこすると、実を簡単に外せるんだよ、とお店のおじさんがデモンストレーションしてくれました。
■手仕事の現場を訪ねたかった。。
多種多様な民族が共存して、それぞれにすばらしい手仕事をしているこの地で、今回1か所だけ、手仕事の現場を訪ねることができました(といっても観光客向けに特化された場だったようなので、そこで日々制作しているかどうかは謎でしたが)。天然染色と織物がさかんな、テオティトラン・デル・バイエという村にある工房。
テオティトランとは、サポテコ語で「神の地」という意味だそう。
お尋ねした工房では、天然染料でウールをカラフルに染め、それを織ってラグやベッドカバー、ランチョンマットなどをつくっておられました。(かつてはポチョテとよばれる、綿状になる木の花を糸に紡いで織っていたそうですが、今は北のほうの民から羊毛を買って原料にしているそうでした)。
羊の毛を糸につむいで、それを先に染めてから、織っていきます。
染めの材料と、その材料で染まる色のサンプルとを見せていただき、鮮やかな発色にびっくり。
△全部、天然染料によって染めたウールの色。赤系はコチニージャというサボテンにつくカイガラムシで。黒はウイサチェという豆の一種で。オレンジ系はマリーゴールドの花、この花が咲かない季節はウコンで。青系はインディゴで。
△ブラウン系は樹皮(くるみの樹皮)で。スモーキーなグリーンは苔類で、右端のグリーンはざくろの実で染めたもの。
△コチニージャを細かく砕いて染料に。
先スペイン時代の暮らしを描いたディエゴ・リベラの壁画にも、染物をしているシーンがあるのですが、やはり染まっている色はとってもカラフルでした。
色彩の豊かさこそが、メキシコの伝統のようにさえ思えます。そして道具立ても含め、脈々と同じ手法が今に受け継がれていることも、すごい。写真で見てもわかると思いますが、籠や器、すり棒、すり鉢、すべて地元の材料を使った手製です。
本当の意味で自然と共存して持続可能に暮らせるノウハウを受け継いだ人たちが、ちゃんといる。。。この方たちが、ほかの「便利なもの」に流されずに、このやり方を続けていくことを選んでおられること。。。つくづくすごいなと思います。(観光客向けの取り組みも、続けていくための工夫の1つとして自覚的にやってきた歴史がありそうでした)。
自分はここから学ぶことができるだろうかー。。
(それにしても、この豊饒な文化について、うまく言葉にできない自分がもどかしい。。今回ご紹介できたことは、ほんのひとかけらでしかないのです)
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ぐり と グリーンウッドワーク:https://guritogreen.com