黑い電話
「リーン、リーン。」
何度目かもわからない。されど電話は鳴いた。
「ガチャ」
「はい、もしもし」
『もしもし、あと3時間だよ。』
細い声が受話器から漏れた。
何の事でしょう、と惚けることも出来ずに、電話は途切れた。
「リーン、リーン。」
また何か言いたげに、電話は鳴いてみせた。
「ガチャ」
「はい、もしもし」
『もしもし、あと1時間だよ。』
細い声は変わらない。
その細い声は、それしか話すことを許されていないかのようだった。
「リーン、リーン。」
私は出ない。
「リーン、リーン、リーン。」
出たくない、と、言ったほうが正しいだろう。
「リーン、リーン、リーン、リーン。」
私は大きく息を吐いて、受話器を取った。
『時間だよ。』
最期の言葉を聴き取ったその瞬間、、、
目の前の生命の灯火が、消え去った。
誰かもわからぬ、幼い男の子だった。
私の部屋など、見る影も無かった。
こんな何処かも、わからぬ場所で。
このような光景を、幾度となく、あの電話に見せられてきた。
けれど私は、泣かない、泣けない。
あの電話は、きっと死神の様な者の落し物なんだろう。
でも私は、この電話から逃げるつもりなど無い。
私が逃げた所で、別の何処かの誰かもが、私の様な目に遭ってしまうだろう。
それを避ける為ならば、私は喜んで死神になろう。
こんな役目を全うするのは、私で充分な筈だ。
いつか、本物の、「死神」さんに出逢うまで。
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