『CHAOS;HEAD NOAH(カオスヘッドノア)』の感想―面白くも心に大きな爪痕を残したゲームだった
2022年10月に紆余曲折あってようやくPC(Steam)向けに発売されたノベルゲーム『カオスヘッドノア(CHAOS;HEAD NOAH)』は、筆者の心に大きな爪痕を残したゲームでした。実際にプレイしたのは、仕事の忙しさなどから2023年1月でしたが、ノベルゲームで心をここまで動かされるのは初めてで、ノベルゲームが何故ゲームなのかを含めて面白く楽しめたタイトルでもありました。
ノベルゲーム自体の経験は浅く、DMM版『プリンセスコネクトRe:Dive』をウィンドウモードで流し読みしていた時に、「どのような距離感で遊べばいいのか」をこの時に掴んだぐらいです(それまで、どれぐらい画面に集中して遊べばいいのかわからなかったし、コンソールで遊ぶのも高級なコントローラーのボタンの価値と釣り合っていないように思えてもどかしかった)。
他にも、元々2008年のオリジナル版発売時に友人がとても話題にしていたこともあって、「なんだか気になるけれど、後になって完全版がコンソールのみでリリースされていたので手を出しづらい」という状況でした。なお、本稿はレビューに近い内容ですが、プレイしてみて心に大きな爪痕を残した『カオスヘッド』のとりとめのないゲームプレイの感想を書き連ねたものです。よりまとまった本タイトルの個人レビューは別にあります。
『カオスヘッドノア』PC版のオープニングはオリジナル版でなくPS3版だが、クリア後に見てみるとオリジナル版のオープニングも味わい深い。
ホラーノベルゲームとして面白さ
本作のストーリーは、渋谷の古ビル屋上のコンテナに住む西条拓巳(タク)が渋谷で発生する謎の連続猟奇殺人事件「ニュージェネレーションの狂気(通称、ニュージェネ事件)」の現場に遭遇し、事件に巻き込まれていくというもの。
本編をプレイする前に、オリジナル版の体験版を遊んでみたのですが(DMMなどで配布されているところがまだある)、プレイしてみて思ったことはテキストが読みやすく、タク役の吉野裕行さんの演技も合わせて物語の続きがきになるような構成だったのが驚きだったことです。またタクの部屋のみですが、3Dを使ってカメラを動かす演出も合わせてテキストだけが続くスタイルで無かったことも惹かれたことの一つでした。
もちろん、オリジナル版をベースにした体験版と、後にUIを含めた様々なユーザビリティ向上の施策が施された『NOAH』版と大きく違いますが、大体の雰囲気を掴めるため、事前に気分を高めてから本編に挑みました(興味があって買うか買わないかの判断は、体験版で触れてみてからでもいいと思う)。
『カオスヘッド』オリジナル版は2008年4月にリリースされたタイトルであるために、タクの描写をみると今のインターネットやPCシーンで失ってしまったものが結構多いと思えたことも発見の一つです。特にアスキーアート関連はその筆頭で、今のブラウザではほぼ崩れてしまって読むのが難しくなっています。
他にも、2008年当時の携帯電話はゲームも遊べるツールとして進化しつつあるものの、まだまだカジュアルなものだったことから(『怪盗ロワイヤル』が2010年、『デレマス』が始まるのが2011年から)、オタク的な属性を持った人が「自分は必要ない」と突っぱねることも出来た時代でした(これは今でもそうか?そうかも)。またフルブラウザを搭載する端末は料金も別途で限定的なものだったためインターネットとの相性は完璧では無かったんですよね。
加えて、アニメ/漫画などが由来のネットミームも2023年では使わなくなったものが多いため懐かしさも覚えてしまいます(これらを解説するTIPSが今となっては実によい)。タクが使う露伴先生を真似た「だが断る」も、まだ「ジョジョ」がメジャーに成りきれていない時代に多用されていましたね。
ただタクは、傲慢な相手に対しての「だが断る」でなく、優しさを伸ばしてくれる相手に対しての照れ隠しとして使う場合が多いので、良い結果にならないのがもどかしいです。一方でジョースター卿の「逆に考えるんだ」は、原点の意味を捉えていて問題解決の糸口に繋がる対比が面白いと思えました。
タクはオタク的な属性を持っていますが、今見てみるとイキりオタク的な側面と、世間と自分の距離感が掴めないため世界に対して文句を言いつつ、上手く順応出来ないもどかしさを持った、17歳相応の少年として描けているなと思えます。また、タクの内面描写が多いことも良かったです。それは、彼がどう考えているかがプレイヤーにも手に取るようにわかり、彼の心情に寄り添って妄想トリガーを引くことや、ストーリー展開に驚くことなどが自然と出来たからでした。
特に、第1章終盤でこれまで信頼関係を気付いていたものの、ある切っ掛けをもって優愛が豹変する姿は、受け手であるタクの存在をもって動揺し、信頼が恐怖に変化しダイレクトに伝わってくるのが良くできています。そこが、この物語へ一気に引き込まれた瞬間でした。この面白さを引っ張っているのは、やはりタクの内面描写において他ならないでしょう。
ストーリー部分に目を向けると、ニュージェネ事件に関連したタクを追い詰める描写はとても良く出来ています。また、判刑事視点でのニュージェネ事件追跡による事件解説や真相に迫る様はとても面白く、物語が個人だけに寄らない多層的なものであることが同時に理解する快感がたまりません。
第7章で、妹であるた七海の手首が彼の住むコンテナハウスに送り込まれて、恐怖し悲しみ、そして怒る様はこちらまでハラハラしてくるようでした(切断された手首が出てくることは事前に本作を調べた時に知っていたが、こうやって段階を踏まれるとさすがに恐怖する)。そんな恐怖と怒りに震えるタクの心がよく解るために、彼の決断に対してなんだか納得出来てしまったのです。
そのうえで、タクの妹である西条七海の人気は、タクの心情を通じた愛おしさから人気になったのではないかと思えます。何しろ、ちゃんとゲーム内で初めてコミュニケーションする異性は七海であることや、七海への言及は心情描写を含めて多くなる事からも無関係とは言えないでしょう。
妄想トリガーも面白い機能でしたね。ある一定のシーンになると、画面周辺に渋谷の建物のようなシルエットがライフリングのように浮かび上がり、ポジティブ/ネガティブ/妄想しないの3択を選ぶことで小さな変化が起こるというもの。序盤はネガティブでもポジティブでも大きな変化はありませんが、微妙な行動(現象)の変化も起こることに加え、中盤以降は被害妄想的な物へと変化し、タクのメンタルが限界に近づいているのがよく表れているからです。
タクについてはシナリオ全体をみても追い詰められすぎて可哀想な部分が多く、第1章で優愛からああいった形で懐疑の問い詰めを受ければ誰だって心をへし折られます。ただ、後に登場する梨深が上手いんですよね。タクにとって梨深は信頼出来ない相手だけど、その言葉を信じてすがるしかない心細さが、タクを見守るプレイヤーにとっても同じだからです。
各々の悲劇とネタばらしが加わる2周目と個別ルート
1周目のストーリーは第一章で盛り上げたストーリーをちゃんと締めるAエンド(Silent Sky)で終わりです。この次から2周目をプレイ可能となり、そこでは様々な補足シーンが挿入されます。2周目において、1周目の謎やトリックが解決する衝撃は大きい事に加え、全体の9割が説明されるため、常に変化する印象から最後まで楽しく興味を引っ張ってくれました(残りは続編の『らぶchu☆chu』で説明される場合もある)。
2周目でそれぞれ進める個別ルートは悲劇の連続だったのも衝撃的でしたね。こういった別ルートはノベルゲーム問わず最初から解禁されていることが多いのですが、『カオスヘッドノア』の場合は1周終えることで解禁という形です。筆者としては、梨深→七海→Bエンド→セナ→あやせ→梢→優愛の順でプレイしました。
この個別ルートは本編の補足も兼ねていて、梨深編なら初めての出会いの時にあの現場で何が起こっていたのかを語る描写が、七海編なら梨深との出会いが、Bエンドならニュージェネ事件のネタばらし(Switch/Steam版はカットされたバージョンだったため、その部分を確認したら気分を悪くした)が語られます。一方で本編の補足は多く無いものの、セナ編とあやせ編、梢編においては個別ルートで各々の性格が背景が明らかになるというものでした。
印象深かった各ルートの一部を挙げると梨深編は、タクがギガロマニアックスに覚醒しない本編のifルートな内容だと思えます(覚醒フラグを立てられなかったルートというか)。
梨深の過去に触れる場面で、ギガロマニアックス覚醒のために野呂瀬によって背中に傷を付けられて化膿する描写が痛く痒そうなのが心に来ます。また、梨深はタクを助けるため、野呂瀬に単身戦いを挑む無鉄砲さも明らかになるのも印象深かったですね。他のキャラと絆を深めないことで進んでしまう悲劇的な内容でもあると思いました。
セナ編は物語の背景に関わるネタばらしが中心ですが、その一方でセナとの接触にはしゃいじゃうタクが色々と楽しくも熱気がある物語でしたね(最終的には力尽きちゃうけど物語的にちゃんと締めていた)。
ただ、本編個別ルート/LCC共にタク自身はセナとの触れあいに はしゃぐ場面が多く真面目に取り組まないことも多いので、「タクとセナの組み合わせは良いな」と思う気持ちもありますが、相性的にはあんまり良くないと思えてしまいます。というのも、タクとセナが唯一心を重ねて行動出来たのはディソードの力を解放する瞬間だけでしたから。筆者としてはセナ推しですが、タクと絡んで面白い物語が生まれるかといえば難しそうな想像しかできないのが辛いですね。
こずぴぃ編は辛いの一言です。余りにも悪意と悲しみと怒りに溢れていて、しんどいものがありました。強烈に心を動かされたせいで涙を流してしまったのはこのシナリオぐらいです。こずぴぃは、タクが唯一気軽に心を通わせられる友達としての側面を持っている故に、ディソードの力と裏に潜む陰謀に振り回されて暴走し、登場するキャラ全てを文字通りなぎ倒していくのは悲しいものがありました。
あまりにも悲劇的な衝撃が強すぎるシナリオだったので、『プリンセスコネクト!Re:Dive』にて辻あゆみさんが演じる、容姿も梢に似た「モニカ」のキャラストを一気に全部読んで平静を保とうとしてしまったのは内緒です(こずぴぃのCVは辻あゆみさん)。
最後は優愛編です。ここで彼女の真実が明らかになるのですが、若干後付け感がありつつも納得出来る構成なのが面白かったですね(本編で匂わせがある)。その物語の中で、タク自身が優愛の歪みに気づき指摘することで真実が判明するシーンは見事でした。しかも、最後のノアIIによるサードメルト後に高層ビルから身を投げ出そうとする様を止めるのは素晴らしかったですね。
これら全ての因果が集うAAエンド(Blue Sky)は、決戦の流れ自体は一緒ですが2周目以降の事柄を全て集約した問答が感動的で、タク自身を肯定してあげられることがとても良かったですね。ただ、ここまでやるなら決戦の流れも大幅に変えて欲しかったのも否めません。
タクのネットミームの裏に隠れる様々な引用
『カオスヘッド』はタクがオタクであることを意識して、様々なネットミームやアニメ/漫画ネタをセリフや内面描写として引用していますが、そんなタクの言葉の影に隠れて、しっかりとした引用が行われる場合も多く存在します。こういったゲームや映画からの引用は、タクがネットミームなどを駆使することで結果的に隠されてしまっているのです。
筆者としては、あまり気づけた部分が多くありませんでしたが、最終決戦において「祈る」シーンを見て思ったのが『MOTHER2』的なエッセンスが盛り込まれている印象を受けたことです。
野呂瀬とノアIIの存在はポーキーとギーグの関係そのままに近いような印象を受けますし、タクを知る6人の少女達の祈りが通じるのシーンも、ポーラの祈りのよう。これまでの信頼と絆を培った多くの人に通じたうえで発動することからも、無意識なのか意図的なのか思ってしまうところもあります。
他にもBエンド(crying sky)の結末は「未来世紀ブラジル」を彷彿とさせるものでしたね。最後に心が壊れてしまい妄想(夢)の世界に逃げ込むだけしかないという…。
『カオスヘッド』の物語はしんどいけれど面白いよ!
ざっと『カオスヘッドノア』の感想を出してみましたが、かなり色々出てきて驚きました。『カオヘヘッドノア』PC(Steam)移植版からの科学アドベンチャーファンとなったため、かなりの後発組となりましたが、こうしてプレイ出来たことが嬉しく思えます。こうして全ルートをプレイし終えた後は、悪夢が終わったような感覚です。振り返ってみても、ハードな展開とちゃんと終わらせる上手さから、2023年における一番のゲームとなるほど心に深く爪痕を残した作品でした。
ただ、突如言及される空や、AAエンドにおいて梨深が語る殺せない理由など、00年代的なノリで語られるエッセンスなどが気になりますが、古い作品であるが故に致し方ないことです。ですが、全てのエンドを読んでタイトル画面が変わった時に、1つの物語が綺麗に完結を迎えたと思えたのが良かったですね。
細かな不満点としては、補足シーンがどこに挿入されたかを知れるタイムラインは導入して欲しかったですね。チャプター機能があるのは良いのですが、時系列が物語に関わっているのもあって全体を俯瞰出来ないからです。
小説とは全く異なるノベルゲーム(アドベンチャーゲーム)の面白さというのを本作でたっぷりと味わうことが出来たのは嬉しかったです。タクと共に、悪夢のように追い詰められる恐怖を味わいながら次の展開を期待して読み進めるのは、とても心労が溜まるものであったものの、終わってみるととても面白かったと思える出来栄えでした。キャラデザやストーリー、評判などから少しでも興味を持ったのなら遊んでみるのをオススメします。
あまりの衝撃と面白さから、ファンディスクである『CHAOS;HEAD らぶChu☆Chu!』のXbox 360版を購入して、本編後に少しのインターバルを置いてからプレイしました。しかし、そこで待ち受けていたのは本編におけるタク自身の物語(問題)が全く終わっていなかった事に気付きます。それについては後に語りましょう。
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