桃源郷を求めた若者~①
その若者は、歳は21歳。
自分では世間を知ったつもりの生意気な若者であった。
その若者は、5年付き合っていた交際相手に別れを告げられていた。
お互いが若く、相手側もほかに目がいってしまう年ごろだ。
かつ、モノ作りが好きな若者は大工の見習いであり、お小遣いにも満たない程度の給料しかなく、デート代もままならない。
全く頼りない男であったため、それは来るべきしてきたタイミングでもあったのだろう。
その若者は、ショックの反動もあって押し殺していた浪漫を爆発させたくなった。
心酔していた「サーフィン」のみに生きたくなったのである。
振られてしまった彼女と交際中も、頭の中はまだ波をうまくキャッチできないながらも良い波からのテイクオフの感覚ばかりを追いかけていた、まさに波乗り中毒者。すでに末期症状なのであった。
彼の住みかは山に囲まれている海なし県であり、中毒者の快楽を満たしてくれる海までは、車で3時間はかかる。
週に3~4日、その海まで向かう時間は苦ではなかったが、1日かけて波乗りできる時間はせいぜい2時間程度。
『時間がたらない。もっとサーフィンをうまくなりたい』
Rob Machadに近づきたい。というよりRob Machadなりたいのである。
それらすべてのタイミングがかみあって、彼は海の近くへ移住してしまおうと決意する。
コネもない世間知らずなその若者は、襟がよれたクイックシルバーのTシャツを着て山に囲まれた地元のハローワークへ向かう。そして恥ずかしげもなく窓口で言うのである。
「沖縄で大工の求人はありますか?」
窓口の中年男が鼻で笑う反応を見ても、その若者はまったく臆さない。
なぜなら、世間知らずであり波乗り中毒者だからである。
~つづく・・・?~