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【対話的読書】ミンツバーグの組織論 Session6

大きなくくりで分類することが完璧な方法だと言うつもりはないが、このアプローチには利点がある。複雑な状況を単純化できるし、ものごとを整理したいという私たちの欲求にも応えることができる。そして、組織について素早く容易に理解することが可能になる。

ものごとを明確にし、それを理解し、問題の原因を診断して解決するための処方箋を見い出すには、大きなくくりが不可欠である。しかし、限界もある。大きなくくりで考えるだけでなく、細かく切り分ける発想も取り入れて、分類に修正を加える必要がある。組織を形づくるさまざまな力が現実の組織に及ぼす影響も見落としてはならないのだ。

暴走を防ぐ「錨」の役割

どの組織形態もみずからの破滅を招く種子を宿していることを考えると、主たる力とは別の力が存在して、その力がいわば「錨(いかり)」の役割を果たして暴走を防げるほうが、純粋型よりも好ましい。

「エクセレント」の落とし穴

・パーソナル型組織
想像力旺盛なリーダーと、高い創造性をもつ計画・財務スタッフがマネジメントを担い、強い成長志向をいだいていて、起業家精神に富んでいる建設型組織は、冒険への道を進むことにより、直情的で強欲な帝国主義型組織に変貌し、よく知りもしないビジネスに乗り出して大混乱を生み出し、リソースに過度な負担をかけるようになる。

・プログラム型組織
比類なきマーケティング能力と、知名度抜群のブランド、そして巨大な市場を擁するセールス部員型組織は、切り離しへの道を進むことにより、目的意識を欠いた官僚主義的な漂流者型組織に変わり果て、セールスを崇拝する結果としてデザインがおろそかになり、退屈で一貫性のない「どこにでもあるような商品」を続々と送り出すようになる。

・プロフェッショナル型組織
高い技能をもったエンジニアと緻密なオペレーションを特徴とし、几帳面に品質を大切にする職人型組織は、集中への道を進むことにより、融通が効かず、細かいことに偏執的こだわる専門バカ型組織になり、視野の狭いテクノクラート的な文化の下で、完ぺきではあるけど求められていない商品を送り出し、顧客の離反を招いてしまう。

・プロジェクト型組織
傑出した研究開発部門と、柔軟性のあるシンクタンク機能、そして最先端の製品を誇るパイオニア型組織は、発明への道を進むことにより、地に足のつかない理想に走る現実逃避型組織に変わり、混沌を好むカルト教団的な支配の下で、救いようがないくらい突飛な未来志向の大発明を目指して、資源を無駄にしてしまう。

「汚染」の危険と「封じ込め」の効用

組織内で不適合が生じやすいことは、純粋型の組織の大きな弱点と言える。この問題は、組織を機能不全に陥れかねない。その組織において支配的な力が、それ以外の力を「誤り」と位置づけ、排除してしまうのである。
ひとつの力による「汚染」は、純粋型の組織になんらかの破滅の種子を植え付けかねない。そこで、ほかの力がその力を「封じ込め」る必要がある。他の力が「錨」の役割を果たして組織をつなぎとめ、暴走することを防がなくてはならない。また、文化と対立も「錨」の役割を果たせる場合がある。

ハイブリッド型の素晴らしい世界

組織が有効に機能するためには、複数の力が共存しなくてはならない場合もある。そのような組織では、どの力が優勢かがころころ変わることもあるだろう。それでも、全体としてみれば、それらの力の間で動的なバランスが取れていなくてはならない。言ってみれば、複数の力がぶつかり合う境界線上で活動することが求められる。複数の組織形態のハイブリッド型である必要があるのだ。ハイブリッド型の組織は、大きく2つのタイプにわけることができる。ひとつはブレンド型。組織全体で複数の組織形態の性格が混ざり合っているパターンだ。そしてもうひとつは、寄せ集め型。組織内のさまざまな部門や部署が異なる組織形態を採用しているパターンである。

・ブレンド型のハイブリッド
よく見られるハイブリッドのパターンは、個人のリーダーシップと、ほかの強力な要素がブレンドされたものだ。原子力発電所や警察など、安全を守るために高度な信頼が求められる組織では、専門職がしっかりした訓練に裏打ちされた専門性を発揮することと、機械のように厳格なルールを浸透させることがブレンドされる必要がある。

・寄せ集め型のハイブリッド
部署や部門によって異なる組織形態が採用されている、いわば内部で「分化」が見られるパターンのハイブリッドも多い。例えば、大手銀行であれば、大衆向けのリテール部門ではプログラム型の組織を、投資銀行部門では個々の顧客のニーズに応えるためのプロジェクト型の組織を築いているケースが多い。

・協力、競争、そして「裂け目」
ハイブリッド型の組織では、純粋型の組織と異なり、「汚染」が起こらない。さまざまな力が互いに歯止めを掛け合うからだ。しかし、その代わりに、ハイブリッド型の組織には裂け目が生じる。異なる力が接する境界の断層線上で対立が生まれるのだ。別々の方向を向いているプレイヤーたちが、競争への志向を克服して、協力し合う必要があるのだ。「汚染」と「裂け目」についての議論から導き出せる重要な結論は、組織がどの程度有効に機能できるかは、どれくらい矛盾をマネジメントできるかにかかっているということだ。異なる力が競い合うことによって対立が生じている場合は、そこから目をそらすのではなく、その状況をしっかり見据えて、対立を緩和しなくてはならない。その際、直接関わる人たちの相互の調整いにょって対立を和らげることができれば理想的だ。

組織のライフサイクルと組織形態の変遷

たいていの組織はときおり、ほかのいずれかの組織形態へ、あるいはハイブリッド型の形態への転換を経験する。組織の置かれた状況が原因でそうするほかないケースもあれば、主体的にそれを選択するケースもあるし、それを強制されるケースもある。

組織構造のライフサイクルモデル

■誕生 ーパーソナル型組織としてのスタートアップ時代
たいていの組織は、最初はパーソナル型組織として設立される。当初は強力なリーダーを必要とする。

■青春 ーパーソナル型組織の性格を部分的に維持する
個人によるリーダーシップ、すなわちパーソナル型組織の性格は、創設者の下で組織が成長していく間、少なくとも部分的に維持される場合がある。

■成熟 ー自然な構造に落ち着く
ほとんどの組織は、成熟するにつれて、その組織を取り巻く環境に最も自然に適応する形態に落ち着く。大半の組織は、成熟するにつれて大きな方向転換を遂げ、パーソナル型組織から脱却する。まずハイブリッド型の形態を経てから、ほかの形態へ移行する場合もある。

■中年 ー突然訪れる転換
転換は突然訪れる場合もある。転換が影響力をもつ勢力によって推し進められたり、環境の変化によって突き動かされたりもする。例えば、「多角化による事業部型組織への転換」や「自動化、もしくはアウトソーシングにより官僚組織をアドホクラシー(プロジェクト型)へ転換する」、「イノベーション志向のアドホクラシーから、プロフェッショナルなメリトクラシーへ転換する」、「官僚組織への転換を強いられる」などである。

■老い ー生き残りのための刷新
どのような組織も、いずれ想定外の事態に見舞われることを覚悟しておかなくてはならない。どんなに安定していて強固な組織構造をもっている組織にも言えることだ。どうやって組織を変革すべきかについては膨大な数の著作が発表されている。その多くは、停滞しているプログラム型組織をどのように刷新するか論じたものだ。例えば、「職務拡大を通じて、働き手の能力を向上させる」ことや「チームワークを通じて、イノベーションを後押しする」こと、「個人のリーダーシップによる立て直し(一時的なパーソナル型組織への転換)」などがある。
このような立て直しには、3つの種類がある。実務レベルでの転換、戦略レベルでの転換、文化レベルでの転換、である。

■死  ー自然死と政治的な死
破綻しつつある組織の立て直しに成功する例は、不死鳥さながらに伝説の世界の話なのかもしれない。人間だけでなく、組織も老いて衰えていく。歴史を重ねるにつれて、部署と部署の結合部の柔軟性が失われたり、さまざまな回路が阻害されたり、構成要素が変質したりし始める。このような組織が内向きになり、閉鎖的なシステムを採用して自己防衛に走れば、一部の利害関係者の利益は差し当たり守られるかもしれないが、社会全体にとっては好ましい結果をもたらさない。健全な社会を維持するためには、フレッシュな組織がひっきりなしに生まれて、疲弊した古い組織に取って変わらなくてはならない。私たちが関心を払うべきなのは、個々の組織を刷新することではなく、さまざまな組織によって構成される社会を刷新することなのだ。


【第6部からの学び】

読みながら、今まで自身が経験し、見聞きしてきたさまざまな組織を思い起こしながら、当てはめ、振り返りながら読み進めた。気づきとしては2点。
ひとつは、さまざまな変数にさらされながら変質していく「組織」という生命体を、いかに矛盾を飲み込みながらマネジメントするか、がマネジャーの役割でもあるのだろう、ということ。成果を出すだけでなく、組織を育て、維持することはどういうことかを学んだ。
もうひとつは、最後の部分。
書くかどうか迷ったが、組織の「老い」と「死」について。社会の構成員として考えれば、しごく真っ当な視点だが、いち組織に所属し、そこで育ち、そこで生活をしていることを考えると、受け入れがたい感情があったのも事実だ。

▶ 第7部 7つの類型を超えて に続く


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