俺にもあったはず...『がむしゃらのブルース』
吐いた言葉を自分に突きつけ、
追い込むように走り続けてきた。
垢抜けた空は、俺への退職祝いだろうか?
光陰矢のごとし。
昨日で会社員生活は終わった。
がむしゃらに走ってきた分、
あっという間の時間は、
思い出の引き出しも少ない。
今日くらいゆっくりとお昼まで寝ているんだろうなと思っていたが、
朝から玄関を開けてしまう。
まばゆい日差しは、
今日から何をしていいのだろう?という
俺の気持ちとは裏腹だ。
会社のために、
家族のために、
必死で駆け抜けたこの道は
一体どこにつながっているのだろう。
おもえば人生そこそこだった。
ごくごく平凡な人生と言ってよい。
裕福ではないが貧乏でもなく、
人に迷惑をかけることもあまりなく、
たまに行ける旅行が趣味といえる程度。
それも子供たちが大きくなってからは、
だんだんと足が遠のいていった。
人生100年時代に突入したというが、
ひとえに喜んでばかりはいられない。
現にこうして立ち尽くしているのだから。
行き場のない心と会話をしていると、
遠くから子供たちのにぎやかな声が聞こえてくる。
その声はだんだんと大きくなり、
目の前をぶかぶかのランドセルを背負った
子供たちが歩いて行く。
そうか、登校の時間か。
そういえばうちの子たちにも
こんなキラキラしてかわいい時期があったんだよな。
こいつらのためならどんなことでもできる。
誰が相手でも戦ってやる。
世界中が敵にまわっても。
なんて、
物語の主人公になった気でいたっけな。
大人になるにつれ、
できることが増えていって、
責任感が増していった彼らに対して、
俺はまだ同じ気持ちだといえるのか?
いや、待てよ。
俺にもあったはずだ。
なにも考えず、
がむしゃらにその日を生き、
キラキラと輝くこの道が、
永遠に続くことを信じてた。
公園でサッカーボールを追いかけた日々。
ギターを抱きしめたまま眠った夜。
心臓が飛び出そうだったプロポーズをしたあの日。
君がはじめてこの世で泣き叫んだ日。
やっと手に入れたマイホームのあの匂い。
そんな日々を思い出すことができる。
だから、
まだ持っているはずだ。
彼らにとっては永遠に父親であり、
俺にとっては永遠に最愛の子供たち。
ただ単に俺はまたスタートラインに
立っただけじゃないか。
これから何をしたいかなんて
ゆっくり考えればいいさ。
思いついたことを
とりあえずやってみるだけじゃないか。
どんな苦しみが降ってきても、
どんな非情が立ちはだかっても、
俺は俺にしかなれない。
ときには力づくで
心の中に自分らしい花を咲かせるだけだ。
のたうちまわるほどに自分らしさを
誇りに思える自分でいたい。
たった一人の、
たった一度の人生だから、
俺の存在を誰かに見せつけたい。
まばゆい日差しと
柔らかな風は、
やっぱり
俺の門出を祝ってくれているのだろう。