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本当にやりたいことはどこにある?『sixteen』



街の外れにある河原に面した公園。
人目につかない日陰を選んで腰を下ろす。
ポケットからくしゃくしゃになったタバコを取り出し、
空に向かって煙を吐き出す。

人目につかないところを選んだのは、
見つかって停学や退学になることが怖いんじゃない。

つまんないことをいちいちうるさく言う大人とはしゃべるのも面倒だし、
誰かに何かを話したところで、
俺の思いを分かってくれる人がいるとは思えないからだ。

まあ、俺自身もうまく言葉にできないからこうしてるんだけど。

高校生になれば幾ばくかの自由を得られると思っていた。
もちろん中学生のときよりは自由だ。

金を持って登校していいということは、
帰りは自由に遊んで帰っていいわけだ。
義務教育から外れたということは、
遅刻も早退も、行くも行かぬも自分の判断。

部活に青春をかけることも選べれば、
いい大学目指して勉強に励むことも選べる。
仲間とつるむことも選べれば、
ひとりを選択することもできる。

でも結局俺は、どれでもない。
何かを選んだわけでも、
自由になれたわけでもない。

きらめく水面に石を投げ込みたくなったが、
それすら面倒くさい。

そう。
きっとこーゆーことなんだ。

頭で何かしたらおもしろいかもと思っても、
行動におこすことはめんどくさい。

実際石を投げてみれば、
もっとあっちを狙ったのにとか、
思ったより遠くに飛んだぜとか、
楽しめることはあるはずだ。
でもきっとすぐ飽きる。
誰かと何かをしゃべっているときも、
誰かと何かで遊んでいても、
いつもどこかで距離を感じてしまう。

楽しく感じたはずなのに。

俺だって昔からこうだったわけじゃない。
部活に打ち込もうと思っていた。
サッカーに情熱を注ぐはずだった。

でもさ、思ってたのと全然違ったんだよ。
3割は言い訳だってこともわかってるけどさ、
ボールに触らせてもらえないんじゃ、
何部だかわかんねぇっての。

もちろん一年のうちは我慢しろってのもそうかもしれない。
特に俺の場合だと、うちの中学はなぜかサッカー部自体がなかったから、
正真正銘の初心者。
そんなやつがグラウンドうろちょろしてたら邪魔だろうけど、
だからって学校のまわりを走ってるだけってんなら、
最初から陸上部に入ってやるさ。
県大会ベスト4目指してるからって、
あからさまに鬱陶しい顔してんじゃねーよ。

退部届を出した昨日、
部屋に貼ってあった憧れのサッカー選手のポスターを剥がした。


ビリビリと破れる音に涙は出なかったが、
同時に、
夢と希望の破れる音も聞こえた気がした。

たまらなくなった俺は深夜0時にも関わらず、
この公園にやってきた。
川に向かってサッカーボールを蹴った。

サッカーボールはどこに流れていくだろう?
俺の心は何に委ねるべきなのか?

どうせだったら知らない街まで、
果ては海までたどり着いてほしい。

誰も俺のことを知らない街に、
大きくて広い世界に俺も行きたい。

今日の昼休み、
弁当を食いながら友達に

「俺、学校やめよっかな」
冗談まじりに言ってみた。

頭のいいそいつは、
高校やめたら食ってけねーぞって、
至極真っ当なことを返した。

もちろんそうだと思うよ。
うん、俺もそう思う。

だけどさ、すっきりしないんだ。

弁当箱を片付けて、
俺は学校をあとにした。

家でゴロゴロしようかと帰ってみたら、
リビングのテーブルに親父が忘れていった
煙草とライターが目に入った。

なんとなく手にとって、
なんとなくまたこの公園に来てしまった。

はじめて吸った煙草は
意味がわからないくらい不味かった。

あまりの不味さにすぐに火を消した。

でも、
またすぐもう一本に火をつける。

ちょっとだけ大人になれた気がした。

吐き出した煙はすぐに消えて無くなる。
簡単に消えてなくなれるのなら、
どんなに楽か。

昨日蹴ったサッカーボールと、
俺の心のモヤモヤは、
まだしばらく消えることはないだろう。

こんなことやっていても、
何も始まらないことはわかってる。

俺にはまだやりたいことなんか見つからない。

だけど、学校に行ったからってどうなんだ。
常識と平均値というモラルの型にはめられてるだけの気もする。

先生や大人たちは誰もみな、
自由の意味を話さない。
いや、むしろ誰ひとり自由の意味を知らない。


あれから一年が過ぎ、
俺は17歳になった。

毎日ギターをかき鳴らしてる。

俺は人よりも不器用な人間だから、
思い立ったらひとつのことしかできない。

誰よりもギターが上手くなりたい。

だから学校も辞めた。

夢よりも現実を見つめろって
死ぬほど言われ続けた。

それでも俺は外に出て、
自分の目で自由ってものがなんなのか、
確かめにいくよ。

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