こんな俺たちは悪い子でしょうか?『under the U.K』
ロマンチックが嫌いだから優しくできないんだ。
小さな街に似つかわしい、小さな国道沿いのタバコ屋の親父はシャッターを洗っていた。
左の足元にはアルミ製のボコボコのバケツ、右手にたわしを持ち、ゴシゴシこすっていた。
その顔はしかめっ面で、何度も舌打ちをしている。
昨晩、ここで大きな事故があった。
結果、3人の若者が命を失った。
酒飲み運転をしていた若者たちは、ハンドル操作を誤り、8トントラックに激突した。
シートベルトをしていなかった若者たちは、その衝撃で全員が外にはじき出され、即死だった。
タバコ屋の親父はシャッターに飛んだ血を、よそ様に迷惑かけるんじゃねーよとばかりに、洗っていた。
「タクヤたち、遅せーな」
「まぁ、そのうち来んだろ」
「ヒロにも連絡きてねーのかよ?」
「来てねーよ。先に入ってべ」
俺たちはこの街にある『U.K』という小さくて年季の入ったライブハウスで待ち合わせをしていた。
今日は練習ではなく、他の仲の良いバンドのライブに遊びに来ていた。
結局、何の連絡もないままライブは終わった。
「おねーちゃん、ヒマしてんならオレらと遊ばねー?」
一杯ひっかけた酒が調子に乗らせているのか、俺は道を挟んだ向かい側の娼婦をからかっていた。
何も聞こえなかったかのように、女は下を向いたままケータイをいじっている。
「どうする、ツヨシ?どこ行くよ?」
ライブハウスを出てどこともなく歩いていると、ケータイが鳴った。
着信画面にはマコトと表示されている。
俺はいつも通り
「はいはーい。もしもーし。」と
おちゃらけて、通話ボタンを押した。
「おい、ヒロ。お前どこいんだよ!?」
「どこって?決まってんだろ。U.Kだよ」
「タクヤとシュンとミキオが...」
そう言って、マコトは黙り込む。
「タクヤとシュンとミキオがどうしたって?」
何が言いたいかわからないマコトにイライラして聞き返した。
「...死んだ...」
こんな俺たちは悪い子でしょうか?
見上げた澄み切った夜空には、一筋の流れる星
を確かに見たんだけど。
翌朝、俺たちはU.Kの前に集まった。
誰も眠れなかったのだろう。
腫れぼったい顔で、涙を浮かべている。
昨夜はそのままマコトの家で夜を明かした。
誰も何もしゃべらずに。
日の出とともに、俺とツヨシはマコトの家を出て、シャワーを浴びに帰った。
喪服なんて持っていないから、黒いスエットに着替えてすぐまた家を出た。
花屋が開くのを待って、三人それぞれ花束を買い、コンビニで酒とタバコとプリンを買い込んだ。
薄汚れたタバコ屋に向かって歩いているとき、どこからか「ビールとプリンの組み合わせって最高じゃね⁉︎」っておどけた声が聞こえてきた。
ビールとプリンの相性がいいなんて、こいつとは一生分かり合えねーなーなんて思っていたけど、本当にわからないまま、いなくなっちまうのかよ。
本当はもっともっと頭の中には浮かんでいた。
あいつらの笑っている顔、
喧嘩している顔、
大真面目に夢を語っている顔、
バイトで人生の厳しさと現実を知って打ちひしがれている顔。
それぞれがそれぞれの思いを心に一つ一つ刻み込んでいた。
外に出してしまったら壊れてしまいそうで、誰も言葉にはできなかった。
ハタから見れば、俺ら3人を含めてバカでどうしようもない、ただの不良なのだろう。
未成年のくせに酒を飲み、タバコを吸い、喧嘩をする。
挙句の果てには、酔っぱらい運転で事故って死んじまう。
ただ思うんだよ。
自分の言いたいことも言えずに、自分を押し殺し続け、やりたいことを諦めた大人にはなりたくない。
きれいなふりをしている大人にはなりたくない。
そんなロマンチックはいらない。
これ以上ない悲しい出来事があっても、半年もすればまた元の生活に戻ってしまう。
喧嘩と女に明け暮れるスリルな街にまた戻った。
いや、スリルな街を求めてしまう。
今はまだスリルを味わうことでしか、生きている実感が湧かないんだ。
こんな俺たちは悪い子でしょうか?
誰も悪くない。
俺も悪くない。
ただ、少し臆病なだけさ。
大した理由もなく殴り倒した相手の顔が、死んだあいつに見えた。
その場にうずくまった俺は、溢れ出る涙が止まらない。
そう、ロマンチックが嫌いだから。
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