行動力のあるバカが無駄に動き回ってカメラマンを目指す話 その1
「活動的な馬鹿ほど恐ろしい者はいない」とゲーテは言ったらしい。
ネットのライフハックなどでは、災厄扱いされている存在、
自分は行動力だけがある、生まれつきの「バカ」だった。
「バカ」が無駄に動き回っていると、カメラマンになってしまった話だ。
このnote内に表示されている写真は当時、実際に撮影したものだ。
この写真を、他人に見られるのは、かなりの屈辱だが、
より、この「バカ」の下手さが皆さまに伝わるだろう。
1.始まりは「軽率」に
今から20年以上も前の時代。
僕は21歳になっていた。
大学を中退し、ギャンブルとゲームに身をやつし、
ウツロな人生を過ごしていた。
ある日、バカの頭の中に、まったく何の脈絡もなく、
「あ、写真でも撮ろうかな」などという考えが浮かぶ。
残念なことに、本当に何のきっかけも、エピソードもない。
「ふと」とか「なんとなく」とか、「軽率にも」か「無思慮に」としか表現できない。
全くの無から、何かが生まれた。
これまで写真には一切、興味はなかった。
人生の中で、撮ることにも見ることにも少しも関わっていない。
カメラマンの名前だって一人も知らない。
写真とその周辺の事物には、縁もゆかりもなかった。
なぜカメラマンだったのか、
今でもわからない。
啓示とか電波のせいだと考えたほうが、理解できるかもしれない。
この思いつきには、
何の意味があるのか、
時間の無駄ではないのか、
自分の人生設計はどうするのか、
果たして可能なのかとか、
そういうことは考えたりはしない。
すぐに動き始めてしまう。
その結果、不可能な状況を突破することもある。
必要以上の大怪我を負うことも多々ある。
そんなバカが、理由不明のまま、カメラマンを目指すことになる。
2.Don't Think, Move!
まずは写真について、調べなければいけない。
ざっくりしすぎて、どこから手をつけたらよいのか不明だが、
行き先は、図書館。
しかし、小中学生向けの、写真の入門書しか見当たらない。
その一冊を借りて帰る。
本の選択にもバカらしい味わいがある。
他にも探せ、としか思えない。
インターネットなどはまだ無い時代。
身近で、写真を教えてくれる人物もいない。
学校や講座に通うお金も無いし、
バカは、他人から物を教わることはできない。
本能的に、独学で写真を学ぶ道を選ぶ。
大学での勉強には、全く身が入らなかったのに、
写真について学ぶことは、面白くて仕方がなかった。
写真への興味が募ってしまい、次の行動をおこす。
友人に無理やりお金を借り、贅沢にも一眼レフを購入する。
ミノルタのαという一眼レフカメラとズームレンズのセットだった。
中古とはいえ10万円は軽く超えた。
3.才能と現実の間に
すぐに最初の撮影に臨む。
バカは待てない。
場所は人気のない、真夜中の交差点。
「無人の街の夜景」
イメージだけは一人前だが、
初撮影に選ぶテーマではない。
出来上がった写真については、言うまでもない。
普通のおばちゃんが適当に撮ったほうが、まだましだった。
戒めに、今でも写真は取ってある。
しかし、バカの眼は節穴でもあった。
散々な出来にも気づかず、めげもせず、
次の撮影に向かう。
次は「川に写る夜景」
カメラと三脚をかついで、真夜中の河原に降りる。
暗い中、撮影場所を探す。
なぜ、2回続けて夜景だったのだろうか。
理由は特になかったはずで、バカだからとしか言えない。
そもそも夜景には、それなりの撮影法がある。
その知識がなければ撮れるものではない。
まるっきり何も考えずに行動していた。
写真の出来の悪さは前回以上だった。
にもかかわらず、全く萎えない。
次から次へと、無駄にテーマを考える。
そのテーマに沿って、支離滅裂な写真を撮る。
飽きずに繰り返す。
その一方で、写真集を読み続けていた。
しかし、どれだけ素晴らしい作品を鑑賞しても、
何の役にも立たなかった。
このバカは、昨日今日、写真に関わり始めたにすぎない。
要点を理解するには、基礎とか素養が必要だ。
幼稚園児が広辞苑を読むようなものだろう。
これでは猿真似すらできない。
ひたすら無駄に動き回る。
「行動力のあるバカ」たる所以だ。
まともに読んだ解説書は、最初の良い子向けの1冊のみ。
早々に学習段階を卒業したつもりになり、
根拠もない自信をつけていた。
続いては、実践の場を広げることを試みる。
3.素人カメラマン、社会派を気取る
まずは郊外の観光地で、風景写真を撮る。
何も達成しないまま、
大阪中心部の繁華街に進出する。
よりによって、あいりん地区や新世界でのストリートスナップにも手を出す。
素人カメラマンが軽い気持ちで撮影してよい場所ではない。
撮影される場所や、人に対しての、配慮が一切なかった。
バカだからでは許されない。
そうまでして撮影した、その出来栄えには目も当てられない。
今見ても、のたうち回ってしまう。
自分がこんな写真を撮ったという事実に耐えられない。
本当にどうしようもない。
2年間、地道にゴミのような写真を量産した。
普通は下手さに気づいて絶望するだろう。
どれだけ撮影を経験しても、全く上達の兆しが見当たらない。
しかし、バカの眼は腐っていた。