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悪あがきに愛を込めて







去年の10月、櫻井敦司さんが突然、何の予告もなく何処かへと消えてしまってから1年─。



2023年12月29日、中止となったBUCK-TICK日本武道館公演「THE DAY IN QUESTION 2023」を急遽、1989年12月29日東京ドーム公演以来のタイトル「バクチク現象-2023-」と銘打ち、ボーカリスト櫻井敦司との「5人のBUCK-TICK」を出来うる限り再現して魅せた。そして2024年、どう抗っても補えないセンターピースを空けたまま突き進む事を選んだ4人が、新しい音源としてレコーディングし12月にリリースするのがニューアルバム「スブロサ SUBROSA」。



これは、ファンの贔屓目とかおべっかの入り混じったアルバムの紹介や感想文なんかじゃなくて、メンバーもファンも様々な忘れ得ぬ想いを引き摺ったまま「バクチク現象」で別れを告げる形を取った強がりも哀しみも一即多、残った4人が今出来うる限りの全てを駆使して形にするしかなかった事が窺える「突貫工事的」ニューアルバム「スブロサ SUBROSA」と「欠けた4人のBUCK-TICK」への想いを文字にしていきます。




「足掻く(あがく)」には、次のような意味があります。

●手足を振り動かして激しく抵抗する、もがく、じたばたする

●活路を見いだそうとして必死になって努力する、あくせくする




長年、ステージを牽引してきたバンドの顔とも言えるボーカリストを突然失った時、バンドの取る選択肢は2つ。解散か継続か。


海外のバンドならメンバーチェンジは日常茶飯事だし、何代目のボーカリストなんてのも全然珍しくもないが、こと日本のバンドシーンではフロントマンであるボーカリストの脱退、或いは失ったバンドがそのままのメンバーで活動を継続するというケースはとても稀で、ほとんどは解散、活動休止を余儀無くされている。

残りのメンバーで新たにボーカリストを加入させ再始動してもニーズが無ければ活動休止だし、やむを得ず自然消滅のような形に追い込まれる場合も。解散公演として区切りをつけられたバンドはまだ幸せなほうで、各メンバーが別ユニットやソロに移行、たまに集まって不定期な活動をする小手先もあったりするが、それも解散とほぼ同義。

どうも日本人てのはバンドサウンドよりも「歌」として聴く人が多いらしくリードボーカルである「歌手」が変われば別の物と認識して、バンドというアンサンブルを単体として聴く人が少ないらしい。



解散か継続か。継続を選択した場合、新しいボーカリストを加入させるか、残ったメンバーで続けるか─。BUCK-TICKは後者を選びました。




正直に言うと、あの公式からの「大切なお知らせ」で、BUCK-TICKはもう終わったと思った。だって、櫻井さん無しで何するの?と。

でももし、あの「大切なお知らせ」と同時に解散の報告をされてたら?と考えてみる。有り得ないけど、そんなのファンはたまったもんじゃないし、これっきり全部終わりなんて選択をする訳がないのは、ファンの誰もが分かり切っていた事だろう。
だからといって武道館の「バクチク現象」方式で、これからも過去の櫻井さんの映像と歌唱音源に合わせて演奏する形で活動を再開してたら?それは継続するバンドとしてツアーを組めるような内容ではないと思う。なぜなら、誰もが連想する事が出来る「前例」として既に『hide with Spread Beaver』があるからだ。スクリーンに映るhideの映像と歌声に合わせてメンバーが演奏する形式。たまになら在りし日を偲ぶ同窓会的なイベントとして全然アリだけど、継続的なバンド活動で毎度毎度それじゃキツいし見ていてツラい。
それに、40年近くのキャリアで1度もメンバーチェンジ無しでメジャーシーンを走り続けてきたBUCK-TICKにとって、それは似つかわしくないし面白くもないし、何より彼ららしくもない。もちろん櫻井さんの代わりに新しいボーカリストを迎えるなんて愚行は想像も出来ないし論外。



だから4人は新作を4人で作り上げ、4人で前に突き進む事を選んだ。



あの瞬間、去年の4人にもそれぞれの考えがあっただろう。進むのか、退くのか。現実問題、バンドをずっと支えてきてくれたファンやスタッフの為にも、これからも支えなくちゃいけない家族の為にも、そして自分たち自身にも言い聞かせるように「これでオシマイだなんてツマンネーじゃん?ならやろうよ」って「最悪」が起こってしまった中、現時点での「最善」策を出したんだと思う。バンドマンだって人間だし生活がある。「BUCK-TICK」というバンドの名付け親でもあるメンバーには、このまま辞めてたまるかという意地やプライドもあっただろう。「バンドの顔」を失い「櫻井敦司がいないと終わり、続けられないバンド」だなんて絶対に思われたくないし認めたくもなかったろうし、何より周囲からそんな評価を下されたくもなかったはず。


BUCK-TICKは続く。ハナッから無理は承知、だって稀代のボーカリスト櫻井敦司が居ないんだもの。みんなで無理しっぱなし。でもその判断を下した4人に、その気持ちに、ファンはスタンディングオベーションで全力の拍手喝采を送るべきだ。



※最新シングル「雷神 風神 – レゾナンス」オリコン週間ランキング2位の好発進。おめでとうございます。「悪の華」「スピード」に次ぐ通算3作目のTOP3入りで、シングルが週間TOP3にランクインするのは1991年1月の「スピード」が3位を記録して以来だそうで。



とにかく怒涛の17曲入りニューアルバム「スブロサ SUBROSA」が楽しみになってきた。フラゲして頭から最後まで音源の全部を徹底的に聴いてみて、自分が4人のBUCK-TICKにどんな感想を持つのかワクワクしてるし。

あと、聴く前の心構えとして櫻井さんの歌に比べて…なんて思っちゃダメなんよな。そのへんメンバーは百も承知なんだから、そこをどーたらこーたら言うのは野暮ってもんよ。今の4人の全力を、我々も全力で楽しまないと。



これからもBUCK-TICKは、メンバーの数が減っていこうとも足掻いて藻掻いて、バンドの有り様、生き様をカッコよく見せつけ魅せ続けて欲しい。でもBUCK-TICKは、メンバー同士の愛憎劇とか人間臭く汗かきべそかきの泥臭いのはキャラクター的に誰も似合わないから、そこは澄まし顔の浮世離れした感じでこれからもよろしく。
そしたら目付きが悪い猫みたいな、誰もがよく知る眼光鋭いあの人が、大好きなお酒をグビグビ呑みつつ頬に置いた手でトントンと優しく指でリズムを取りながら、何処かで必ず4人を見守ってる筈だから。「俺が笑って見ててやる」って。



貴方の居ない世界にまだ全然慣れないけれど、櫻井敦司の居ないこの世界で、BUCK-TICKもファンも生きていく。別に強くなんてならなくていい、羽田で見上げた飛行機と貴方に捧げたカーネーションと、武道館のスクリーンに映った貴方と真ん中がぽっかりと空いたステージを眺めても何の実感も湧かなかったけれど、有るけど無い、無いけど有るみたいな世界で、どうやっても言語化できない大切な何かを糧にして、どうにもならない忸怩たる想いを携えたままこれからも生きていく。

汝よ抗え、全ての悪あがきに愛を込めて。






※「有るけど無い 無いけど有る」は、仏教語の四字熟語である「色即是空」「空即是色」に関連する言葉です。

「色即是空」は、現世に存在するあらゆる事物や「現象」はすべて実体ではなく、空無であることを意味します。「空即是色」は、一切の存在は「現象」であって宇宙間のあらゆる事物は実体がない「空」であるものの、その「空」であることが体得されると、その「現象」としての存在がそのまま実在であるとわかる、という意味です。

「空」とは「からっぽ」という意味ではなく、実体がない(定まった形がない)ことを指します。空であることではじめて現象界の万物(色)が成立するということを表しています。

「般若心経」に「色即是空、空即是色」と並んで登場します。






New Album『スブロサ SUBROSA』


2024.12.04 Release

※完全生産限定アナログ盤のみ2025年1月29日(水)リリース


TRACKLIST

01.百万那由多ノ塵SCUM[作詞: 今井寿 / 作曲: 今井寿]

02.スブロサ SUBROSA[作詞: 今井寿 / 作曲: 今井寿]

03.夢遊猫 SLEEP WALK[作詞: 今井寿 / 作曲: 今井寿]

04.From Now On[作詞: 星野英彦 / 作曲: 星野英彦]

05.Rezisto[作詞: 今井寿 / 作曲: 今井寿]

06.神経質な階段[作曲: 今井寿]

07.雷神 風神 - レゾナンス #rising[作詞: 今井寿 / 作曲: 今井寿]

08.冥王星で死ね[作詞: 今井寿 / 作曲: 今井寿]

09.遊星通信[作詞: 今井寿 / 作曲: 今井寿]

10.paradeno mori[作詞: 星野英彦 / 作曲: 星野英彦]

11.ストレリチア[作曲: 今井寿]

12.絶望という名の君へ[作詞: 今井寿 / 作曲: 星野英彦]

13.TIKI TIKI BOOM[作詞: 今井寿 / 作曲: 今井寿]

14.プシュケー - PSYCHE -[作詞: 今井寿 / 作曲: 星野英彦]

15.ガブリエルのラッパ[作詞: 今井寿 / 作曲: 今井寿]

16.海月[作曲: 今井寿]

17.黄昏のハウリング[作詞: 今井寿 / 作曲: 今井寿]



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