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GW杯Vol.5準決勝 miyu vs Rustal 観戦記事「環境の歪み」

準決勝 miyu(予選2位)vs Rustal(予選3位)


第5回を迎えたガンダムウォー杯の準決勝のカバレージをお届けする。
今回の環境は19弾+EB2環境となっている。

予選3位のRustalは本イベントではSE進出常連の強豪プレイヤーで、過去のカバレージ記事にも登場している。今回彼が駆るのはEB2随一のパワーカード「シャア・アズナブル」を中心に据えた「緑単シャア専用」デッキ。現行当時は流行の末制限カードに指定されており、今でも当時を知るプレイヤー間で語り草となる超速攻デッキだ。

対する予選2位のmiyuは、本イベントでは今回初のSE進出だが、こちらも現行当時には屈指の実績を誇った超強豪。予選のスイスラウンドでは最終戦こそ落としたものの、そこまでトップスタンディングを譲らずに勝ち進んだ実力はやはり折り紙付きだ。選択したデッキはこちらも19弾環境を代表するデッキ「Sガンダム」に、対「シャア専用」を意識して、サイドボードに「暗殺」を取った構築になっている。

この日の予選ラウンドでも両者は対戦しておりmiyuに軍配が上がっていた。決勝SEに舞台を移しての再戦となったが、両者旧知の仲ということもあり和やかな雰囲気の中でゲームが始まる。

Game1

先攻は予選上位のMiyuが取り、両者マリガンチェック。Miyuは6枚キープ宣言に対し、Rustalはやや悩んだ様子。「シャア専用」は初手の質が非常に、というより異常なレベルで求められるデッキであり、マリガン選択が最初の山場となるためだ。「シャア・アズナブル」か「赤い彗星のシャア」の有無、そしてその上で序盤に大打点を出せる組み合わせが早期に成立するかがとても重要となる。Rustalは悩んだ末、本イベントサーバーのハウスルール(マリガン回数分のデッキトップ入れ替え)を当て込んで1度のマリガンでキープしたものの、芳しくない初手をやむなく許容したように見受けられた。

ゲームが始まり第1ターン、miyuは青Gセットのみ、Rustalも返しで緑Gと「ジオニズム」を置いて終了と静かな滑り出し。「ジオニズム」はこの環境では「シャア専用」デッキによく組み合わせて使われたカードであり、相手の動きを阻害してその隙に勝負を決めることを狙うものであるが、初ターンから最大8~9点を叩き出せるポテンシャルを持つこのデッキとしてはやや寂しい立ち上がりとなった。

場に残り続けるロックカード

第2ターンは「ジオニズム」によってmiyuもユニットを出すことを禁止され、基本Gと「パイロットの現地徴用」を展開するのみ。しかし返すRustalも「貴族主義抵抗派」を置くだけでターンエンドとなる。このターンは「ジオニズム」が自軍コマンドも制限しているため、最速で「赤い彗星のシャア」をプレイすることはできないが、当然Rustalがもとよりそれを把握していないわけはない。Rustalは「シャア」を展開するには何らかが不足したハンドをキープしていることが明白となった。
3ターン目、枷の外れたmiyu側にエンジンがかかる。3G目の後「Gアタッカー」「コア・トップ」と展開。そして直後起動した「現地徴用」はキャラクターこそもたらさなかったが「Gボマー」がジャンクヤードへ送り込まれた。ジャンクヤードを経由したギミックを持つ「Sガンダム」デッキにとっては、これもアドバンテージに変えることができる。当時の入賞リストでも採用有無が分かれていたこのカードだが、その採用の正当性を見せつけたシーンといえるだろう。

落ちたユニットはGアタッカーで回収可能

続けて手札から「アストナージ・メドッソ」を置き、戦闘フェイズで「Gアタッカー」が「Gボマー」を回収、「アストナージ」のリロールから2点ダメージを刻んで「コア・トップ」を起動するもここは当たりはなくエンド宣言。忙しなくテキスト宣言が行われる「Sガンダムデッキ」らしい展開だ。

一方のRustalは不運が続く。ここからも3ターンもの間、トップドローを確認してはため息をつく。始動に不足しているパーツを引き込めず、自ターンにはジオニズムのカウントが進む以外に一切動きがない。これは「シャア専用」としては致命的な動きにも見えたが、代わりに引き込んでいた「女スパイ潜入!」を2ターン連続でmiyuの手番開始直後にプレイ。効果が一回りしたジオニズムと合わせてユニットの展開を再び3ターンも制限し続け、miyu側も盤面を大きく引き離すことができずに小さいクロックを刻み続ける。

そして待望の「サイド3」を引き込んだRustalは思わず「ようやく引いた~!」の一言から、すぐさま「シャア・アズナブル」まで配備。「シャア専用」デッキは1国力の各キャントリップか「シャア専用ザクⅡ」がないと原則動き出せないため、これが手札に不足していたのだろう。
そして戦闘フェイズに入り、お決まりのテキスト起動から大佐のもとに届けられたのは...

「リック・ディアス(クワトロ・バジーナ機」」!

私はのちに「クワトロ」と呼ばれることもある男だ(?)

当時のガンダムウォーを知る諸兄にこそ見慣れた動きであろうが、原作でいえば時代設定を思いきり錯誤したこの光景が許されるのも、ガンダムの世界観に沿いながらも自由度を持たせつつゲームに落とし込んだ、ガンダムウォーならではのシーンといえるのではないだろうか。

何故かサングラスではなくマスクをかぶったまま未来の機体に乗り込んだ男が出撃すると、打点のみにとどまらず今は敵勢力のお家芸、オペレーション破壊能力により「パイロットの現地徴用」を盤面から葬り去る。これで、足止めを食らっていたmiyuに盤面で一気に追いついた。


返しのターン、miyuも足止め分を取り返すように「北極基地」「Gボマー」「コア・ベース」を展開し、いまだ「Sガンダム」は盤面に不在ながら、戦闘機達が高機動部隊で攻撃を仕掛ける。

それに対し、Rustalは再度「シャア・アズナブル」のテキストを起動して今度はフレーバー通り「シャア専用ゲルググ」に乗り込み、”インクの染み”の一番目のテキストでmiyuの高機動部隊に飛び込む。

 ―かつてのカスレア扱いから、EB2で一気にデッキの中核に上り詰めたこのカードだが、よく記憶にあるのは「シャア専用」デッキの攻撃的な部分を支えた下のダメージテキストだろう。miyuも1つ目のテキストは失念していたようで、想定外の交戦に驚嘆する。試合後にRustal本人が語ったところによれば、やや不利な展開を捲るため「シャア専用ゲルググ」での防御で頭数を減らすことは狙い通りとのことで、まさに脱帽のプレイングであった。

この戦闘で戦闘機を2体落とされてしまったが、ダメージ判定ステップのテキスト起動で「コア・トップ」「コア・ベース」が「Gコア」「Sガンダム」をジャンクヤードに落とし、いよいよデッキの中核へアクセスが開始された。手痛いのは「Gアタッカー」がこの戦闘で落ちてしまい、現状の盤面では非常に濃いジャンクヤードからリソースが回収できなくなってしまったことだろう。

だがまだまだこれでは終わらない。miyuはジャンクヤードとは別に新たな「Gボマー」「Gコア」を引き込むことに成功していたためだ。
攻撃を続けるRustalのターン中に、クイックによる展開からついに「Sガンダム」をジャンクヤードから呼び出した。

合!体!(コア、ボマー、ボマー)


しかし、Rustalは直前で「シャア」のセットグループに「マリオン・ウェルチ」をセットしていた。結果的には、これが勝負の決定打となる。
「マリオン・ウェルチ」の修正込みで単騎7/5/8速攻というサイズになってしまったこのセットグループに対し、合体テキスト以外で自軍ハンガーに弾を送り込めていない状況のため「Sガンダム」単体では戦闘力でも火力テキストでもわずかに届かない。先のターンでの戦闘の生き残りは「コア・ベース」1体だけで、これを追加で戦闘に参加させても「シャア専用ゲルググ」の火力テキストで焼かれてしまうのが目に見えている。

7/5/8 速攻 強襲 宙間戦闘(2)

どうあっても「シャア」を落とせないことを理解したmiyuは「アストナージ」からバルチャーを付与し、本国ダメージとアドバンテージ損失を和らげるのみとした。バルチャーポイントによりクイックを持つ「Gコア」を回収するも、残り本国はわずか数枚で盤面を作り直すコスト支払いも厳しい状況。トップドローを確認した後、miyuが1ゲーム目を投了した。

miyu 0-1 Rustal


「女スパイ潜入!」と「ジオニズム」の足止めが序盤の出遅れを帳消しにした格好となり、感想戦でRustalがそのことを伝えるとmiyu側も「女スパイ潜入!」を2回目に打たれたターンのトップドローが「コア・ベース」であり、クイック持ちすら展開できなかった不運を嘆いたのであった。

Game2

サイドボードからは当然miyu側に「暗殺」が投入されており、相性改善が期待される中で2ゲーム目が開始。

「シャア」対策の有力な1枚

しかし、miyuの6枚キープ宣言の後、Rustalは1Game目と打って変わって、現代風の表現でいうならまさに”秒で”キープを宣言。声色からもこの後何が起きるかを察したmiyuがGセットのみでターンを返すと、Rustalは第1ターンでこのデッキの最強初動の1つである拠点、「シャア」、「シャア専用リックドム」を送り出し、7点のクロックをいきなり形成。

シャアが乗れば1ターン目から7点

2ターン目、miyuは「周辺警護」をヴァリアブルしながら「北極基地」「Gボマー」。そのままテキストを宣言して「Gアタッカー」「Gコア」の2枚抜きに成功するという非常にいい動きで返すが、さすがにこの展開では少々消沈気味。miyuの攻撃ステップ時にRustalは「リック・ディアス」に乗り換えを宣言し、クロックは変わらないがオペレーションにも睨みを利かせた。

…ここでさらに、泣き面に蜂。後攻2ターン目、RustalがセットしたGは「貴族主義抵抗派」!
戦闘フェイズに入ると即座にヴァリアブルされていた「周辺警護」を破壊しながら、「シャア」らが打点を刻む。

3ターン目に入り、再び1国力に戻されたMiyuは「ボール改修型」のあと、「暗殺」の黒国力のためタッチした「地球連邦政府高官」をプレイ。しかし「暗殺」自体は手札になかったか、単なる2G目としての運用となった。ここから「ボール改修型」によるチャンプブロックで凌ぎこそするが、Rustalが続けて2枚目の「貴族主義抵抗派」を置いたことでmiyuは機能不全に至る。

そしてついにプレイできるGが途切れてしまい、Rustalがダメ押しの「ギレン・ザビ」を展開したところで最早追いつけないと悟ったmiyuが投了を宣言した。

miyu 0-2 Rustal

予選ラウンドの勝敗をひっくり返し、Rustalが決勝に進出!


試合後に両者の間でも話題となっていたが、2ゲーム目は「暗殺」のために採用した「地球連邦政府高官」を逆に「貴族主義抵抗派」に狙われてしまう展開となってしまった。もちろん試行回数の問題はあり、「暗殺」により勝利する展開も十分ありえたわけであるから、それを失敗と断ずるのは結果論と言えるだろう。

シャアデッキ対策のためにいれたGがシャアデッキに割られる

さて何が正解だったかの議論はいったん横に置くと、この構築の選択が生まれること自体が本イベント「ガンダムウォー杯」ならではの光景である。
どういうことかというと、Sガンダムデッキは19弾時点ですでに登場しすぐに大型大会で実績を残したデッキなのに対し、「シャア専用」はその時点ではプールになかったEB2で成立したデッキであること、そして当時は次の大型大会が20弾発売後であり、カードプールやメタゲームが変化した後の大会結果しか記録が残されていないこと。つまり「Sガンダム」側からすると19弾+EB2までのカードプールで「シャア」と戦える構築を模索した結果、未来のカードが使えないならとデッキの色を歪めてまで「シャア」を対策しているのだ。それほどまで構築段階で意識させる「シャアデッキ」の異常さもさることながら、miyuは構築時点できっちりその回答をデッキリストに埋め込んでいた。

このような「環境の歪み」に、どう向き合うか。当時のリストをそのまま使うだけでなく、その違いを見切って最適に調整する、もしくは前々回大会優勝のアフリカロックのようにデッキ選択ごと変えてしまうのも悪くないだろう。
今回、強者同士が当時の環境トップデッキを握って激突した中に見られた、この「歪み」に挑むための”安定した国力基盤の断念”。今回ばかりはその選択が勝利という結果にこそつながらなかったが、その意図はきちんとここに記録された。
結びとして、各プレイヤーが今後もどのような戦略でこのイベントに参加してくるのか、この先の盛り上がりがますます楽しみとなった。

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