12番散弾銃のスラッグ用銃身の銃身長はなぜ21インチ~22インチが多いのか?


まず前提知識として、銃身の設計知識の一部を説明しなくてはならない。
長くなる為結果だけ知りたい場合は目次の「スラッグ弾頭は銃身内の動き出し(加速)が遅い」へ飛んでくれて構わない。


限度はあるが銃身長は長ければ長いほど発射する弾頭の速度が早くなる

猟銃所持者で知らなかった読者は覚えておいてほしい。 例に出すと、【クレー射撃のトラップ専用モデルの上下二連散弾銃の銃身長が30インチ以上なのは、「24gの鉛散弾」「12番径(直径18.5166mmの表面積)」のワッズを用いて、「散弾銃に適した速い速度で燃え切る(速燃性)無煙火薬の燃焼圧力」で飛ばす時「最大に近い速度で飛ばすことが出来る銃身長」「30インチ(約76.2cm)から」だからだ。

このように、「物体」「火薬の燃焼圧力で押す」と考えた時、基本的に知っておかなければならない要素として「飛ばす弾丸(散弾)の質量」「口径・番径(火薬の燃焼圧力が押さなければならない表面積)」「火薬の燃焼速度」「銃身長(加速出来る筒の長さ)」の4つがある。

「散弾用銃身」と「スラッグ用銃身」の銃身設計の違い

さて、いよいよ本題に入るが、俗に言われる一発弾の「スラッグ用銃身」は前述した「散弾用銃身」と違って、意識して設計しなければならない性能、「命中精度」がある。
【命中精度が損なわれにくい銃身長】というのは「どういった質量の弾丸を飛ばすか」によって変化する。そして12番という径(表面積)で重いスラッグ弾頭を飛ばそうと考えた場合、万人が命中率を確保し易い銃身長が実は21インチ〜22インチなのである。
ここから下はざっと理屈を説明しよう。

12番径のスラッグ弾頭はなぜあれほど反動が大きいのか

一発の弾丸を高速でより遠くに飛ばすと考えた場合、12番径の表面積は非常に非効率である。わかりやすく30口径のライフルの弾頭と見比べてみよう。
(メーカーによって弾頭重量や形状等が若干異なる為、ここではオーソドックスな重量を採用して記載している。)

表面積:
○30口径 ライフル弾頭直径 7.62mm
○12番径 散弾銃スラッグ弾頭直径 18.52mm

弾頭質量:
○30口径 ライフル弾頭重量 9.72グラム(150グレイン)
○狩猟ブリネッキ型スラッグ弾頭重量「31.5グラム(486.1グレイン)

このように、スラッグ弾は火薬の燃焼速度こそ異なるが「2倍以上の表面積」&「3倍以上の弾頭重量」を持っている。よって生み出される反作用の力(リコイル)はライフルよりも強力になっているのである。

スラッグ弾頭は銃身内の動き出し(加速)が遅い

そんなこんなでスラッグ弾頭はその表面積と重量によって、「銃身内で停止している状態から動き出し、最高速度に移るまでが非常に遅い」という特徴がある。あの凄まじい反動の初波が発生する頃、スラッグ弾頭は薬室からおおよそ23インチ(約58.42センチ)あたりを進んでいる。
ここまで読んだ読者ならなんとなく結論が見えてくるのではないだろうか?
つまり、23インチより長い銃身長で重量の重いスラッグ弾を発射した場合、弾頭が銃口から出る前に反動が始まってしまい命中率が著しく損なってしまうからである。

※実は練習次第で当てることは可能だが、「高い熟練度を要する銃身」は「商品」として魅力が無い。よって、多少弾頭の初速を落とすことになってもより、体格を選ばず、安定した結果を得られ易い21インチ~22インチで販売されていることがほとんどなのである。


12番の30インチのリブ銃身で撃っている人が居て、しかも命中率が高い!

フィジカルが強く射撃センスがある人、単に銃身を下げる癖が付いてしまった結果当たっている人などがいるのも事実である。(癖が付いてしまった人はライフルに持ち替えた時に苦しむだろう。。)
スラッグ弾には弾頭重量を24グラム程度に軽量化させた「高初速スラッグ弾」や「マネージドリコイルスラッグ弾」として売り出している商品もある。
前述したとおり、12番径で24グラムの質量を飛ばす場合30インチ以上であれば最高に近い初速が得られる、初速が高くなることでフラットな弾道を描きやすくなることで命中率が高くなる。
しかし、殆どの自動銃の30インチ銃身は散弾(ショット)用銃身としてスラッグ弾を発射した時のバレルバイブレーション(銃身の微振動)や高圧力に耐えるように作られていない事が多い。リブ銃身でスラッグを発射するのはやはりお勧めしない。

銃身に蓄積される金属ストレスはやがて「膨張」「曲がり」「割れ(クラック)等の故障を発生させるからである。もしどうしても使用したいなら、「著しく銃身の寿命を減らす行為」であるときちんと認識した上で自己責任で撃つべきだ。

まとめ:「スラッグ銃身」とは

「スラッグ銃身」とは、質量の大きいスラッグ弾頭を撃っても万人が(ここ重要)「高い命中率」を得られる範囲で「そこそこの初速を得られる」ように設計された銃身である。

有料の記事に20番スラッグ銃身の弾頭初速と命中精度を担保出来る銃身長について解説。

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