ボクの新卒カードは地元の百貨店で切られた
たくさんの想いを振り返りなぞっては吐きそうになる
今を平気で生きているのは
抱えきれない想いを忘れているからなんだろうな
ボケてしまうのは想いが抱えきれなくなった末の処世術なのかも
それは、その人が豊かな人生を送った証拠だ
ボクの新卒カードは地元の百貨店で切られた
就活が大事な大学四年の一年を単位取得とバイトに費やした
二年、三年と講義をサボり散らかしたしわ寄せが
ギリギリになって襲いかかってきたからだ
もちろん就活セミナーは単位に追われて、この方一回も参加したことはない
なんとかなるだろうという、どこか楽観主義のところがあった
バイトはジーンズショップで働いていて時給はそこそこよかった
バイト先の店長から「就活だめならウチで働き続けなよ」と
言ってもらえていたので、最悪バイトで食い繋ぐ予定でいた
ボクの尊敬する先輩たちも就活失敗してバイト暮らしが多く、
未だに大学周辺に結構たむろしていて、後輩にちょっかい出したりしていたボクもそういうやっかいなOBになるつもりでいた
事の始まりは新聞の朝刊に入っていた食品コーナーのパート募集チラシだ
実家のばぁちゃんがいつまでたっても決まらない孫の就職を憂いて、
勝手にパート募集に僕の履歴を書いて応募していた
どこかのジャニーズのオーディションみたいな話だ
百貨店から「新卒なので社員募集の間違いではないですか?」と
連絡が来たらしく、ばぁちゃんは社員とパートを思いっきり間違えていた
社員の新卒採用があるので書類はそちらに回してくれる事になった
「だからあんた受けなさいよ〜!!」
まぁ、親切心をむげにもできないので、とりあえず受けに行った
筆記試験と面接があるらしかった
とにかく面接が不安だった。なぜなら志望動機が一ミリも存在しないからだ
ばぁちゃんが勝手に応募したので来ましたというボンクラ野郎だ
面接官はボクの不安もよそに
「おばあさんから応募されたらしいですね!非常に温かい家庭ですね!
地元就職志望ということでうれしいです!なかなか若者が集まらないので助かりますよ!」と面接官はぶっちぎりのプラス思考で対応してくれたので
ボクは「はぁ」とか「接客はバイトしてるんで慣れてます」とか
言ったくらいで終わった
結果は後日自宅へ郵送ということで実家に送ってくるらしい
まだ学生生活が残っていたボクは次のバイトのシフトの休み希望を考えていた
内定は思ったより早く来た
「よかったね~!感謝しなさいよ〜!あんた何もしてないんだから!」
感謝するかどうかは置いておいて、たしかにボクは何もしていなかった
とりあえず内定が出たことを就職課へ伝えると
いままで取るのに苦労していた単位がポンポン通るようになった
就職内定率の魔法が発動した
あ、これ卒業できそうと目処がついたので
ボクは他の就活を続ける(始める)のか、内定受けて残りの学生生活を気楽に過ごすのかの二択になった。もちろん後者を選んだ
バイトを目一杯入れて、休みの日にぶっ倒れるほど遊ぶを繰り返した。
そして、無事に大学を卒業できた
バイト先はすごく楽しかったのでバイト仲間との別れは辛かった
卒業式では泣かなかったのに、バイトの最終日
みんなでボクの家に来て送別してくれたときはギャンギャン泣いた
※
新聞のチラシから決まったボクの就職
地元に帰る。
特にやりたいこともなく、働く気もない場所ではたらく
究極に意識低い系の新社会人のボクは
入社式で同期に可愛い子がいないかずっと探していた
同期たちはほとんどボクと同じ系統の人間で
入社研修で泊まっていた旅館では酒盛りして騒ぎすぎて
翌年からは出禁になっていた
同じ大学からきているヤツもいたけどどっかで顔見たことあるな程度で
適当に「うぃーっす」とやっておいた
向こうも「うぃーっす」って感じで返事が来た
ボク達は社会人をクソ舐めてたんだと思う
乱痴気騒ぎの入社研修を終えて、今年の新卒はヤバいと全員レッテルが
貼られたところで、売場配属前の実地研修となった
とりあえず、よくわからないので勢いとノリで乗り切ろうと思っていた
青果売場から下着売場から日用品売場
まんべんなく一週間ごと売場をまわされた
基本アルバイトと同じで、特にふざけてなければ難なく乗り切れていた
入社研修の前評判が悪かったせいか「意外と真面目じゃん」と言われた
なんだ余裕じゃんって思いながら過ごしていた
※
その日は、実地研修の贈答品包装練習を終えて昼休憩にはいる時だった
会社の休憩室に人だかりがある
今年の新卒紹介ということでデカデカと履歴書の写真が印刷されて
掲示板に貼られていた
それを先輩社員たちが集まって新入社員の顔を評価している
可愛い!とかイケメン!とかやっている
あーやってんねぇって思いながら近寄って後ろで話を聞いていた
「あー新人きたきた、新卒の女子でどれが一番可愛いと思う?」と
横澤夏子みたいな人に聞かれた
「どれも微妙ですね」と答えた。正直好みの子はいなかった。
「わー面食い!面食い!」
「面食いってほどではないですよ〜」
「新卒ってみんな仲いいの?」
「普通じゃないですか?」
「なんかたくや君ってシティ感あるよね」
「なんすか?シティ感って」
そのとき一人の小柄なポニーテールの子がボクの写真を指さして
「わたしの元彼に似ているんだよね。名前もおんなじ、たくや。」
そう言ってこっちを見てニコっと笑った
にぎわう休憩室の掲示板前で
ボクは微笑んでいるその子から目が離せなくなっていた
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