恐怖!蟻の塔渡り!戸隠山
長野県の戸隠には奥社・中社・宝光社・九頭竜社・火之御子者の五社からなる戸隠神社があります。こちらの神社には天照大神、須佐能命、月夜見命の三柱の神ではなく、天手力雄命や天鈿女命などの天岩戸伝説縁の神々が奉られています。それというのも天照大神が隠れ、天手力雄神が開いた「天岩戸」が下界に落ちて来たものが戸隠山になったと伝えられているからです。
伝承の通り戸隠山はとても薄く両側の谷は急峻で切れ落ちていて、まさに岩戸が立っている様な山でした。
日本二百名山に数えられ、稜線続きに日本百名山の高妻山まで歩くこともできまが、一気に歩くと大変な山なので今回は戸隠山だけ、奥社から八方睨経由で戸隠山に登るコースをご紹介します。
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時期
9月
アクセス
行き
戸隠キャンプ場泊
帰り
信濃町ICへ車で約30分
紹介ルート
https://www.google.com/maps/d/edit?mid=1REViGedU6OV6C0tGETgd5puT7xXEf5M&usp=sharing
総距離:11.0km 登り:963m 下り:963m
戸隠キャンプ場~奥社入口~奥社~胸突岩~蟻の塔渡り~八方睨~戸隠山~九頭竜山~一不動避難小屋~戸隠キャンプ場
戸隠キャンプ場~奥社
昨日は戸隠キャンプ場で焚火焼肉を楽しみました。登山&キャンプが楽しめるのも戸隠の良いところです。
本日は朝4時と早めの出発。というのも戸隠キャンプ場のゴミ置き場は午前と午後の決まった時間しか開かないので、チェックアウトまでに昨日の焼肉で出たゴミを捨てるためには11時までにはキャンプ場に戻ってこなければいけないからです。戸隠山周回のコースタイムは6時間半くらいの想定なので、朝4時でもあまり時間に余裕はありません。
戸隠キャンプ場から出ると車道に出る手前に「さかさ川遊歩道」の入り口があります。まずはこの遊歩道を歩いて奥社入口まで行きます。入口には熊注意の看板あり。この時間だと未だ人気もなく、真っ暗なのでちょっと怖いですが熊鈴を鳴らして慎重に進みます。
遊歩道は約2km。起伏はほとんどなく、木道が設置されている箇所も多いので歩き易いです。途中2か所だけ分岐があるので間違えない様に!約30分ほどで奥社入口まで到着することができました。歩いてる間、熊の気配はなかったので安心です。
奥社入口の鳥居を過ぎたら参道が真っすぐ続いています。フラットですが微妙に登っている様に感じます。こちらも2kmくらいあるので奥社までは約30分くらいかかります。途中にある随神門は年季が入っていて、屋根の上は植物が生え放題でした。
途中、左手に1箇所だけトイレがあります。ここを過ぎると参道は次第に上り坂から階段へ変化してきます。お疲れの方は小休止してから歩いて行きましょう。
この辺で夜も開けて明るくなってきました。道はややカーブしていて奥社が見えない様になっています。参道から丸見えだと期待感が薄れてしまうので、神聖な感じを演出しているのでしょうか?
社務所の建物が見えたら奥社に到着です。社務所の下、左手前に登山口がありますが、せっかくなので社務所の右奥にある九頭竜神社と奥社にお参りしていきます。
九頭竜社は九頭竜大神を祀っていて、その名の通り水神様、雨乞いの神様なので登山中の天気をお願いします。なぜか虫歯の神様でもあるようですので歯痛にお悩みの方は是非こちらまで。
次いで右上にある奥社には天手力雄神(あまのたじからお)が奉られています。こちらは開運、心願成就、スポーツ必勝等、なかなかいい感じの御利益があります。
登山者としてはどちらもお参りしていきたい神社ですね。
さて、お参りを済ませたら登山口まで戻り、いよいよ登山開始です。
奥社~胸突岩
登山口では登山届の提出が可能です。社務所の左手を回って神域のしめ縄をくぐった先に登山道があります。いきなりの急登ですで大変ですが、丁度真っ赤な木漏れ日が山肌を染めはじめ良い感じです。
序盤は土と木の根の道が続きます。暫くして大きな岩の脇を通ったら急登も一段落しますので頑張りましょう。暫く普通の登山道で登りが続きますが、次第に岩が多くなっていきます。
正面にニョキッ!とそそり立つ岩肌が見えたら、そろそろヘルメットをかぶった方が良いでしょう。
ここからは鎖場も増えますが怖いのは滑落や墜落というよりは落石です。垂壁の下を歩く区間が多いので、運悪く小石が落ちてくれば頭蓋骨陥没でしょう。上部に気を払いながら歩きましょう。
最初のポイントとして五十間長屋という垂壁の下の岩室があります。ついでより長い百軒長屋という岩室があります。どちらも上部が高い垂壁になっていて、もしも落石があったらと思うとなかなか怖いです。まあ、ほとんど落ちてくることはないとは思いますが・・・。
百軒長屋の先には垂直の岩壁を登る鎖場があり、上にお堂があります。ここを登る人も居る様ですが、今日はあまり時間もなく、登っても通り抜けはできないので登るのは止めて先に進みます。
ここから先は鎖場続きです。どちらかというと鎖が無い区間の方が少ない位の長い鎖が連続します。とはいえほとんどは急な岩場の登山道と言ってよく、岩壁ではありませんので悪ふざけしなければ登っていけます。
最後の「胸突岩」だけは別モノ。胸突岩は体感で完全に壁です。先ほどのお堂とは違って、登らないと先には行けないので、ちょっとダメそうなら戻った方が良いです。朝日が背中を焼く方向の壁ですので暑さにも注意しましょう。また、登る際は滑落・墜落時の被害を最小限にするために一人ずつ登りましょう。次の人が控えている場合は、登り終わりの際も声を掛け合いましょう!
胸突岩~蟻の塔渡り~八方睨
さあ何とか胸突岩をクリアした後に控えているのがこのコースのラスボス「蟻の塔渡り」です。来る前に動画も見ましたが迫力を出すために映像が歪んでいるものが多く実際どうなの?というのがよくわかりません。今回は渡れるか渡れないかは現場で決めようと思ってやってきました。
渡り口に着くと丁度ブロッケン現象を観ることができました。果たして彼は危険を忠告しに現れたのか?それとも祝福のエールを送るためか?どうやら後者のようで、ブロッケンの幻影はこちらに頑張れよと手を振ってくれました(私が手を振ってるからですが・・・)。
さて、いよいよ蟻の塔渡りに挑戦ですが、やはり歩いてすいすい渡るのは私には無理でした。渡り口こそ立てますが、中盤では怖くて四足歩行に。最後の部分は一足幅しかなく岩を跨いで渡る事しかできませんでした。
とはいえ当日は風もなく良いコンディションで、何とか安全にわたり切れたのでとても個人的には満足です。
因みに渡れない場合はちゃんと鎖付きの巻き道があります。遠目に見ると巻き道の方が怖そうに見えましたが・・・。
蟻の塔渡りを渡り切ったら目の前の八方睨に登ります。一番の危険地帯は過ぎましたがこの先も鎖の岩場がありますので気を抜かずに。
八方睨~戸隠山
八方睨はその名の通り八方を一望できますが、残念ながら今日は雲が多くあまり山座同定することはできませんでした。山頂には日陰があまりなく、日差しが暑かったので、こちらは早めに後にします。
次の山頂が本日の目的地、戸隠山になります。一応八方睨から先はヘルメット解除しても大丈夫でした。通常の山道になります。なので「蟻の塔渡りはちょっと・・・」という方は一不動避難小屋経由でピストンすれば恐怖の区間を歩かなくても戸隠山に登ることはできます。
戸隠山の山頂までは八方睨からすぐです。多少のアップダウンはありますが容易に到着できるでしょう。山頂からは昨日登った高妻山が綺麗に見えました。
なお、戸隠山も山頂に小さなスペースがありますが、八方睨の方が広いのでパーティの場合は八方睨で休憩をとった方がよさそうです。
戸隠山~九頭竜山
さて本日はそこまでのんびりしていられないので戸隠山から先へと歩いて行きます。天岩戸と言われるだけあって稜線は細く、谷は切れ落ちていますが道はしっかりしているのでふざけなければ危ないことは無いでしょう。道が狭いのでスライドする場所はある程度限られます。休憩する際は道を塞がない様注意しましょう。
戸隠山を下って振り返ると、戸隠山の向こうに蟻の門渡りが見える場所もありますので、景色を楽しみながら歩いて行きます。
次の九頭竜山までは細かなアップダウン続きでなかなか大変でした。なんとか九頭竜山に到着してみると、木にプレートが掛かっていますが山頂碑は無さそうです。山頂プレートの目の前には三等三角点がありますが、普通の四角柱ではなく、平べったい石なのでちょっと面白い三角点です。三角点の上に先行していたペアの一人が座り込んでいて邪魔なので、あまり撮影はできず九頭竜山を後にします。
九頭竜山~氷清水
九頭竜山からは先には山頂が無いため下りだろうと高をくくって歩き始めましたが、どう見ても高い山が目の前にそびえています。「ひょっとして巻くのかな?」と思って地図で確認しましたが、どうやら目の前の山は登るようです。近づいてみるとこれが岩の急登で、鎖場が始まっていました。
「下山中じゃないんか!」と愚痴を言っても仕方ないので登ります。そして登ったとおもったら今度は結構な下りでした。大変ではあるものの距離はそれほどでもなく、割とすぐ見覚えのある一不動避難小屋に到着しました。
この時点で9時半頃。11時までにキャンプ場に戻ってゴミを捨ててから帰りたいので、一不動避難小屋では休憩せず氷清水まで下っていきます。
自宅よりはかなり涼しい気候でしたが、体感的にはちょっと暑いのか?氷清水は最高に美味しかったです。現時点で山で飲める清水のなかで第一位といって過言ではないでしょう。しっかり飲んでボトルへの給水をも済ませたらキャンプ場まで下っていきます。
氷清水~戸隠キャンプ場
昨日も歩いているので道の感じは大体把握できています。帯岩のトラバースも昨日と比べると気持ちに余裕をもって歩けました。
とはいえここで気を緩めて怪我でもすればせっかくの山行が水の泡になります。怪我をしない様気を付けて下っていきます。
まだ午前中なので戸隠山の東斜面にあるこのコースは直射日光が正面から降り注ぎ、なかなかの暑さでした。
無事、戸隠牧場に到着すると信州戸隠トレイルをやっているらしくトレランの方が元気よく走っていました。
下山時刻は10時20分で無事ゴミを集積場に持ち込んで捨てることができましたので、身軽になって返れます。
ちなみに、戸隠キャンプ場は11時チェックアウトですが、この日はアンケートに答えると12時までチェックアウトが延長できるキャンペーン実施中でしたのでゴミさえ捨てられればあとはのんびりしてても大丈夫。テントをゆっくりと撤収し、帰路につきました。
下山飯と温泉
戸隠キャンプ場を後にしたら戸隠神告げ温泉湯行館に向かいます。レンタカーで来ているので移動は楽々です。戸隠神社中社の前から路地に入り、細い道を行った先、突き当りに温泉があります。入り口には看板犬の「おたるくん」が座っていますが、残念ながら噛むそうです。なのでどちらかというと看番犬ですね。声をかけても遠くを見たまま動かないので、下手に手は出さずに館内へ。
こちらは温泉入浴と戸隠そばのセット(2,000円)があったので、それを購入しました。お蕎麦のチケットは温泉から上がった後で出せば良いらしいので先ずは温泉へ。こちらは単純泉でシャンプーボディソープなどのアメニティあり、湯船は内湯1つだけですが、湯温の調整が絶妙!お風呂に浸かると出るのが面倒になるお風呂でした。疲労が回復しているはずなのですが、次への行動は緩慢になって堕落してしまいます。
帰り道が混雑してしまうリスクを思い浮かべ、温泉にもう少し入っていたい気持ちを抑え込んで風呂からあがります。温泉の後は美味しい戸隠そばを楽しみましょう。
綺麗な「ぼっち盛り」で、細い蕎麦ですが、蕎麦が結構しっかりしていて噛み応えもありつつも美味しく、すいすい食べきってしまいました。おかげで写真は食べ終わった後に気づいてとる羽目に。
付け合わせのフキノトウ味噌なども美味しかったです。美味しいものというとどうしても脂肪と糖が沢山なイメージですが、そういったものから遠く離れた素朴な料理なのに、なんでこんなに美味しいんだろう?と感動しました。
さて、あとは高速道路で4時間程走って帰ります。普段公共交通機関利用で高速道路にはあまり来ないので、横川SAで釜めしも食べてしまいました。お腹いっぱいで満足な山行になりました。
豆知識
知らない人はいないと思いますが、天岩戸伝説の概要だけ(がりばあの記憶に基づくので細かいところが違っているかもしれませんがご容赦ください)。
神代の頃、弟の須佐能命(すさのう)の振る舞いの酷さ(いたずらで天井から大便をする神様ってどうなの?)に悲しんだ姉の天照大神(あまてらす)は、祠に入り天岩戸で入口を塞いでしまいます。一言でいえば、弟が原因で引き籠ってしまったわけです。
ふつうの引きこもりと違って、天照大神は太陽神なので当然世界は真っ暗!八百万の神々がこれではまずいと大いに知恵を絞ります。
その結果、天岩戸の前で火を焚き、宴会を開きます。賑やかな様子を天照大神に聞かせて誘い出そうという計画です。ここで踊って大いに場を盛り上げたのが天鈿女命(あまのうずめ)になります。なので戸隠では芸能のご利益がある神様として祀られています。
自分が引き籠ってるというのに、随分と外が賑やかで楽し気である事に疑念を抱いた天照大神は天岩戸をちょっとだけ開いて外を覗こうとしますが、この瞬間!岩戸の側に控えていた天手力雄命(あまのたじからお)がこの隙間に手を差し入れ、ガッ!っと岩戸を開けてしまいます。
岩戸をなくした天照大神は隠れることもできず、神々の説得に応じて再び世界に戻ってきてくれたというのが天岩戸伝説になります。
この天手力雄命が開けた岩戸が地上に落ちて戸隠山になったという訳です。神様の引きこもりは流石にスケールがでかい!
そういえば今更ですが、”戸隠”って天の岩「戸」で神様が「隠」れた場所だから戸隠なんですかね?なるほど~という感じです。