【ショートショート風エッセイ】それぞれの親子

2024年12月某日。
石川光太郎(いしかわ・こうたろう)は、公民館の駐車場でコーヒーを飲む。
妻と生後4ヶ月の娘は、市が主催する「ママ交流会」に参加している。
その会合は「パパ禁制」であるため、ここで待つより他ないのである。
ママ交流会は90分ほど続くそうで、車を少し走らせれば色々なところには行けるのだが、敢えて光太郎は駐車場に留まることを選んだ。

公民館はこども園と隣接しており、駐車場を共有している。そのため、幼い子どもを迎えに来る親が多数光太郎の前に現れた。

「みよちゃーん、おかえり。楽しかった?」

「うん、楽しかったー!」

見たところ3歳くらいだろうか。満面の笑みを浮かべながら母親に抱きつく少女がいた。

(こども園が楽しかったのに、ママに会うと走ってハグしに行くのか。ママのことも大好きなんだろうな)

「もう、何でそんなことするの!ママもうやだ、疲れた。疲れたよ、疲れたよ…」

突然大声で叫ぶ母親がいた。

「うあぁぁぁぁ!」

まだ歩けるようになったばかりと思われる小さな少年が、母の声に抵抗するかのように大声で泣く。そのあとは二人の大声の応酬だ。

(親が感情的になると、子どももそうなるよな…)

「はーい、今日はこれでおしまいです。また来週来てください!さようなら!」

ママ交流会を仕切るこども園の園長が締めの挨拶をしている。周りには6組の笑顔の母親と子ども。光太郎の妻は、2組の親子と楽しそうに話しながらこちらへ向かう。

(いつまでも、妻と娘が笑顔でいてくれたらいいな)

そう思いながら、光太郎も笑顔で車の外へ出た。

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