交番勤務長谷川ミチロウの日常(1)「めいたんていの巻」

【登場人物】

・長谷川ミチロウ:一応主人公。交番勤務の巡査。特撮オタク。無駄に写真を撮るのが巧く、レイヤー友達に駆り出されることがある。

・ 向島ミノル:交番勤務の巡査。ミチロウと同じ派出所に勤務するミチロウの先輩。ミステリオタク。名探偵に憧れて警察に入った。

・ 師島シズコ:被害者。何者かに殺害される

・ 師島シロウ:被害者の夫。

・ BB花巻:女子プロレスラー。師島シズコの親友。ノーザンライトスープレックスとジャイアントスイングが得意技

・ 江国エイコ:師島シズコの親友。婚活中のOL

・ ワイドショーレポーター:男性。報道記者になりたかったけどなれなかったコンプレックスを、葬式会場で解消する日常を送っている。

扇町カナミ:堂山署刑事課のエース。このシリーズの名探偵ポジションの人。


【問題文】

その日はとんでもなく暇だった。交番には二人の巡査が暇そうに座っている。道案内希望のお年寄りも寄って来ないし、落とし物の話しを持ち込んで来る人もいない。長谷川ミチロウはぽけーっとスマートフォンの画面を見つめていた。ミチロウは今期の特撮ヒーロードラマの情報について調べるべくネットサーフィンをしていた。彼は2年目の巡査で、警察学校をでてすぐに配属された堂山駅前派出所にて勤務している。警察に入った動機は好きな『機動警察ロボ ジャンジャカダー』という特撮ヒーロードラマ好きが高じて、警察になんとなく憧れを持っていたからだった。

ミチロウの向かい側に座る先輩で上司の向島ミノルも熱心にスマートフォンの画面へ視線を注いでいた。向島ミノルはミステリマニアで、小学校1年の時に『シャーロック・ホームズ』を読み始め、それから名探偵になることを夢見ていたような男である。彼は探偵業が殺人事件を解決したりするような仕事ではないことを知るまでは、本気で名探偵になろうと思っていた。小説やアニメやマンガの世界とはかけ離れた探偵業の実態を知り、彼は仕方なく警察官になった。なんとしても事件を自分で解決して、名探偵であることを世に認めさせるのが彼の夢であった。

 彼、向島ミノルはスマートフォンのフルセグ機能を使い、地上デジタルテレビでワイドショーを観ていた。

「なあ、長谷川。この殺人事件どう思う?」

「はい? なんすか?」

「お前、知らんのか?」

「いや、その。美少女特撮ドラマ『マジカル少女スマイル』シリーズの情報を漁りに漁っている毎日なので、それ以外のことはあまり・・・・・・」

「お前、何年警察官してんだよ」

「いや、その警察学校含めて二年ですけど」

「お前さ、俺ら警察だぜ。とりあえず・・・・・・・ほれ」

 ミノルは呆れた顔をミチロウにスマートフォンの画面を見せてきた。そこにはどこかで観たことがあるようなゴツイ女性の顔があった。

「この人、なんですか?」

「ああ、あれだ。女子プロレスラーのBB花巻だ。知らんのか?」

「知らないっす」

「お前、昨今のプロレスブームを知らんのか?」

「すいません」

「ああ、もう特撮ばっかり追ってるからだろう。今やホールをお客でいっぱいにするくらい、プロレスブームが再燃しているというのに! BB花巻は女子プロレス界きっての実力者で、悪役の花形をやってるんだ」

「へえ・・・・・・」

「へえ、じゃないよ」

「なんか泣いてますね」

「そりゃそうだろう。親友が殺されたってんで、葬式に来てんだからさ」

「そうなんだ」

 画面を観ていると、BB花巻が涙ながらに男性インタビュアーの質問に答えていた。

「先月あたしが怪我した時、シズコがあたしにこれってお見舞いに来てくれたんですよ。ようやく回復したからって、三人でご飯行こうって・・・・・・」

そんな花巻の肩をだくように共通の友人らしき女性が泣いていた。この女性は花巻の二分の一くらいの大きさに見えるくらい華奢だった。

「先々週会った時は、すごく笑顔で・・・・・・」

「エイコ!」

「花巻!」

 二人は抱き合って泣き出した。

ワイドショーが語るに、事件のあらましは次の通りであった。

 1週間前に師島シズコが行方不明となり、その二日後に夫である師島シロウが行方不明届けをだした。その二日後に不明死体が河川敷で発見された。その不明死体を確認したところ、行方不明届けが出されていた師島シズコであることが判明したのだ。

行方不明当時、夫が警察にかたったことは次の通りだった。

1週間前の土曜日、妻シズコがBB花巻と江国エイコの三人で飲みに行く予定があった。いつもなら自転車でシズコは駅までいくのだが、飲酒があるとのことでシロウが車で駅まで送った。午後4時28分の電車に乗るとのことで、午後4時25分ごろに駅でシズコをおろしたとのことだった。シズコは最寄り駅より1時間程度かかる堂山駅へ向かったのだ。

その夜、シズコは戻らなかったが、BB花巻のリング復帰祝いもあるだろう、明日は日曜だからと朝には戻るだろうと考えたらしい。メールの返信がなかったことやLINEなどに既読がつかないのもいつものことだと気にかけなかったらしい。

 三人で会う当日、江国エイコは見合い相手とのデートがあり、居酒屋直行。BB花巻と師島シズコは先にカフェで会おうということになっていた。花巻の証言では待ち合わせのカフェにはシズコは来なかったらしい。おかしいと思いながら、LINEなどで連絡を取ろうとするが、やはり既読にはならなかったとのことだ。花巻は何かあったのかと思い、シズコの夫シロウへもLINEを送信。シロウからは4時28分の電車で向かったとの返信が来たという。ちなみに遺体発見現場はBB花巻とシズコの待ち合わせしていたカフェの半径1キロ圏内だった。目撃情報は特になく、犯人の目星は立っていない。

その後、スマートフォンの小さい画面には夫の師島シロウが映っていた。

「犯人が観ているかもしれません。犯人へ一言お願いします」

 インタビュアーが遺族に対して残酷な質問を向けた。

「そうですね・・・・・・ぼくの大好きな妻を返してください。返してください」

「お辛いですね」

「辛い・・・・・・そんな言葉で片付くことでは・・・・・・犯人の男がどんなやつか知らないですが、許せません!」

「そうですね。犯人にもし人間の心があるなら、早く出頭するべきです! こんな残虐が行為が許されるはずがありません!!!」

インタビュアーのワイドショーリポーターのドヤ顔が画面にアップされた。

「うちの近くじゃないですか! これ」

 ミチロウは被害者がこの交番近くの駅を利用していたことに驚いた。たしかに行方不明事件や変死事件が起こることはあるが、身近でニュースになるような殺人事件が起こるのは珍しい。

「ああ! なんで俺さあ、今、交番勤務なんだろうな。俺ならもうホシをあげてるのにな〜」

「ええ? マジですか?」

「そりゃそうだろう。なんせ小学校の頃からシャーロック・ホームズに憧れていた俺だよ! 小六の時にはすでに読破していたし、明智小五郎シリーズから金田一耕助だって読破した! 俺の推理力をなめてもらっちゃ困るよ。それにしてもこの犯人はすっげえ残酷だよ。よっぽど被害者に恨みでもあったのかね? なんでも顔をめちゃくちゃにして殺されていたらしい」

「うわーそれは酷い」

「俺はさ、この事件、知り合いの犯行だと思うんだよ」

「えっ? そうなんですか?」

「これは、単なる俺の名探偵的な直感だよ。たぶん・・・・・・あいつだ! うん、きっとそうだ!!!」

「えっ? 目星がついたんですか?」

 そう言って、ミノルはスマートフォンの画面を指差した。



【問題】

さて、誰が犯人でしょう。

犯人の名前となぜその人物が犯人であるとあなたが考えたのかを述べてください。答えがわかったら下へ進んでください。





















【解答編】

「えっ! BB花巻?」

 ミチロウはミノルが指差した人物に驚いた。

「ああ、俺の推理ではそうだ」

「でも、カフェで会えなかったって・・・・・・」

「うん、でもそこがミソなんだよ。本当は会っていたんだ。それに殺人現場はそのカフェより約、1キロほどのところだろう。人のいないところで話しをしたいとか言って、連れ出したんだよ」

「そうなのかな? だって、電車にのって移動したのが午後4時28分でしょ? まあ、移動なんかも含めて午後6時ごろに殺害ですか?」

「いやいや、そうじゃないよ。もうひとりの友人、江国さんがいるだろう? デートで遅れるってな。彼女は19時半頃に居酒屋待ち合わせだったらしいから犯行に及ぶ時間は充分あるだろう。それにあの体格だぜ!」

 ミノルは自信満々にミチロウに言ったのだった。

 その三日後の昼間、速報がニュースとネットで流れた。容疑者として夫の師島シロウが捕まったというのだ。

「ああ! 先輩やっぱり違うじゃないですか!!」

「えっ! ああ、旦那か・・・・・・惜しい」

「惜しいとかじゃないから」

 その日の夕方、警察発表が行われた。警察発表では捜査の経緯を女性刑事が説明した。

「どうもこんばんは。堂山署刑事課の扇町カナミです。本件、容疑者逮捕に至った経緯をお伝えします。

まずは被害者師島シズコ遺体遺棄現場の慰留物をくまなく捜査しました。遺体遺棄場所の河川敷の土の成分と容疑者師島シロウの靴に付着していた土の成分が一致しました。また家宅捜索を行ったところ、自宅内に血痕の反応がありました。そこで、容疑者として被害者の配偶者である師島シロウ氏を逮捕に踏み切りました」

「あのう、あれだけ悲しんでいたご主人なんですけど。どうして家宅捜索を行ったのですか?」

 インタビュアーの男が不思議がった。遺族を疑う余地がどこで産まれたのだろうということだった。

「はい。それについては○×TVが昼間に放送されている番組内で、容疑者しかわからないことを口走ったからです」

「それはどんな?」

「彼はあの葬式の会場でインタビュアーにインタビューをされた時、犯人の男が許せないと言いました。犯人が男性なのか女性なのかはその時、捜査本部でも明確にはわかっていませんでした。なぜ犯人の性別を知っているのだろうとなりますよね? そこで、師島シロウ容疑者が怪しいと考えました」

「先輩・・・・・・」

「ああ、なんかすっげえな。この扇町って人。でも貧乳ぽいな」

「それ、関係ないですよね」

「なんだよ。負け惜しみくらい言わせてくれよ」

 ミチロウはミノルに対してめんどくさいと思い、それ以上なにも言わなかった。

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