20年間 市場でトップシェアを持つNEC
NECと聞くとパソコン、次に折りたたみ式ガラケーを思い浮かべる方が多いのでは無いでしょうか。実際、90年台のパソコンはほぼNECが市場を独占しているような状態でした。PC9801シリーズなどはうっすらと聞いた覚えがあるのではと思います。しかしその後、NECはパソコン事業を中国レノボとの合弁会社にし、その後持ち株の大半を売却しました。携帯事業についてもNECカシオモバイルコミュニケーションズに事業移管したのち、同社を解散しています。かつてNECのブランド力を飛躍的に強めた製品群は既にNECの主力事業ではなくなっています。
しかし、NECは総合電機メーカーな上、ソフトウェアの大手でもあり、ビッグローブを軸としたデジタルマーケティングメーカーでもある為、生き残る方向性への選択肢は非常に多い会社です。ITバブル期に幅広く様々なハードウェア事業、ソフトウェア事業に飛び込んで売上を稼ぎ、バブル崩壊後に事業集約をし続けているのがNECという印象です。また政府系案件にも強く、前職にて政府系案件を担当している部長と交流を深めておりましたが、非常に頭の良い優秀な方が多く、また日本の未来を考えてお仕事をされている方が多いという点で好感をもった事があります。
そんなNECも上述した通り、主力事業の浮き沈みが非常に激しい時期が続いているわけですが、この20年で業界トップブランドの座を維持している製品があります。それは「Aterm」です。Atermはルーターのブランド名になります。詳細は下記のURLからAtermを知る事ができます。
90年台後半、インターネットは遂に高速化の時代が開始され、アナログ回線からISDN回線への移行が進んでいました。そのISDN回線への変換の主役がISDNターミナルアダプタです。そしてその後ADSLや光通信の時代になり、モデム内蔵型ルーターとして発展してきました。NECはISDNターミナルアダプタではほぼ独占市場を確保しており正式な数字は見つかりませんでしたが00年〜1年頃には累計出荷台数が200万台を超えていました。
ISDN向け商品が爆発的に売れていたこともあって、ADSL化への対応が若干遅れ気味な感じもありましたが、しっかりと市場に追いついてその後もNECのブランド力は現在に至るまで健在です。価格ドットコムなどを見ても常に上位にAtermはランクインされています。
一般的にパソコン関連製品というものは価格勝負になりやすい傾向があり、そうなると中国系製品が非常に有利になってきます。実際パソコンではThink Padも中国・レノボ、ゲートウェイも台湾・Acerなど世界のPCメーカーも中国または台湾企業に吸収されています。PC関連製品も安い中国製が世界を席巻しています。その中で、日本において20年間、市場でのトップポジションを確保し続けてきたのは凄い事だと思います。理由は戦略的に色々とあると思いますが、その中の1つあげるとしたら、僕はルーターという「製品が持つ性質」によるものだったと思います。
ほとんどの日本人はネット通信の設定など、今でもわからないと思います。特に通信速度、ポートなどの聞き慣れた単語ですら本当の意味で理解はできてないと思います。パソコンや携帯電話と比べたら設定がとても難しい製品がルーターです。その「設定が難しい製品」という性質を持つルーターを巡り、関係者が非常に上手なマーケティングを展開してきたと思います。
あくまで個人的な意見ですが、NECのルーターを利用する層は以下にわけられると考えています。
A. ISDN時代からの利用者層
ルーターの設定は非常に難しいものです。特にISDN時代は一般人では設定が
なかなかできないほど難しいもので、取扱説明書を何度も読んでやっと理解で
きるレベルでした。
そのユーザーが「ルーター = NEC」というマインドでその後も使い続けて
います。また、ルーターのメーカーを変更するのが怖い、設定方法や機能名を
覚え直すのがストレスというのもあります。
B. 通信事業者とのタイアップによる利用者層
電話回線・インターネット回線事業者にルーターの設定を任せるパターンです。
このパターンでは回線とルーター(モデム)が1セットになる為、電話/ネット
回線業者のタイアップ先に依存します。NECと回線業者の取引契約内容がよけれ
ば回線業者はNECをユーザーに提案し続けます。
C. 情報検索によって購入した層
WEBサイトで自分で確認をして選ぶ層です。この層はNECブランドへのロイヤリティよりも
機能や用途に応じて判断をするので、ITリテラシーは高めの層になります。その意味でも、
NECはハイエンドユーザーからも高い支持を得ています。
Aについては、これは90年代のNECにおける関係社員の努力の結果だと思います。販売戦略を検討してきた営業部門、購入者をサポートするアフターセールス部門、購入者支援ツールを制作するサービス部門が一致団結をしてユーザー支援をしてきた事が、「ファン」となって長期的な愛用に繋がっているのだと思います。当然ながら当時のユーザーは自分で設定をするために相当な労力と時間を費やしていました。取扱説明書を読んだり、コールセンターに電話したりと、そのような経験をほとんどの人が持っていると思います。その為にNECはCD ROMを同梱させ、その中に設定ガイドをインストールしていました。今でいうナビ機能で、ガイドでアニメーションなどを見ながら設定を進めていくという感じで恐らく当時の業界ではNECだけがそのようなナビガイドを持っていたと思います。そのくらいユーザーサポートには力を入れていました。
そして、ルーターの設定というものは自分で設定完了させる事ができると自分に少し自信がつく不思議な装置です。インターネットという世界が今ほどリアルの世界と繋がっていなかった時代ですから、インターネットへの接続完了表示は別の世界の扉を開いた瞬間のような感じがあり、パソコンがインターネットに繋がった瞬間というものは当時では相当の喜びがある時代でした。自分で設定ができた!と最初のあの感動は、その後のインターネットで遊ぶ気持ちの原動力になった人も少なくはないと思います。
つまり、そのユーザー経験がその後、彼らの中で利用ブランドの変更欲求を持たせなかった(邪魔をしてきた)のだと思います。
Bについてはメーカー戦略的なものが多いと思います。インセンティブやプロモーションといったものを通信回線業者に提供をして代理店として販売をしてもらう戦略がしっかりとしていたのだと思います。また代理店側もNECブランドであればユーザーも安心するというブランドイメージもあって販売しやすかったのではないかと思います。
Cについては、これがNECブランドを支えているかもしれませんが、ITリテラシーの高い層が自分で選択する権限を持っているので、製品に真の実力がなければ高い評価をされないゾーンで、そこで評価されているというのが20年間ブランド力を維持し続けてきた理由の1つだと思います。特にITリテラシーの高い層は90年代にパソコンを使い始めた層とリンクしている部分があり、その時代に時間を使って苦労をしながら設定したAの人たちからCの人に成長をした人たちでもあります。
企業を20年継続させる事ですら難しい昨今、20年もの間、ブランド力を運営会社を変更せずに維持し続けるというのは非常に難しい事です。しかもルーターという製品単価がパソコンなどと比較して高くない商品群でNECが20年間常勝軍団であり続けたというのは、意外と世の中には知られていない事実ではないでしょうか。あの大ブームになったSONYのVAIOですら、SONYブランドの下で事業展開ができたのは1996年から2014年の8年だけでした。VAIOはその後、SONYから事業譲渡されSONYブランドから外れました。そう考えても、20年という偉業を成し遂げたNECのAtermの関係者の皆さんには深い敬意の念を抱きます。
最後にAterm博物館と名のついたWEBサイトを紹介します。
それでは今日はこの辺で。最後までお読みいただきありがとうございました。