もじゃのミソジニー女コント
去年のthe Wで廃品回収車のネタをやった芸人さんがいる。もじゃ、という方。ライターの伊藤聡さんがこのネタを絶賛していたので見てみたところ、思いもよらずウルッときてしまった。
もちろん子供の歳を聞く時にも犬の年齢を聞く時にも「型は?」を繰り返すのは笑ったし、ネタ終わりになんやあのオチとフットボール後藤に言われて「西日です」と目を細めて答えてたのにも面白かった。でもやっぱり、恐らく何かしらのDVを受けていた女性に「凄く怯えているね」と声をかけて、助手席に案内するところが何だか凄くウルッときた。この人は彼女を人間として扱ってくれるんだ。そんな、なんだかとても許されたような、救われたような気持ちになった。
他のネタも気になったのでもじゃのYouTubeを見てみたところ、これまた凄いネタがひとつあった。
マツモトクラブにネタを提供してもらったようなのでネタ自体はマツクラが凄いと思う。でも彼女の表現力も相まって何だか凄かった。
ネタの題名は「女っつーのは」。
舞台は駅の改札前で、ピンポーンと改札に引っかかってしまった女性に「また女が改札に引っかかったぞー!」ともじゃが叫び、彼女を呼び止め説教を始める。言うに「改札に引っかかるのは全員女」らしい。もじゃ扮する怒り女は「女」をひどく嫌っていて、所謂ミソジニーというやつだ。「女っつーのは」と頭につけて女性全体に向けて言いがかりを連ねていく。ここらへんの言いがかりパートは聞いていてイライラしてくるくらいミソジニー味が強く、現実もこのコントとほぼ同じトンチンカンな言いがかりが多いからかあまり笑えない。この怒り女は男の事は決して咎めない。ただ褒めるところも「男は歩くのが早い」「ご飯食べるのが早い」くらしいか無いのが面白い。
コントの後半。怒り女のボルテージはどんどん上がっていて、最高潮に達したところで「男に愛されたい…」と呟く。そして怒り女はしょんぼりと肩を下げて呼び止めていた女性を解放し、最後にハッと気付いたように、「夜中に、鼻歌じゃなくて全力で、どっかの知らないバンドの歌を歌っているのは、全員おとこー!」と叫ぶ。ここで終幕を迎える。
この一人コントを見た時、面白いも面白くないも無く、なんか変な物を見たような気分になった。ただミソジニーに染まった女性がぐちぐちと説教するのは見ていて気分が良いものではないし、どちらかというと不快だった。
しかしずっとこのコントについて考えていた。
あの怒り女を、本当に愛してあげられるのは男ではなく、女なんじゃないか、と思う。
きっと誰にもあるがまま受け入れてもらえず、「愛される」に恋焦がれた彼女が、何度かの挫折や屈辱を経て、ミソジニーを内面化していったのだろう。その彼女が改札前なんていう雑踏の中で怒りを発露し、そして本当の欲望をポロリと口からこぼす。男に愛されたい。それからやっと、実は女だけでなく男にも怒っていた事に気付き、叫ぶ。「夜中に、鼻歌じゃなくて全力で、どっかの知らないバンドの歌を歌っているのは、全員おとこー!」。
怒り女よ、もしかしたら怒りの矛先は本当は最初からそちらで、でもそれだとあまりにみじめになるから、ミソジニーになって男と同化して何とか自分を透明にしていたんじゃないかい。もしかしたら、改札に引っかかった彼女と落ち着いてカフェにでも行けば、心が癒されたのかもしれない。自分をずっと苦しめていた価値観を、ちょっとでも崩せたのかもしれない。
目の前に光明が差したように男の嫌なところあるあるがひとつ思いついたラスト、きっと彼女は前に進んだんだ。そんなふうに思うと、少しホッとする終幕だった。
ペラペラの主人公ではなく、彼女には人生があると伝わってくる良いコントだと思った。個人的な希望だけれども、是非ともイッセー尾形路線を目指してほしい。原宿の劇場に見に行きます。
以上です。